表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【文庫化】信長と征く 転生商人の天下取り  作者: 入月英一@書籍化
三章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

81/109

信長は空気を読まない

 ――浅田屋 岐阜支店



「難所は乗り越えた。まだ課題は残るが、それも同様に乗り越えられるだろう。その筈だ。だが、しかし……」


 俺はポツリと呟く。

 縁側で胡坐をかきながら、庭先を見るともなしに見続ける。


 ……嫌な予感が拭えない。ずっと、ある恐れが頭から離れないのだ。そんな非科学的なことが、起こるわけもないだろうに。


「杞憂だ。馬鹿らしい」


 もう何度目かも分からぬ否定の言葉を吐く。

 すると、冷たい風がふっと吹き抜けた。庭の木の枝から、何枚かの葉が剥がれ空を舞う。


「木枯らし、か……」


 俺の意識は、内面から外界へと移る。

 秋も深まってきた。じき、冬が来る。己の体が冷えているのに、今更ながら気付いた。どれだけ、縁側で呆けていたのやら。


「あー、あー」


 不意にそんな声が聞こえる、身を捩り振り返ると、幸を抱いた於藤が歩み寄ってきている。

 幸はというと、舞った木の葉の一枚を掴もうと、於藤の腕の中から精一杯手を伸ばしていた。


 俺はくすりと笑う。


「どれ、とと様が取ってやろう」


 よっと、舞う木の葉の一枚を掴むと、幸の小さい手に握らせてやる。


「あー! あー!」


 たったそれだけのことでご満悦のようで、その様を見ていると、赤子は悩みが少なくて羨ましいなあ。なんて、おっさん臭い感慨に耽る。

 まだ若いはずなんだがなあ。思うに、信長に日頃気苦労をかけられてばかりいるせいだ。そうに違いあるまい。


「思索はお済ですか、旦那様?」

「うん……」


 俺は生返事をする。於藤は肩を竦めた。


「ずっとその調子でいらっしゃいますね。……もうこの時期です。今年はじき戦仕舞いとなりましょう。この前のような大事が、そう起きるとも思えませんが」

「その通りだが、じっとしているのは、どうも落ち着かなくてね」

「先月までずっと方々を駆けずり回られて。足の裏の豆を潰したと音を上げておられたのは、つい先日のことですよ。……はあ。幸、あなたのお父様は、何だかんだと言いながら、織田様に扱き使われる日々が恋しいらしいですよ。天邪鬼なことですねえ」


 於藤は溜息を吐くや、幸にそのように語り掛ける。

 俺はむっとして言い返す。


「織田様に扱き使われて敵わんのは、本当のことだぞ」

「なら、少しくらい休んでお体をご自愛下さいませ。またすぐにも、織田様からの下知があるのでしょうから」


 俺はがしがしと頭を掻く。


 確かに於藤の言う通り。休める時に休んでおかねば。

 今はその絶好の機会といえよう。


 じき冬が来る。どこの大名も、戦仕舞いをし出すころだ。短期的な小競り合いなら、まだ戦を仕掛けるゆとりもあるが……。

 織田領の近隣に、織田に仕掛けられるだけの勢力が存在しない。


 先だっての坂本合戦で、浅井朝倉は散々に打ちのめされ、暫く軍事行動なぞ出来る余裕はない。

 比叡山を焼き払った後、信長は返す刃で三好本願寺も蹴散らした。

 三好は四国へと逃げ帰り、本願寺勢は石山の本拠に引き籠っている。やはり、攻め入ってくる余裕はないだろう。


 警戒すべきは、武田だが……。

 この武田は、八月に徳川と先を争うように今川領へと侵攻をしたばかりだ。

 死に体の今川が、武田徳川両雄に抗しきれるはずもなく、今川領は絶好の狩場と化しているらしい。

 駿河は武田の手に落ち、遠江も大半が徳川の手に落ちたと伝え聞く。


 今川氏真は、遠江の掛川城に籠城しているらしいが、最早時間の問題だろう。

 戦国大名としての今川氏は今まさに滅びようとしている。

 

 駿河を落とした武田は、一応手が空いてはいるが、疲れも取れぬ内に連戦とはいかないだろうし。

 何より、武田領から織田領は遠い。今から戦を仕掛けて、冬までにケリがつくはずもなく。


 ならば、今が一息つく時、か。


「ありがとう、於藤。そうだな、今は暫し体を……ん?」


 ドタドタと、廊下を走る音が近づいてくる。

 嫌な予感がする。於藤は『あらまあ』と言い出しそうな顔立ちを浮かべた。


 家人が駆け込んで来るや、堰を切ったように喋り出す。


「旦那様! 織田様より使いが! 急ぎ登城せよとのことです!」


 空気読めよ、信長。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。


3月15日、講談社文庫版1巻、2巻、同時発売!
以下の画像をクリックorタッチで特集ページに飛ぶことが出来ます!


ji6mlm4hggrajm2zh3cc6x8acbhm_9tf_160_1nqji6mlm4hggrajm2zh3cc6x8acbhm_9tf_160_1nq
― 新着の感想 ―
[良い点] 第一次織田包囲網は大体崩せましたな、とりあえず第二次が来ることを伝えておかねば。 [気になる点] そういえば、武田の米で思い出したけど、メンデルの遺伝の法則を使って最低限不味いけど耐寒性の…
[良い点] 更新お疲れ様です。 [一言] うん、まぁ、その為の兵農分離だし…みたいな? 問題は何処を責めるか。それ次第かな。
[一言] このまま、何年も引きこもる本願寺に付き合ってたら、折角進めた時計の針が帳尻会わせされてしまいますから呼び出されるのは必然ですな。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