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1 ヤク中になった最愛の女性へ

テンプレやお約束。聖書、教科書等の倫理観が捨てられない方の閲覧はご遠慮ください。

水が落ちる音が聴こえる。

薄暗い空、湿った空気、不規則な雨音を感じながら、少女は小綺麗な明るい部屋から外の様子を眺める。

「雨」

ポツリと呟いた少女は興味を無くしてカーテンを閉めると、手に持っていた物を口にして、すぅーと息を吸う。

「すっ……ふぅー……」

ゆっくりと肺に取り込んだものを、ゆっくりと体外に吐き出す。

吐き出された物は煙。ゆらゆらと燻らせる。

やがて吐き尽くされれば、少女の体内から煙は無くなる。

無くなるから、再び手に持った物を口元へと運んで、吸い込む。同じように存分に肺を煙と自己満足で充たしていく。

やがて、興味も無いのに学校の図書室で借りた本を見ながら。

面白くも無い流行りのアプリを開きながら。

「すっ……ふぅー………」

???を吸っている。

「ーーアハッ!」

目眩がする。平行感覚が失われる。削れていく。知性が。理性が。倫理が。

「ーーアッハハハハハハハッ!!」

暫くして、少女の意識が《《トン》》でいった。

「キャハハハハハハ!!!」

その声は、家中に響き渡る。外に伝わらない事だけがせめてもの救いだ。

だが、下の階のリビングに居た家族の少女には、しっかりと届いてしまう。

「…………あの子、またアレをやっているんだ。」

もう一人の少女は、二階に上がろうと階段に足をかけた。

すると。


ピンポーン。


家のチャイムが、少女の足を引き留めた。

「……………どうしよう。今出たら確実にあの子が気付かれる。」

今例えインターフォンでも、応対すれば間違いなく、上の階で狂っている妹の声を聞かれる。

だが、居留守を使うのは少女の倫理観が拒む。

少し考えて、少女は腹をくくり、敢えてドアを開けて対応することにした。

(学生の私が出て行けば、多少躾の悪い姉妹が騒いでいると考えて貰えるかもしれない。)

「不審者なら……」

傘立てに常備してある木刀を確認すると、ガチャリ、とドアを開ける。

すると……。

目の前に、同じ年くらいの少年が立っていた。

茶髪の髪、耳にはピアス。その他アクセサリーが目立つものの、服装その物は大人しいシャツとジーパン。

そして、傘も刺さずにずぶ濡れだった。

「どちら様ですか?」

警戒心を抱きながら少年に問う。雨の日に傘も差さずに訪ねてくる知人でも無い人間。不審と思うには充分だ。

だが、男からの返答は、そんな常識が吹き飛ぶほどに非常識なものだった。


「俺は、生き別れの姉弟だな。」


開口一番そう語る見ず知らずの男に真っ当な感性を期待することなど出来るはずもなく、少女は自然に、かつ悟られぬように傘立ての木刀に手を掛ける。

「生き別れの姉弟ですか。初耳ですね。

父からもそんな話は聞いていないし、家をお間違えでは?」

「それはない。記憶の通り、この家はここに建っているからな。」

「そうですか。けどあいにくですけど、私は貴方のことは知りませんね。」

「そいつはアンタの頭の出来に問題がある。

少なくとも、俺は10歳までここに居たし、アンタのことも覚えてる」

その遠慮の無い物言いに、少女の方もこれ以上の礼節を不要と判断し、通常通りの言葉遣いに戻っていく。

「……随分失礼な奴だ。

仮に君が、兄でも弟でも、仲良く家族になれる自信が湧かないな。」

「その必要も無い。用が済めばこちらから失せる。

好き好んで、捨てられた家に足を運んだ訳じゃ無い。まして、家族など…」

「ほう?ではその用とは?

