犬猿の仲は悪しかは
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【教室】
「それにしても凄いパンチだね。避けれなかった」
ユアンは顎をさすりながら痛そうに顔を歪める。
「それは、お前の気がアンブロシアに向いてたからだ。そうでなければ、狩られてたのは俺だった」
「“狩られてた”...ね」
神妙な面持ちでレックスを向き直るユアン。
一方レックスは観念した様に両腕をあげて肩をすくめて見せる。
「もう気づいてるだろ?俺が純人間じゃ無いってこと」
「巨人族にしては小さいと思ったけど...ハーフだったんだ」
まぁ気にしないけどね。最後にユアンはそう付け加えた。
意外だった。彼の様な由緒正しい冒険者の家に生まれたものは、自分の様な存在を忌み嫌うもんだとばかり思っていた。
ここ数年、人間界の職業にモンスターが就くのは珍しいことでは無い。
エルフの工芸品は素晴らしいし、ドワーフの打つ武器は重宝されている。
しかしやはり、差別はあった。
人間とは元来、保守的な動物なのだ。
それなのにまして、自分は人間とモンスターの間の禁忌の子。
人間にもモンスターにも忌み嫌われる幼少期を過ごした。
だから彼も自分の存在を知ったら拒絶し罵倒するだろう...そうとばかり思っていたのに。
彼は、そんな自分の存在を無条件で肯定した。
... ... ...嬉しかった。
ユアンは下唇を噛みしめるレックスを見てぷっと吹き出す。
「たっく、レックスも考えてよ?どうすればアンブロシアと仲良しになれるか」
。。。。。。。。。。。。。。。。
【???】
暗い部屋のなかでフードを被った者たちが円卓を囲む。
その中のリーダー格の男がおもむろに口を開いた。
「学園の一部の封印が約束通り解かれたようだ。よって実行日は...新入生親睦会の時とする」
「それは、あちら側の提案ですか?」
凛と透き通た声が響く。しかしその声には明らかに不満の感情が含まれていた。
なぜ、あちら側に従うんだ?そんな声が円卓を取り囲む幹部から漏れ始める。
「それが最も効率的だからだ。なぁに腹の中からゆっくりと食いちぎってやればいい。一年全滅なんてことになりゃ、後は学園が自滅するのを待つだけだ」
そこで男は円卓をぐるりと一周見渡す。
「よし、アンジェリカ。お前が指揮を取れ」
「はぁい❤︎」
名前を呼ばれたその少女はフード越しに恍惚の表情を浮かべながら頷いた。
。。。。。。。。。。。。。。。。
【屋上】
温かい日光を全身に浴びながらユアンは目を閉じる。
朝居眠りがユアンを包み込んだがそれもすぐにドアの開閉音によって妨げられた。
「あれ...アンブロシア?」
それはユアンにとって意外な人物であった。
「ああ」
「どうしたの?今は現代社会学の時間じゃない?」
けしてユアンの言えた質問ではないが、自分のサボりにあれ程の嫌悪感を示した彼がここに来ているのだ、聞くなと言う方が無理である。
「そうだよ。今も教室じゃ教師が冒険者狩りを目的とした組織、Symbiosisが〜って叫んでやがるさ」
アンブロシアはふざけたように教師の真似をして見せユアンの隣に座る。
「正直、俺はお前をクズだって思ってた。だけどあれ以来、お前のことが分からなくなった」
「だから、俺と同じ行動をすれば何かわかるかもしれないと?」
「ああ、悪いかよ」
照れたように顔を背けるアンブロシア。
これはチャンスだとユアンは思った。
つい先程、アイリーンにアンブロシアと仲直りする方法を今こそ実践しよう。
そう思いながらユアンは立ち上がる。
タイトルの悪しかはの「かは」は古文で反語を表します。ということは...。