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【文庫化】信長と征く 転生商人の天下取り  作者: 入月英一@書籍化
二章

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53/109

良き好敵手

 京の六条にある本圀寺が、義昭の当面の仮御所として宛がわれていた。

 信長率いる上洛軍も、本圀寺やその周辺の寺などを間借りしている。今日俺が訪ねたのもそんな寺の一つ。信長が現在逗留している寺であった。


 さて、浅田屋美濃支店にかかりきりの俺が何故京にいるのか?

 無論、信長に呼び出されたからに決まっている。


 飛脚が店に飛び込んできたかと思うと、その手には信長からの文があったのだ。

 文面は唯一行――『至急参上せよ』のみ。


 岐阜城に在ってこれをするなら許そう。

 が、京からこれはあんまりじゃないだろうか?


 しかし文句を言えるわけもなく、至急と言われたからには、急ぎ出立の準備を整えて弥七ら数人の護衛と共に京へと馳せ参じたわけである。


 京に着くや、宿で湯を借り旅の垢を落としてから、信長の元へと先触れを送る。

 よし! 返事があるまでゆっくり休もうか、と思うも、迅速な行動力に定評のある信長は即返事を寄こした。

 中身は言うまでもなく『至急参上せよ』である。

 

 はああ、と溜息を一つ零すと、旅装から正装へと着替える。そうして、疲れた体に鞭打って宿を出た。


 信長が逗留しているという寺に向かう道すがら、街の様子を眺める。

 通りには多くの人が行き交い、連なる店々からは威勢の良い声が飛ぶ。

 一見するに活気に溢れているし、人々の顔に不安の色もない。


 これは義昭や信長らが、京の人々に受け入れられている証左であろうか? 少なくとも、強い反発心は持たれてはいないようである。


 そんな観察をしながら歩いていると、ほどなく目的地に到着する。

 寺の門前に見知った顔が立っていた。


「明智様!」


 名を呼びながら、彼の前まで進み出る。


「おお、よく参った、うらなり殿」


 光秀は満面の笑みでそのように返してくる。

 はて? どうして光秀が、信長の付けたあだ名で呼んでくるのだろう?

 内心小首を傾げる。


「私が殿の下まで案内しよう、『うらなり』殿」


 もう一度うらなりと呼んでくる。しかも先程よりやたら強調して。それに、『殿』付けも何ともわざとらしい。


「……ありがとうございます」


 嫌な予感を覚えるも、取り敢えず礼を言っておく。

 光秀はついて来いとばかりに歩き出した。俺はその後に続いた。


 暫く互いに無言で境内を歩く。ふっと、出し抜けに光秀が口を開く。


「そう言えば、先日私も殿にあだ名を付けてもらってな」

「はあ……」


 生返事をしながらも、脳内に警鐘が鳴り響く。


「急に私のことを『今通古』とお呼びになって……。堪らぬあだ名だから、今通古は勘弁して下さいと申し上げたのじゃ」

「はい」

「すると、『今通古』か『金柑頭』か好きな方を選べと仰る」

「ええ」

「まさか、まさか、『今通古』を選ぶわけにもいくまい?」

「そうでしょうとも」


 光秀はぽんぽんと己の頭を叩く。


「はは、全く困ったあだ名を賜ったものだ!」


 笑いながらそう言うが、目が全く笑ってないんだよなあ。

 止めてくれ、冷え切った目で俺を見るのは。俺は何も悪くない。

 というか、門前で待ち構えていたのは、この恨み言を言う為だったのか。


 ったく! 信長め! 順調に本能寺ファイヤールートを辿ってるじゃないか!


「……申し訳ありません、明智様」

「いやいや、『大山』は何も悪くないとも」


 鬱憤晴らしも済んだのか、『うらなり殿』呼ばわりから、元の『大山』呼びに戻る。


「大山、そちらの部屋で待つといい。直、殿もお越しになるじゃろう」

「はい。御案内、ありがとうございました」


 光秀は踵を返して去っていく。

 俺はじっとその後頭部を眺めた。……なるほど、金柑頭か。


 俺は案内された部屋の下座に座る。

 ほんの少し待っただけで、例のドタ、ドタ、ドタ! という足音が響く。

 慣れてくると、ああ、信長が来たなあと、心構えが出来て良いかもしれない。


「来たか! うらなり!」


 俺は平伏する。


「ええい! 頭を上げよ! よう来たな、うらなり」

「はい。『至急参上しました』」


 恨みがましく、文面をなぞった口上をしておく。すると、信長は大笑した。

 ……ふむ。機嫌は悪くない。むしろ相当良い。

 さもありなん。ああも見事な快進撃で上洛を果たしたとなれば、それはそれは機嫌も良くなろう。


「もしや間に合わんかもと思ったが、何とか間に合ったようで何よりじゃ。本当によく駆け付けた。褒めて遣わすぞ、うらなり」

「間に合った、ですか?」


 俺の疑問の声に信長が頷く。


「うむ。実は、堺の商人どもがワシとの面会を求めて京に来ておる」

「堺の商人たちが? 上総介様が呼びつけたのですか?」

「いや……」


 信長は首を横に振る。


「ワシが入洛してそう時を置かずに、堺からの使いが来た。ワシとの面談を求めてな……。それで、うらなりの元に文を寄こしたのよ」


 堺から、信長に接触を図ってきた? それもこんなにも素早く?


