悪意は密かならずんや
【保健室】
一体、どれぐらい寝てただろうか。
体を起こすと節々に痛みが走る。
「たっく...あの野郎...って!うわぁぁぁ」
太ももの辺りに重みを感じ目を移すと、あの野郎が頭を乗せて寝ているではないか。
アンブロシアは慌てて布団から抜け出す。
「痛っ...あれ、アンブロシア?良かったぁ。目覚ましたんだね」
ユアンは眠たいのか目を擦りながら頭を上げた。
「てめぇ...何してるんだよ!」
「ん、アンブロシアが目を覚ますまでここで待ってたんだけど...もしかして寝てた?」
寝てたよ!俺の膝の上でな!!...と言えるはずもなかった。
ユアンはそんなアンブロシアににっこりと笑いかけ、手を差し出す。
「今から仲間」
舌打ちこそしてみたものの、アンブロシアにその手が無視できるはずもなかった。
なぜなら彼はもう知ってしまったのだから、ユアンがけして彼の才能の上にあぐらをかいている訳ではないことに。
あの技、あの動き、どれ一つをとっても才能のみで辿り着ける領域ではなかった。
恐らく彼は越えられない目標を持っている。
自身の努力を尽くしても越えられない目標にどう挑めばいいか分からずにいただけなのだろう。
それがアンブロシアがだした結論だった。
。。。。。。。。。。。。。。。。
【???】
Symbiosisはモンスターと人間の共存を推進し、一切のモンスターへの殺傷行為を禁止を求める機関である。
冒険者狩りはあくまで目的を達成するための一つの手段に過ぎず、他にも色々なアプローチをしていた。
ほとんどの構成員は自分たちの行いは正しいと信じ、日々の任務にあたっているのだが、アンジェリカは少し違った。
モンスターの保護?そんなのどうでもいいと思っている。
ではなぜ彼女がSymbiosisにいるのか。
知能のないモンスターより人間と戦いたい。
彼女は根っからの戦闘狂であった。
互いに語らいながら、切り刻みながら、相手の血を浴びて...そうしている時やっと生きてるって実感できる。
絶望した顔、死にたくないと懇願する顔...その全てが私を興奮させる。
学園攻略の指揮官に任ぜられて興奮冷め止まない彼女は数回、深呼吸の繰り返し気分を落ち着けてから部屋に入る。
「やぁ、アンジェリカ...待ってたよ?」
おかしい...ここは私の部屋のはずだ。
なのになぜこの男は我が物顔でソファに腰掛けているのだろう。
「誰ですの」
アンジェリカはやや警戒の念を込めて男に問いかけた。
「ん?僕はぁ、カミサマ。君に力をあげようと思って」
刹那、凄まじい衝撃。
男の手が腹部を貫いたのを確認した時には意識は闇に飲まれどうすることさえできなかった。
「さぁ、新しいモンスターの誕生だ。君は彼女をどうする?デヴィッド.Z.ユアン」
男は心底面白そうに喉を鳴らして笑う。
尤もその声は風にかき消され誰の耳にも届かなかったが。