こんな天気に傘も差さずに、元自宅に来る辺り、よほど急ぎの用なのだろう。おもちゃの忘れ物でも取りに来たか?」

次第にイライラとし始める少女の頭は沸騰し始めていた。

だが、次の男の言葉を聞いて、頭が冷えて沈静化する。


「ああ。急いでいる。なにせ、薬物でラリっている妹を助けに来たんだからな。手遅れ(オーバードーズ)になっては困るんだ。」

そう言うと、少年はドアを開き、あっと言う間も無く、迷わず階段を上っていった。

「お、おい!勝手に入っていくな!!不法侵入だぞ!?」

少女の静止の声を無視して、一直線に歩み寄る。2階に上がってから見える4つの部屋の内、左側奥の扉に。

「…………。」

ガチャリ。迷いもなく扉を開け放った男の視界に、未だトンでいる少女の姿が入ってきた。


「あはははは!あはははははははは!!!!」


見つめている。少女の有様を。

記憶にあった、緩くウェーブの掛かった桃色の髪は、今はボサボサで、腰まで伸びているがゆえに、獣のような印象を受けた。

ぱっちりとして綺麗な瞳も今はどんよりと濁って暗い。


「…………。」


「おい!その子に近づくな!今は危険だ!!」

男は構わずに、少女が手に持っていた物を一瞬の内に取り上げた。

「確かに危険だ。《《こんな物》》を吸っていて、こいつが安全なわけがない。」

「ア……」

少年にキセルを取り上げられた少女は、ピタリと笑い声を止めて、虚ろだった視点を男に合わせた。

「ソレ……返セ………」

男に手を伸ばす。いきなり襲いかからない辺り、まだ理性が僅かに残っているのか。だが

「断る。」

男の言葉に、少女の理性は千切レタ。

「ワアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァーー!!!!」

「っっ!?よせ、止めるんだ!《《唯》》!!きゃあっ!?」

少女の金切り声に呼応するように、グラグラと揺れ出してミシミシと壁が軋む。

子供部屋を思わせる可愛らしい壁紙には、亀裂や爪痕が走り、既に破壊された後のテレビやラジオなどは火を吹いている。

「唯!!やめろ!!」

「アアアアアアアアーーー!!!!」

「あぁ。変わらないな。

昔、俺が祭りの屋台で取ってやったオモチャの指輪を変な女に取られそうになった時も、そんな感じだった。」

常識では計り知れない現象に見向きもせずに、ただ叫ぶ少女を、少年は愛おしそうに見つめた。

「唯!!唯!!

