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異世界防衛白書  作者: Luciferius
第1章 海風間島探索
3/4

敵襲

日が傾き始めた空、開け放たれた窓の近くにその男は座っていた。

黒い髪と赤い瞳、頭部には羊を思わせるような角が生えている。

髪の色と同じローブを身に纏い、男はブツブツと呟きながら魔導書にペンを走らせていた。


「ふむ・・・これで良し。」


男は魔導書を閉じ、表紙にペンで自らの名を記した。


『アルシエル・ニア・レーヴァテイン』


筆跡が光を放ち、表紙に深々と名前が刻まれる。

そしてその魔導書を机の上に置き、すっかり冷めてしまった紅茶を一気に飲み干した。


「さて、可愛い弟子の様子でも見に行きましょうかね。」


アルシエルは机に置いてあった眼鏡を掛け、開け放たれた窓からベランダに出る。


『Drago tolem maht』


そう唱えるとアルシエルの身体が一瞬で黒く禍々しい姿をした竜へと姿を変えた。

日の光に当たった鱗が黒い輝きを放つ。

アルシエルは城内の者達に出掛ける事を知らせるように空を仰ぎ見て大きく咆哮した。

咆哮に驚いた森のカラス達と共にアルシエルが上空へと舞い上がる。

そしてそのままアルシエルは空の彼方へと飛び去って行った。





「着いたよ。」


島村が運転席から降り、荷台の方へ回った。

青龍も同時に降りて一目散に亀裂の方へと駆け寄る。


「うわっ、こんなでっかい裂け目見たことないぜ・・・」


そう言うと彼は亀裂の中を注意深く観察し始めた。


「これはアルシエルに調べてもらわないとな・・・」


「青龍君・・・?」


青龍が振り向くとそこに宮本が立っていた。


「何だよ。何か用か?」


「部隊長に報告したいんだけど一緒に」


宮本が言いかけた瞬間、けたたましいサイレンの音が島中に響き渡る。

隊員達が何事かと行動を止めて辺りを見回す。


「敵襲だ!10分以内に陸軍基地へ避難しろ!急げ!」


宮本は青龍のその言葉を聞き、彼のただならぬ表情を察して「乗車ーっ!全員乗車ーっ!」と叫びながら本部へと走って行った。

その間に青龍は分厚い魔導書のような本を開き、詠唱を始めた。

すると先程まで目の前に存在していた亀裂が上部から光の文字に姿を変えてゆっくりと本へ吸い込まれていく。


「青龍君!君も一緒に!」


青龍を避難させようと宮本が戻る。

しかし青龍は魔法陣から刀を取り出し、宮本と自身の間を隔てるように地面に突き刺した。


「青龍・・・君?」


丁度詠唱を終えた青龍は本を閉じ、宮本に投げる。

宮本は咄嗟にキャッチして困惑した顔で青龍を見た。


「ここは俺が守る。あんたはそれを持って早く陸軍基地へ行くんだ。」


青龍は何かを決意した表情でそう言った。

そして地面に突き刺した刀に向けて詠唱し、島を分断するように結界を張る。


「行け!間に合わなくなるぞ!」


宮本は唇を噛みしめて頷き、トラックの方へ走って行った。

そして乗り込むのを確認した青龍は彼らに背を向けた。


「大丈夫、俺なら出来る・・・」


自分の心を落ち着かせるように呟く。

その刹那、青龍が張った結界に青白く光るレーザービーム砲が撃ち込まれた。

前方の上空を見ると、空間の裂け目から巨大な空中戦艦が姿を現していた。


「やっぱりな・・・フィルディノ軍か。」


空中戦艦が完全に裂け目から出ると、甲板に人影が現れた。その人影は地上に生身で飛び降り、地面が陥没する勢いで着地した。青龍は咄嗟に魔法陣からアサルトライフルを召喚して構える。照準をしっかりと男に合わせトリガー付近に人差し指を置く。


