【6】
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作品の入った袋を交換しながら、座って話せる場所を探して歩き始めた。
「私らしい?」
「アイディアがわかなくて、作れなくなるかもしれない危機感はないの?」
「んー…今まで感じた事もないかも。……時々は、もうダメかもって感じる事はあっても、この先ずっと作れないというより、一時的なもので考えているうちにふと思い浮かんできて、途切れるかもしれないって感じた事はないかな」
「……凄いですね」
「そう?」
「美空は、そういう事言わなかったですか?」
「たぶん、普通の事だと感じているから、それはなかったよ。美空もたぶん同じだと思う。気づいたら作っているから、アイディアが一時的に煮詰まっても二度とできないとは感じてなさそう。それに、確かにいろいろと技術は未熟だけど、一番怖い天才タイプだと思う。一度作り始めたら、作りこめてしまうアイディアが枯渇する事がないタイプ」
「普通の事…作れる事が特別な事だと感じていない」
「そんな事、今、初めて言われたけど?」
そう言えば、彼女は心底驚いた表情を浮かべた。
「誰も言わなかったの?」
「うん」
私の周囲の友人関係は、ほぼ物づくりが好きな人だったから、作れる事が日常だと感じている人達だから、きっと、感覚が似ているタイプが集まっているから、かもしれない。
「あ、あの場所座らない?」
建物を出て他の建物がある場所に、テーブルとイスが数組セットで置かれているのを見つけた。その近くに、車で販売している喫茶店を発見した。
珈琲一杯の値段も喫茶店の価格なら納得できるし、自販機の珈琲と比べるなら少し高いと感じるような価格だった。移動販売の車の前に行くと、店員さんが「いらっしゃいませ」と笑みを浮かべているのを見ながら、メニュー表に視線を向ける。
「いい天気だし、いいですね」
「何、飲む?」
「ブラック珈琲を…って、珈琲って、味が一つじゃないんですか?」
メニュー表に並ぶカタカナの豆の名前を見て、幸来はびっくりした口調で言う。その様子が可愛らしくて、私と店員さんはクスと笑みを浮かべた。私も、学生の頃は、珈琲を飲みはしても、興味がそこまでなくて、今の幸来と同じような事しか知らなかった。
「もしかして、『ブラックコーヒー』という名前の飲み物は同じ珈琲豆で作られていると思っていたの?」
「……はい」
他にお客さんも来ていないので、店員さんは丁寧に説明してくれる。
「珈琲豆は、作られている場所によって名前が違います。木になっている珈琲豆に火をとおす事を焙煎と言いますが、焙煎具合によっても味が変化します。ステーキも焼き具合によって味が変わると同じです。また、珈琲豆は、空気に触れて酸化によっても味が変わってしまいます。なので、時間が許すかぎりは、豆を粉に挽く作業は飲む直前だと美味しく感じる事ができます」
「ふーん、紅茶や緑茶の保管には湿気に気を付けて、密閉した容器にいれて保管する事を店員さんが教えてくれるのと同じですか?紅茶の葉によって味が変わってくるような」
「似たような感じです」
「彼女は、最近、珈琲を飲み始めているので、苦みが少なくて飲みやすい物を。私は、キリマンジェロで」
「かしこまりました。では、ブルーマウンテンとキリマンジェロに致します」
しばらくして、珈琲のいい香りがしてきて、代金を支払って紙コップを受け取ると椅子に座る。
「美味しい」
「よかった」
自分の買ったキリマンジャロに口をつけて飲むと、温かい変な苦みのない美味しさが口の中に広がった。
「珈琲に詳しいんですね」
「ううん、私はそこまで詳しくはないけど、ルカ達が詳しくて。気づいたら教え込まれていた」
この場に、喫茶店に勤務しているルカが居たなら、『教え込んでないよ!』と抗議の声をあげていそうな気がする。
「さて、まだ夕方まで時間があるし…この後どこに行く?」




