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正面から抱きつかれる。
暖房をつけていない肌寒い室内で、彼女の温もりが心地良い。そっと手を伸ばして頭を優しく撫で、そのまま、柔らかそうな頬に触れた。
手の平の感触を確かめるように、頬をすりよせてくる。
引き寄せられるように、唇を唇でふさぐ。心地いい温もりを感じて、ただ触れるだけのキスなのに、心の奥が充たされるような感覚がした。
満足している自分と、もっと触れたいと焦る自分がせめぎあう。
そんな時、甘い吐息が彼女からもれる。たどたどしくなぞるように、彼女の方から唇で触れてくる。
そうして、かろうじて残っていた私の理性は、その時点で負けを認めてしまった。
早めに目が覚めた私は、冷蔵庫をあけて食材をかき集めて何が作れるだろうかと考えていた。夕飯としては遅い時間になってしまったから、自分一人なら食べなくてもいいような気がするけど、たぶん、何か食べておいた方がいいだろう。
久しぶりに熟睡してしまった。
明日も連休で休日になっていてよかった。
簡単な炒め物を作りながら、数時間前の事を思い出す。
自分の中で欠けていた何かで、全身がみたされていくような幸福な時間だった。
昔何かで読んだ事のある本の中に、充たしあうのには言葉も大切なのだと書いてあった気がする。つまりは、心も体も共感力が高いと、両方が感じやすいのかも。
「……何、作っているの?」
「夜食の野菜炒め」
欠伸をしながら台所に来た幸来は、食器棚からコップを取り出すと飲み物をいれている。
「美味しそう」
「じゃ、食べようか」
「はい」
お皿に野菜炒めをもりつけ、テーブルの上に並べる。
時間が遅いので、すぐにつまめるような量で米はぬきにしてみた。
「夢みたいです」
「ん?」
「いつもの妄想じゃなくて、現実ですよね」
「うん、現実だね」
いつもの妄想って、いつもは何を妄想していたのやら。
「これから先、できるだけずっと、こういう風に過ごしていたいです」
「……そうだね」
穏やかな気持ちで頷きながら、まるで、プロポーズみたいだと感じた。
「あの、これから、離れられなくなるくらい、他の人とは違うってところを磨く…予定なので、ゆらぎそうになっても離さないので、安心してください!」
「えーと…ありがとう」
プロポーズのような言葉をただ味わっていただけなのに、何か別方向に解釈した結果、ますます男前度があがったセリフを言っている彼女を見て、将来はもっとモテそうで嫌だなと不安がよぎった。
「一度食べたら、忘れられない苺みたいになってみせます」
そういえば、前にケーキを作るのに果物は何が好きかと質問されて、苺が好きだと言ったような記憶はあるけど、そんな美味しそうな例え、何も今言わなくてもいいのに…。
食べ終わった夜食の片付けをしながら、理性で今日はもうこの後は何もしないと自分に言いきかせようとした。
洗い終わった食器を棚にしまう。
「美味しそうな苺は嫌いですか?」
誰か、この子の口をふさいでください。
あ、そうか…もう自分でふさいでしまえばいい。
「好き」
「よかった」
「……美味しそう。また、食べたい」
こうして、本日、私の理性は二度目の白旗をあげた。
そして、私は、忘れられない苺を手に入れた。
優香さんが「苺」を手に入れるのは、タイトルをつけた時から決まっていました。
未定ですが、この三人は書いていて楽しいので、また、機会ができたら、番外編を書くかもしれません。
お読みいただきありがとうございます。




