【5】
【4】
「そうなの?」
「はい」
私の感覚としては、いつのまにかその作業が息を吸うのと同じくらい自然な手順で、改めて言葉にする事自体が少なくて上手く伝えられているのかが疑問だ。
「ま、でもこの部分は人によって全然違うから。んー…自分の作りたいものを作って」
「…いきなり、補助器具もなくて、泳ぎ方も知らないまま海に放り込まれて、途方にくれた気分です。でも、今のでなんとなく、ぼんやり何をしたらいいのか分かった気がします」
幸来はふっと遠い目をしながら、ろうシートを形にこね始めた。それを見ながら、私は自分の手を動かしながら、今のバイトを始めた頃の事を思い出していた。
最初の頃、それこそ事務仕事自体が初めてだと、郵便一つ出すにしても切手を添付して出すわけでもないのに、郵便物を送付できるシステムがある事も知らなかったし、そのシステムの仕組みも言葉もすべてが外国語のように感じた。そんな状態だったので、まず、自分の分からない部分なんてものは全部なので、ピンポイントで質問をしようがなかった。だから、苦笑を浮かべて
『すみません、事務仕事自体が初めてなので…全部分かりません』
とだけ、言うしかなかった。
「あまり、言うと自分の作品にならないからね」
私としても、物作りをしているのはアマチュアでの話で、プロのレベルで上手いわけではないので下手に言えば、彼女の作品にはならなくなってしまうので言えない。
「そう、ですよね」
んーと考えながら、彼女は手を動かしていく。何を作りたいのか決まったのか、ただ弄ぶようにいじっていたが、目的を持った動きに変わった。
何か作品を作る事において、最初からできないと諦めてしまうのは、すごくもったいない事のように感じる。
ある歌手の歌詞にもあるように、最初から上手くできなくて不器用なのは当たり前だ。何をどうしたらいいのか自分の中にない時に、誰かの真似をするのも当たり前の事だと思う。誰かの真似をしながら、どういう手順で作ればいいのかを学ぶ。表現するためにどの技術を使用すれば、効果的に表現する事ができるのかの方法と手順を自分の血肉に変えていけばいいだけだと思う。
作品作りにおいてはそう思えるのに、料理に関しては、自分の体を生かせるだけの食材で、火をとおしさえすれば体調を崩す事なく食べられるから、火をとおせばいいとしか思えない。それでも、一応、基本ぐらいは知っていると思いたい。
見本で赤いチューリップがあったからか、彼女は赤とオレンジでモミジの葉を作り、三角形の蝋燭本体につけ終わっていた。
「できた♪」
「紅葉、秋らしくて綺麗」
「自分でも上手くできた気がします。って、優香さん細かいですね」
「細い物を作りたくて。昔、紙粘土よくいじってたから、懐かしい」
こねて粘土のように柔らかくなったろうシートを、指先でパン生地を伸ばすように棒状にしていく。唐草模様を作るために細い棒状の形が必要だった。それは指先でないと作れない。作ったものを親指などで、蝋燭にぎゅっと押しつけていく。ろうシートが指の熱でベタベタしてくるので、接着剤は必要ない。
細かい形を整えるには、爪楊枝を使用した。
「うん、できた」
白い蝋燭に、黄色やオレンジで作った唐草模様があるような、自分でもとてもシンプルだと思うデザインが出来た。
「じゃ、仕上げに持って行こうか」
机の上の片づけをすませて、仕上げをする場所に持って行く。
蝋燭は、熱で溶けてしまうので、平たい形でないと溶けてしまう。
仕上げの時、熱湯に近い温度の液体の蝋燭のお風呂にいれて、出す。空気の
温度が熱湯よりも低いので、空気に触れた瞬間に液体は、薄くコーティングされて半透明な個体に固まり、冷えてしまえば持って帰る事ができる。
「これで、完成です」
「え?もう?」
「蝋燭が冷えたら、持って帰れるからね」
「?」
そう言っても、彼女は不思議そうな表情を浮かべている。
作品を受け取ると、そのまま他の場所に向かって歩きながら、もう少し丁寧に説明してみると、彼女は半分納得したような表情を浮かべている。
「うーん、そういうものなんですね」
「そういうものです。あ、そうだ、せっかくだから作品交換してもいい?」
「いいですけど、せっかく作ったのに優香さんはいいの?」
「ん、自分の作品なら、また作ればいいから」
「優香さんらしい言葉ですね」
信じられなさそうな口調で彼女はそう言った。
次回の投稿は、来週を予定しています。




