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【10】

【9】


「うん、美味しい珈琲が飲みたくなって」

「そうなんだ」

「美空は?」

「曲作りしていて、気分転換に誰かに会いたくなって」

ふと遠い目をして、今まで耳につけていたイヤフォンをはずして、スマートフォンの画面を操作してしまった。

「一人で作業するのは、好きだけど、外に出なきゃダメだと思ったのは初めて」

「そう?」

「今、長期休みで大学に行かなくていいから、家から一歩も出てなくてさ。1週間経過したあたりで外の空気吸いたくなった」

「お待たせいたしました。……適度に力ぬいて作業してね」

夏美は珈琲を美空のテーブルの上に置く。

ここしばらく一週間のうちに、一歩も外に出なくていい時間なんてなかったから、そう感じた事がなかった。休日は家の中でまったり過ごしていたいと感じている。

美空は美味しそうに珈琲を飲みながら、私に視線を向けてきた。

「?」

「……メールの返信がなかったから」

「あぁー、あれ、ごめん。もうちょっとしたから書こうと思っていて」

「じゃ、待っている♪」

楽しみにしている表情を見て、私は無事に感想を書けるのかどうか、不安になった。

「あぁー…お腹すいた」

「もう、こんな時間だからね」

「あれ、今日、昼食べたのかな?」

「集中していると、あっという間に時間が流れていくからな」

ルカは身に覚えがあるのか、苦笑を浮かべている。

たしか、諸事情によりしばらく美空の両親は家に居ない。食べ物はネット注文である程度は自宅に届くので、足りない食べ物を外のスーパーも買い足すだけでよかったはずだ。

それでも、一人で過ごしていると、当然、自分で気を付ける気がしないかぎり、食生活はどうしても乱れがちになってしまう。

「……時間が大丈夫なら、珈琲飲み終わってから、何か食べに行こう」

「いいの? 明日、平日でバイトじゃなかったっけ…?」

「今日は…もういいの」

「それじゃ、お言葉に甘えて」

嬉しそうに目を細める美空を見て、あぁ、やっぱり好きだと実感している自分が居るのに気づかされた。


何回目の好きという言葉を感じたのかを思うと、ある漫画の中でのツッコミのように、『好き好きってお前は一休さんか!』というツッコミを自分にいれたくなってくる。


軽食でいいというので、いつものBARに場所をうつす事にした。

休日に行く時には、開店と同時に行くことが多いので空いているのだが、丁度仕事帰りの人たちの帰宅時間というのもあって、週末ほどではないものの、お客様がほどほどに来ている時間だった。

「先に、どうぞ」

メニュー表を渡す。

「んー…どれにしようかな」

とりあえず、飲み物を頼み、後で注文する事にした。

メニュー表の中で、美空が好きそうな場所で視線が二カ所ぐらいでいったりきたりしているのを見ながら、目を細める。

美空の好きだと感じたなら好きだと、それを口にできる部分が羨ましいとずっと感じていたからこそ、美空自身が自分でも気づいていない感情に気づいてしまった時に、距離を置こうと思った。

まさか今度は、私自身が幸来に対しての気持ちにゆらぐ日がくるなんて、予想できなかった事だった。

頼んでおいた飲み物を飲みながら、頬杖をつく。

「これにしよう!決まった。はい、どうぞ」

「ありがとう」

受け取ったメニュー表をながめながら、悩むという事はそれだけ、もう気のせいだと気づかないフリができないところまで、感情が育ってしまっていたのかもしれないと感じる。

たぶん、美空はお肉のおつまみを頼むだろうから、野菜のおつまみを頼む事にした。

「どうして、あの詞を書こうと思ったの?」

ほろ酔いになりながら問いかけると、美空は不思議そうな表情を浮かべている。

「大切な存在だから、書きたい衝動がおさえられない。他の人は違うかもしれないけど、曲を書いて、あとから、何度でも聴けるような、聴いた人に何かを届けられるように、ずっと残しておけるような形にしたくて」

じっと正面から見てくる美空の眼は、意志の強さを感じる。

「優香だから、だよ」

「……」

反則だ、と感じた。

親しみをこめる時に、名前の呼び捨てで『ちゃん』づけでないのは、美空本人が嫌いだからで。

自分の気持ちに嘘をつきたくないから、言葉がストレートで。

きっと、私だからだと言えば、喜ぶ事も分かって言っている。

「……そう」

深呼吸をしてから、つとめていつもの口調をこころがける。

「感想、書けたら送るね」

「うん」


再来週以降は、不定期更新になります。

それまでは、週末あたりに更新する予定でいます。

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