飛び降りてきたのは黒いタクティカルスーツを身に纏い、暗い赤色の髪を肩まで伸ばした男だった。

年齢は三十代くらいだろうか。色黒で掘の深い顔立ちをしている。

背中をよく見ると刀が装備されていた。

男は青龍にゆっくり歩み寄りながら鞘から刀を抜いて、20mくらいの距離まで来るとそこで止まった。


「久し振りだな、坊主。あの時以来か?」


「あの時とはどの時だ。」


男が言うと青龍は低い声で返す。照準は男を捉えたまま、動かさない。


「ありゃ・・・俺の事、覚えてないの?」


「ちょっと、クロード!?早くそのガキ倒しちゃいなさいよ!」


戦艦から拡声器を介して女の声が響く。クロードと呼ばれた男はイライラした表情で舌打ちをした。


「あんたの事は軍の情報やら何やらで知ってる。だが、あんたと対面したのは初めてだ。」


青龍がそう答えるとクロードはニヤリと顔を歪ませて笑う。


「だよなぁ!?覚えてないよなぁ!?だったら俺が思い出させてやるよ!!」


クロードはそう言って青龍に斬りかかるが、青龍はひらりと攻撃をかわしてクロードの体に銃弾を撃ち込んだ。

しかし、その銃弾はタクティカルスーツに弾かれてしまった。


「我が軍特製のスーツは、お前の豆鉄砲じゃ穴は開かんとさぁ!」


「何それ硬過ぎ・・・!」


青龍は武器を入れ替えようと魔法陣を召喚する。


「近距離で武器を入れ替えるもんじゃないぜ、坊主。」


クロードが隙を突いて牙突し、彼の持っていたアサルトライフルを真っ二つに砕いた。

その衝撃で青龍は先程張った結界に背中を強打する。

声にならない叫びで顔を歪ませる彼にクロードは、鼻で笑いながら切先を彼の喉元に当てた。


「おいおい、もう終わりか?もう少し強かったと思ったんだがな。あーあ、お前さんが折角張った結界もそろそろ壊れるんじゃないの?」


結界は今にも壊れそうなぐらいに亀裂が入り始めていた。


「そろそろ良い頃合いかもな。」


青龍が不敵な笑みを浮かべると結界は硝子が割れる音と共に砕け散り、後ろに倒れた彼は素早く真横に回転して距離を取り、体勢を立て直した。


レーザービーム砲は結界を破壊したと同時に止んだ。

クロードが彼の行動に呆気にとられていると、青龍はチャンスとばかりに手からコンバットナイフを一本召喚し、クロードの顔めがけて投げ付けた。

彼は咄嗟に仰け反って避けるが、ナイフの刃が左頬から額にかけて掠めていった。飛んで行ったナイフはそのままクロードの後方に落ち、行方が分からなくなる。

クロードは青龍が初めて自分に傷を付けたことに対し、嬉しそうに顔を歪ませた。


「良いぜ・・・その感じだ。」


「その傷、似合ってるぜ。」


青龍は戯けるような口調で返した。クロードは傷から滴る血を指で拭い、それを舐め取る。


「坊主・・・オロナ〇ンかマ〇ロン持ってないか?」


「唾でも付けとけ。」


真顔でそう返されたクロードはフッと仕方なさそうに笑い、そして再び刀を構えた。

青龍も同じく、マチェットを召喚し構える。


「お前、武器いくつ持ってんの?」


クロードの問いかけに対し青龍は少し考えた後、言った。


「星の数ほど。ちなみにこれはその辺の草刈り用だ。」


「俺はその辺の草同然・・・ってか?」


怒りを交えた表情でクロードは青龍を睨んだ。


「昨日研いだばかりだから切れ味は抜群だぜ!」


青龍は台詞を吐くと同時に素早く斬りかかり、クロードが咄嗟に刀でそれを防ぐ。

金属がぶつかり合う音と共に火花が散り、青龍のマチェットに小さい亀裂が入った。


「いまいち威力にかけるな。」


クロードのその言葉を聞き、躍起になって次々と斬撃を繰り出すが、斬撃は全てクロードの刀で防がれてしまった。


息が上がり体力がすり減っていくのを感じた青龍は一旦クロードから距離をとり、息を整える。


「レーザービームチャージ完了よ!次の一発で島を吹き飛ばすわ!」


戦艦から先程の女の声が響いた。


「それじゃあ、ここで終わりだな。」


クロードはその合図を聞き、刀に魔力を込めて牙突を繰り出した。

刃先は青龍が牙突を防ごうと構えているマチェットの上を通り抜け、彼の胸部に突き刺さる。


「ぐっ・・・!」


青龍は激痛に顔を歪ませた。


「まあまあ楽しかったぜ、坊主。」


そう言うと刀を引き抜き、刃に付着した血を振り払って鞘に納めた。

青龍は刺された部分から大量に出血し、仰向けに倒れる。


「ごめん・・・皆・・・」


苦しそうに息をしながら呟く彼の意識が次第に遠のき始める。

ぼやけた視界に映るのは沈みゆく太陽が作り出す青とオレンジのコントラスト。

と、黒い竜。


「なんだよ・・・来るの遅いじゃん・・・」


青龍は黒い竜が空中戦艦の前に飛んでいくのを見届け、意識を手放した。



『Slast barril yei rum!!』



竜がそう唱えると、前方に魔法陣の形をしたバリアが展開し、直前に発射されたレーザービーム砲を受け止める。


「ちょっと!!何なのよこのドラゴン!!」


慌てる女の声を他所に黒い竜はレーザービーム砲を軽々と防ぎ切り、再びチャージを始めた砲台に光線を放ち破壊した。

そして素早く戦艦の上空へ回ると、複数の魔法陣を展開しメテオを降り注がせる。

戦艦は為す術なく、爆炎を上げて崩壊し始めた。


「撤退!撤退よ!」


女の声と共に空中戦艦は黒煙を上げながら空間の裂け目を作り、その中へ撤退していく。


「あ、おい!置いてくなって!」


突然の襲撃で空中戦艦に搭乗できなかったクロードは自らポータルを開き、急いで入っていった。



黒い竜が青龍の上空を旋回し、そして彼の近くに降りる。

竜は倒れている青龍に近付きながら光に包まれ、人へと姿を変えた。


「青龍・・・」


「アルシエル・・・?」


抱きかかえられた青龍が意識を取り戻す。


「ごめん、アルシエルの弟の形見・・・折れちゃった・・・」


弱々しく謝罪する彼の近くには砕けた刀が横たわっていた。


「良いのです。また直せば・・・」


そう言いつつ、青龍の傷口に手を翳して治癒魔法をかける。


「そうだ、異世界から大勢のお客さんが来たよ・・・」


「彼らは今どちらに?」


「旧陸軍基地に・・・」


アルシエルは目の色を変えて旧陸軍基地の方角を見た。


「後で彼らと話し合いましょう。」


「穏便に頼む・・・」


青龍はそう言うと再び目蓋を閉じた。

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