お願いお姉ちゃんの言うことを聞いて!!唯!!」

「………………。」

愛しい少女を抱きしめに行くように、優しい表情をしながら、男はゆっくり近づいていく。

「アアアアアアアアーーー!!!!」

近寄るな、これ以上寄るな!!言葉にならない絶叫に籠もった意思を無視して近づく。

そしてーー

ふわり。男が手に持っていたキセルが宙に浮いた。

「え…?」

「アァ……?」

「唯。俺は戻ってきた。昔の約束を果たすために。」

「アア……??」

言葉にならない何かを呻く唯のカラダを、少年は抱き寄せる。

少しずつ、揺れが治まっていく。

「嘘……唯が、元に戻っていく……」

信じられない物を見た姉は、驚愕のあまり腰を抜かして崩れ落ちた。

「約束、覚えてるか?唯」

「やく……そく……?」

「唯が、大人しくなった……」

唯のボサボサの頭を撫でながら、少年は言の葉を紡ぐ

「唯、病めるときも、健やかなときも、俺はお前を愛し続ける。

血が繋がった兄妹なんだから、絆の繋がりも永遠だ。

だからーー」

その言葉の続きを、少女が語る。

「わた…しが、一生、お兄ちゃんの、一番…………………好きな、女の子。」

ふっ、と柔らかな笑顔を浮かべる。2人の男女。

「「だからいつか、結婚しよう。」」

「会いたかったよ唯。」

暗く濁った瞳に、ほんの僅かに光が宿り

「わ、たしも…………私も、ずっとずっと会いたかったよ………離人(りと)くん……。」





…雨が降っている。

強く、強く。段々激しく。

人は誰も歩いていない。

その場所には只独り、黒い傘を差した白衣の男。

「………………。」

その手には、透明なパックに入った、乾燥した植物。

「……ようやく出たのか。迷いの森の生還者が。

長かったなぁ…やっと始まるのか。

フフッ!フヒヒヒヒ…!!」





男が奇妙に笑う頃。

好きな少年の胸の中で、気が触れた少女は安らかに寝息を立てる。

「すぅ……すぅ………」

離人は、そんな唯を愛おしそうに抱きしめ、そっとベッドへ寝かせ、その横に座る。

それまで様子を見ていた少女は、再び少年に声を掛けた。

「なあ、聞いても良いか。生き別れの…キョウダイ?

唯はキミのことを知っているようだったから、確認したいんだが……まず、キミは唯の兄なのか?」

少年は、唯から視線を外すこと無く、少女の問いに答える。

「肯定だ。俺と唯は、紛れもなく血の繋がった兄妹だ。」

ボサボサの髪の毛を撫でながら話す少年の唯を見る目は、とても血の繋がった妹に向けるようなものではない。

「それはつまり『私の兄でもある』ということになるのか?」

「否定する。アンタと唯は、血の繋がった同い年だが、双子じゃない。

俺と唯は兄妹だが、アンタと俺は弟と姉となる。」

「…………頼むから嘘だと言ってくれないか?ソレを信じると言うことが余りにも受け入れがたい。

唯の兄だと言うことは、もう信じるから……」

自分の同い年で双子じゃない妹に、血の繋がった兄がいて。

自分と血の繋がった同い年の妹の兄が、自分の兄では無い。

これが意味することは…………

「俺達3人は、それぞれが『同い年の異母キョウダイ』だ。」

「それじゃあ、父は母が妊娠する以前から、三股していたことになるじゃないか………」

少年はベットから腰を上げて、唯の本棚の中にある分厚い本を取り出し、ページをめくる。

「その動揺の理由が、俺には分からない。

あれから何年経ったのか、今の俺にはもう分からないが……ん、カレンダーを見るに七年か。俺は今17か……。

とにかく、たった七年で、何故弟の存在を忘れられるんだ?

一度頭の中を診て貰った方が良いんじゃ無いか?知り合いの医者を紹介しようか?無免許だが」

言いながら、本の頁を少女に見せる。

「アルバム……。これは、私達と男の子の3人写真……?」

「唯が趣味で撮ったものだ。あの時、小遣いなんて望めないゴミ親父を見限って、俺とアンタで外で稼いで買ったカメラ。

それで撮った写真だ。

俺はアンタを覚えている。アンタは本当に、俺を忘れているのか?留里(るり)

「私の名前まで知っているのか………けど、分からない。キミが誰なのか…分からないんだ」

これまでに無い動揺が、彼女の気持ちを揺さぶった。

少女の名前はーー逆上 (さかがみ) 留里(るり)

母親が二人いて、同い年で血の繋がった腹違いの妹がいて、普通とは少し離れた家庭事情を抱える女子高生。

そんな彼女は、また一つ、自分の環境が普通ではない要因に出会った。

「ところで………………キミの、名前は?」

「俺は離人(りと)白夜(びゃくや) 離人(りと)。アンタより何ヶ月か生まれの遅い弟だ。その出来の悪い頭に記憶し直しておいてくれ。

唯に会いに来るたびに忘れられていたら、説明が面倒だからな。」






(生き別れの実弟が突然現れた。どうやら実妹と結婚するつもりらしい。頭が追いつかないので誰か私を助けてください。)


そんな留里にできることは、ただの現実逃避だけだった。


血の繋がった妹を、異性として見た少年。

狂ったのは捨てられたからか?

元よりの資質か?


作者が中学の頃に初めて書いた作品は、実の妹や姉との気の狂ったラブコメでした。

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