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男の娘日本国憲法と鬼子である自衛隊〜交わるのは身体のみ

作者: 葦原瑞穂

憲法は国の最高法規であり、あらゆる法律は憲法の元で作られる。国の諸機関は法律に則り働くので憲法にとって国の機関は子供のような存在だった。たった一つを除いては。

 それは自衛隊、そう発足した時より違憲だと言われ続けて来た組織である。相容れない存在である両者は姿まで似ても似つかなかった。憲法がその性質人間の善良さに対するナイーブな信頼ーをそのまま写し取ったかのような幼く華奢な身体で身に纏うのは純白の、肌が透けるような薄衣のみという出で立ちなのに対し、自衛隊は屈強な体躯を誇り、丈夫な迷彩服に身を包んでいた。

 そんな本質的に相容れない両者が重ね合わせる事が出来るのは身体のみだった。

 ベッドの上、生まれたままの姿を晒しあう両者はお互いについて決して理解されないだろう思いを巡らせた。(服の下には皆同じ人間の身体があるのにどうして殺し合うの?。)そう思うのは憲法だ。彼の何十年を経ても瑞々しく未成熟なままの肌に、自衛隊の過酷な訓練と任務で硬くなった手が触れる。大嫌いな武器を数え切れない程扱ってきた筈なのにその手に確かな暖かさと優しさを感じ取り、それがかえって彼の心を悩ませる。(なんでこんな暖かな手で人を傷付けるの。武器なんて何も生まないのに。)

 自衛隊は彼を逞しい腕で抱きしめた。彼の顔が自衛隊の広い胸に埋まる。彼には、忌むべき戦争の匂いがして本来拒絶すべきなのに胸に抱かれているのは心地よくそしてとても悲しかった。彼は自衛隊が憐れでならなかった。殺したり殺されたりするのがとても嫌いな彼は、自分の下で人を傷付ける武器を持ち、自らの命を危険に晒している存在を受け容れられ無かったのだ。こんな気分はまやかしだと思おうとしたが、出来なかった。彼は彼なりに自衛隊の事を思っていたのだ。彼がそうしている時、自衛隊も、儚げな憲法の身体を抱き、彼の事を思っていた。(この子は、世界に危険極まりない場所が、残虐行為を平気で行うような輩が山程存在する事は思いもよらないんだろうな。毎日、不当な迫害に遭う人も。思いもしないんだろう。この平穏な日々がどうやって得たものか。嫌われても護らなければ、例え軍隊ではないおもちゃの兵隊と言われても。)この自嘲は自衛隊関連の法整備が整って居なかった一昔前ならはそのまま真実だったろう。その頃防衛関連の法律と言えば所謂防衛二法位でそれだけでは有事の際、私有地である海岸を接収し防禦陣地を作るのも、野戦病院の迅速な設置をする事も出来なかったからだ。否ある程度法整備が進んだ今でもある意味ではおもちゃの兵隊という自嘲は正しかった。自衛隊は軍隊では無いという事に国内ではそうなっている。なのでその構成員も当然軍人とは見做されない。だから勲章を貰う事は稀で貰った時は既に退官している事が多く、そんなに良い勲章でもない。然し諸外国に行けばそれぞれ祖国の勲章に胸を飾られた各国駐在武官の中、母国日本の勲章が胸にない防衛駐在官はさながら本物に紛れ込んだおもちゃの兵隊であった。

 バラバラなお互いの心を置き去りにして二人の身体は交わる事を求めていた。この先憲法が改正されても、自衛隊が憲法に合わせ災害救助隊等になっても二人の関係は変わるだろうがそれは仮定の話、今この二人に有るのはお互いの身体と快楽をを貪る事だけだった。

 ひとしきり交わった後、床から立ち去ろうとする自衛隊を引き留めようと憲法は細い腕に精一杯の力を込める。然し彼の全力を自衛隊はいとも容易く振り払った。 「行かないでっ…お願い。」「一体どうしてこのような事を…もう鳥が鳴き始めました。日も直に昇ります。帰らなくては成りません。」そう言いながら自衛隊は迷彩服を着始めた。 「そんな服着ないでよっ。」竹取物語で天人の衣がかぐや姫の人間らしい感情を奪ってしまったように、迷彩服がこの暖かい手の持ち主を残酷な殺人者或いは冷たい死体に変えてしまうかも知れないと彼は恐れていたのだ。言われた方の自衛隊は少し機嫌を悪くしていた。迷彩服は自分が何者であるか示すものであり誇りでもあったからだ。 「この服は常に、私に使命の重さを自覚させてくれます。。そんな等とは言わないで下さい。」 「そんなの…そんなのっ人殺しの為の服じゃないか。いつか災害救助の服に身を包んだ姿が見たいよ。」 「…そうですか、矢張り分かり合えないのですね。」

 こうして喧嘩別れをした後憲法は改組され災害救助隊として生まれ変わった自衛隊の姿を夢見た。そうなれば今と違い、何の悩みも無く抱かれる事を喜べるだろう。自衛隊はその頃、何時の日か迷彩服ごと憲法に抱きしめられたいと思っていた。

体格差カップルはいいな。

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