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そうして、連行されてきたランチタイムの大手チェーン店の喫茶店内で、私は早くこの場から解放されたい気分になっていた。
実際、そんな相手なんていない希望だったと事実を話したのに、同僚は納得した表情をしてくれなかった。
むしろ、
「本当の事を話してください」
と、にっこりと怖い笑みを浮かべている。
「ずっと、感じていた事ですけど、優香さんは人あたりいいのに、何か隠している気配がしていて、それが何か知りたいって思っていました。なかなかこんな機会なんてないと思うので、せめて、今の話くらい、本当を話してください」
と、言って解放してくれない。
食事は早めに食べたので、もう終わってしまっている。おかわりした珈琲は、すでにぬるくなってしまっている。
「んー…そう言われてもね」
何かを隠している気配がしてしまっている原因は、たぶん、自分の恋愛対象が女性だという事と好きな人がいるという事だ。最近では、本当に心を許せる限られた人間以外に対して、自分から恋の話をする事もしなくなってしまっていた。ルカのように、器用にぼかしながら、それでも、飄々と過ごす芸当は疲れてしまうので、できなくなってしまった。もう少し、器用にぼかしている部分を、それでいいのだと嘘をついているわけではないと割り切る事ができたのなら、疲れはしないのだろう。疲れてしまうのは、結局のところは、私の弱さが原因だ。
だから、自然とその話題を出さなくなった。
「本当に、恋人付き合いしている人はいないし、いいなと感じている人なら居るだけなのだけれど」
「じゃあ、本当に付き合っている人はいないの?」
「うん」
「それなら、いいですよ」
なぜそこで、嬉しそうな表情を浮かべているのだろうか。
「あの!」
「ん?」
「今日は、質問ばかりになってしまったけど…これからもこういうプライベートな話をする機会をもらえませんか?もっと、優香さんの事が知りたいので」
「……また、今度ね」
何も余計な事を考えていないであろう言葉ほど、ストレートに胸に響くものなのかもしれない。
私は、すっかりぬるくなってしまった珈琲を飲み干した。
人と出会って好きになる過程を大切に過ごしたいから、打算や自分にとって都合のいい条件を入れる事は、私にとって自分の気持ちに嘘をついているのと同じように感じている。
それは、他人から見れば、不器用なのだろう。
自分での恋愛対象が限られているのに、人に好意をよせる過程だけは、嘘をつきたくないと感じてしまう事は、わがままなのだろうと思うけど、それだけは自分の中で譲れないものだった。
自宅に帰宅して、お風呂上りに携帯を確認すると美空からメールが来ていた。
作詞する事ができたから、読み感想が欲しいとの内容だった。いつも恋愛の詞ばかり書いているのに、今回の詞は曖昧な関係の二人について書かれている。どこか切なさを感じつつも、家族愛にも似た深い愛情を抱きあっていて、詞の持つ独特の雰囲気は、美空にしか書けない詞だと感じた。今まで書いてきた経験がある分、胸の奥をえぐられるように突き刺さる気がする。
これは、幸来の事を書いた詞ではない。
これは、私の事を書いた詞だった。
次回の更新は、来週を予定しています。




