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チラシ

ねぇ。


あなたの学校に、『七不思議』ってなかった?


例えば、走る理科室の人体模型。


例えば、真夜中に響くピアノの音。


例えば、真夜中にだけ現れる、秘密の地下室。

 

でも、それって本当なのかな?


本当に、七不思議って存在するのかな?


それを、確かめてみたいって、思わなかった?


ふふ。


好奇心が強いんだね。


そんなあなたに、いいツアーがあるの。


学校の七不思議が回れるんだって。


どう?面白そうでしょ?


でも、気を付けて。


彼等は本当に、存在するんだから――。



「なぁんていうチラシ文句に踊らされて、申し込んでみちゃったけどさ」

 片手に持っていたチラシから視線を上げて夜に沈む校舎を眺めたその唇に、皮肉げな笑みが刻まれた。再びチラシに視線を落とし、ショートカットの髪を掻く。

「七不思議、ねぇ。確かにさ、面白そうではあったんだけどさ」

 なんといっても引かれたのは、そのツアーが無料だったという点。夜の学校になど滅多に入れないし、しかも今噂の七不思議が体験できるとあれば、誰だってその場で申し込んじゃうってもんでしょう。しかもこのご時勢、ケータイという実に便利な道具がある。

「あれ? なんだ、千鶴も来てたんだ」

 聞き慣れた声に背後を振り返れば、友人がこちらに歩いてくるところだった。

「美香。あんたもこの文句に踊らされた口?」

 ひらひらと手に持っていたチラシを軽く振り、同意を示すように苦笑した美香の背後に隠れるように付いてきたもう一人に千鶴は気付いた。

「雅子? あんたまで来たの?」

 あまりにも意外な人物の登場に、千鶴は細い一重の瞳を見張らせる。

「え……? あ……えっと……」

 急に話を振られて慌てふためく雅子に、千鶴は驚きから苦笑へと表情を変えた。笑うと、細い目が一層細くなる。

「道連れよ、道連れ。あたし一人じゃ、つまらないと思ってね」

「成る程。美香の暇潰しの生贄になったって訳だ」

 可哀想にと、そう口では言いながらも顔が笑っているので全く以って説得力はない。二人が幼稚園からの仲のいい友人だという事を知っているので、内気で家に篭もりがちの雅子を外に連れ出すいいチャンスだとでも思ったのだろうと勝手に推測しておく。

「あ、そろそろ始まるみたい」

 美香の言葉に体ごと振り返れば、何やらガイドさんらしき女性が旗を持って集合をかけていた。

「行こうか」

 同じクラスの仲良し三人組は、千鶴と美香の後ろに雅子が付く形で夜の校舎に向かって歩き始める。

「一体、どんな事が待っているんだろうね」

「ちょっと、楽しみになってきた」

 夜の中学校に入るという滅多にない貴重な体験に胸を躍らせながらガイドの女性の許まで辿り着くと、その手に持たれた鈴が一度、チリン!と澄んだ音を奏でる。

「七不思議ツアーへようこそ!」

 営業スマイルが眩しかった。


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