闇夜に隠る者共
【???】
薄暗い部屋の中で蝋燭の炎だけがメラメラと燃えていた。
「では、学園の一部の結界を解いてくという事か?」
黒いフードの男は無表情に尋ねる。
「あぁ、学園長も許可した」
「生徒への殺傷行為にも不干渉を貫いてくれると?」
「...彼らは...彼らは並々ならぬ才能の持ち主かもしれない。だが、才能だけではこの世界はやっていけないんだ。試練が必要だ。絶望を知り、真理を知るための試練が」
少しの間をおいて、男は結論を口にした。
「生徒への殺傷を許可する」
。。。。。。。。。。。。。。。。
【1年生教室】
ガン!
食事をとるために教室に戻るやいやな机がユアンの頬を掠める。
そしてその机を浮かせ蹴り飛ばした犯人が忌々しげにユアンの顔を睨めつけた。
「デヴィッド.Z.ユアン、答えろ。貴様今まで、何処にいた」
「どこって...屋上で昼寝?」
ユアンは先程まで、アイリーンとしていた事を正直に答えた。
その答えに逆上した男が発した言葉がユアンの理性を吹き飛ばす。
「成る程、金獅子の息子には授業は必要無いと」
こんな時まで...こんな時まで父の名が出るのか...。
誰もユアンとして俺を見てない。
所詮、俺はジェンの息子ということなのか?
怒りがフツフツと湧き上がった。
「もう一回...もう一回いって見ろ」
「あ?なんだそりゃ...舐めてんのか?」
男とユアンが同時に拳を振りかざす。
だが、互いの拳が届く前に二人の顔面に裏拳がめり込んだ。
数メートル吹っ飛び、壁に激突したユアンの目に映ったのは大男の影。
「いきなり、すまんな。学級委員長のオリバー.レックスだ。貴様らに3つ簡単な要求がある」
男は一旦、間をおき、大きなため息をつく。
「拳を収めよ。怒りを鎮めよ。互いに謝罪せよ」
暫しの沈黙。
ユアンが立ち上がり、反対側に飛んだ男に手を差し出した。
「その...ごめん。俺に非があるなら教えてくれないかな。繰り返さないよう努力する」
男はユアンから目を背け唇を噛みしめる。
やがて決心したようにユアンの方を向き直り口を開いた。
「ユリウス.アンブロシアだ。こちらこそ、すまなかった。」
そう言ったアンブロシアは結局、理由を言わず教室を出て行った。
。。。。。。。。。。。。。。。。
【廊下】
ユリウス.アンブロシアは軍人の家系で生まれ育った。
父は、現役を引退しピュロス政府軍の指導官として、兄は王を守る近衛兵として軍に身を置いている。
ユリウス家に生まれた男子は、代々、軍人として輝かしい業績を納めて来た。
勿論、アンブロシアも軍人になるつもりであった。
しかし神は残酷だ。
アンブロシアは、武術よりも回復魔法に優れていた。
父は軍の医療部に勤めればいいとアンブロシアを慰めたが明らかに落胆していた。
医療部が武功をあげれない事を知っていたから。
兄はアンブロシアの事を気遣い、医療兵がどれ程、戦地で重要な働きをするかを説いた。
だが、それは余計アンブロシアを傷つけた。
そして、アンブロシアは冒険者を目指し始める。
なんでも良かった。軍人以外なら。
軍に入って兄や父、先代と比べられるよりはましである。
ピュロス中央冒険者学校に入学。
だが、アンブロシアは理不尽な現実に直面する。
当たり前の様に授業をサボる金獅子デヴィッド.L.ジェンの息子、デヴィッド.Z.ユアンの存在。
父からの能力を万遍なく受け継ぎ、努力を知らないクズ。
それがアンブロシアが持った印象だった。
何故?何で?
自分と彼の何が違うというのだ。
やりようが無い怒りがアンブロシアの中で湧き上がる。
八つ当たりなのは分かっている。
だが、彼が何の躊躇もなくサボりだと言った瞬間、アンブロシアの何かがきれたのだった。
アンブロシアは廊下を歩きながら血を拭う。
オリバー.レックスに殴られた痛みが今だとれずにいた。
「くそ...あの筋肉バカが」
そんな悪態をつきながら、アンブロシアはユアンのことを思い出していた。
理不尽な怒りに謝罪し挙句の果てに自分の非を探したユアンにアンブロシアは彼への印象を訂正せざるおえなかった。
彼が正真正銘もクズだったらどれ程楽だったか...。