「うらなりたちを見ていれば、商人が機を見るに敏なのは分かる。が、ワシが言うのもどうかと思うが、現時点で擦り寄るのは時期尚早に過ぎよう」


 確かに信長の言う通り。

 織田軍が上洛を果たしたとはいえ、三好三人衆を筆頭に、信長に逆らいそうな畿内の勢力は未だ健在。

 ここからどう転ぶかなぞ、まだまだ分かるものではない。神か、それこそ俺のような嘗てあった歴史を知る者でなければ。


「堺の者たちは、こちらに向かっているところですか?」

「いいや。二日前に京に着いた。ワシとの面会は数日待てと引き延ばしておった所じゃ。……流石にこれ以上引き延ばせぬと思ってたところに、うらなりが間に合ったわけじゃ」

「手前を待っておられた? それは手前も面会の場に同席せよ、ということでしょうか?」


 信長が頷く。


「うむ。ワシも烏どもとの付き合い方は分かってきたが……。それでも尾張・美濃の烏と畿内の烏とでは、多少毛色も、もとい羽色も異なろう。上手く連中の狙いが見抜けぬこともあるやもしれん。ならば、いっそ子飼いの烏を同席させようと思っての」

「なるほど……」


 俺は思わず苦笑する。


「それで、堺の烏どもとの面会は明日辺りになりましょうか?」

「いや、今日じゃ」

「は?」

「うらなりからの到着の報せを受け取ってすぐに、堺の烏どもにも面会に来るよう使いを出した」


 ……なるほど、ならば堺商人たちも俺と同じ目に遭い、慌ただしく面会の準備に追われているというわけだ。ご愁傷さまだな。


「うらなり、連中の此度の狙いは何だと思う?」

「さて、上総介様が如何なる御仁か見ておこうと思ったか。あるいは、『もしも』上総介様がこのまま畿内の実力者になられた時の為に、顔つなぎ『だけ』はしておこうと思ったか」

「ふん。やはりそんなところか。抜け目ないことよ……」


 信長が鼻を鳴らす。俺は再度苦笑して見せた。


「殿!」


 俺たちの会話が途切れた丁度そのタイミングで、信長を呼ぶ声が響く。


「何じゃ!?」


 信長の声と同時に、どこか困惑したような信長の小姓が現れた。


「堺の商人がやって来たのですが……」

「――? やって来たからどうした? ならばここに通せばよかろう」


 単に堺の商人たちの来訪を告げるには、小姓の様子がおかしいので、信長が怪訝な表情を浮かべる。


「それが、何人もの人夫に引かせた荷駄を伴っていまして。殿への献上品だから、殿の御前に運び込ませよ、と言うのです」


 俺と信長は互いに顔を見合わせる。


「……許す。堺商人の良いようにせよ」

「はっ。畏まりました」


 それから、人夫たちが代わる代わる、部屋の一番下座に大荷物を運び入れていく。

 その後に六名の年配の男たちが現れる。揃いも揃って上等な着物を身に纏っていることから見て、彼らが堺の実力者たちであろう。

 一同は運び込んだ荷物の前に揃って座すと、平伏した。一人先頭に座った男は、俺の見知った・・・・顔である。


「……面を上げよ」


 信長の許しに、揃って顔を上げると、先頭に座った男が口を開く。


「織田上総介様、本日は拝謁の御名誉に賜り恐悦至極。手前らの忠誠心を示さんと、献上品をこれに」


 そう言って、手振りで背後の品々を示す。


「天下に大号令を掛ける御仁にこそ相応しい品々をご用意いたしました。織田様がお命じになられるなら、矢銭の支払いにも応じましょう」

「天下に大号令を掛ける……新たに将軍職を拝命なされた公方様への献上品ということであるか?」

「申し訳ありません。お答えしかねます。それがどなたなのか、ハッキリと申し上げるのは憚られます故」


 それらが、将軍義昭への献上品であるのなら、明言することを憚ることもあるまい。

 信長も当然それに気付いて、にやりと笑む。


「うらなり! 堺の烏どもは、思っていた以上に利口のようじゃな!」

「そのようで」


 俺は笑みもなく、堺商人を代表するように口上をした男の顔を見る。

 あちらもこちらを見返してきた。


「大山さん、遅ればせながら、私も夢を共に見ようと思います」


 そう言うと、男は落ち着いた声音とは相反する凄みのある笑みを浮かべた。


 ……この短期間で、海千山千の商人たちを説き伏せ、信長に与すよう堺の総意をまとめ上げたのか。

 これが、これが戦国時代で最も名高き商人の一人、今井宗久か!


 好ましい展開であるはずなのに、恐るべき手腕を見せつけられ背中に嫌な汗をかく。

 全く、とんでもない男じゃないか。

 焚き付けた俺が、この男の内から溢れ出す炎に飲み込まれては格好がつかない。

 負けてられねえな……。


「ええ。共に夢を追いかけましょう」


 心を奮い立たせながら、こちらも笑みを返して見せた。

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