彼、未だそこにありけり。
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その男は皺だらけのコートを羽織りながら、気だるげに壇上に立った。
ここは、ピュロス中央冒険者学校。
魔物の増加や冒険者の人員不足の対策としてピュロス政府が各地に建設した冒険者学校の中枢である。
倍率200倍以上の試験を勝ち抜いた者しか入れないエリート学校。
男はこの学校の生徒指導である。
「まず、言っておく。今年は不作だった。君達の能力は例年の生徒より遥かに劣る。よって近々、再試験を行う予定だ。それに落ちた者にこの学園にいる資格はない。以上!」
生徒の間に緊張とざわめきが大きくなる。
それもそうだ。苦労してこの学園に入り、やっと輝かしい未来をこの手に掴んだと思った。だがそれが一瞬で砂に変わるかもしれないのだ。
落ち着けという方が無理だろう。
ただ、数名の生徒は表情に微塵もの変化を浮かべていなかったが。
それが実力か虚勢か、今のところ、分かる者はいなかった。
。。。。。。。。。。。。。。。。
【屋上】
他の生徒達が一限目の授業に励む中、この男は登校初日の一限目から屋上でサボりに励んでいた。
デヴィッド.Z.ユアン。
父に怒れる金獅子ことデヴィッド.L.ジェンを持つ冒険者の純血である。
父、ジェンが遺跡調査分野に残した功績は大きく、彼の業績がこの業界
の歴史を100年先に進めたとも言われている。
そんな男を父に持つユアンはもちろん、表情に微塵もの変化を浮かばせなかった組であるが、彼の自信はそこで留まるようなものではなかった。
その結果がこの授業への出席拒否である。
確かにこの学校は試験の成績のみで評価される実力主義な場所である。
だからと言って、「再試験」が行われると大々的に予告されたなかで授業をサボるのは彼ぐらいだと思われた。
けして自分の能力を過信しているわけではない。
事実、彼の能力はここの教師と比べても大差無いだろう。
ただ、教師に勝ったところで彼は喜びもしないだろう。
彼の目標は教師ではなく、その遥か上の父であったのだから。
父はけして彼のことを評価しなかった。
8歳の時にドラゴンの子を狩ったユアンに対し父は失望の目を向けた。
「何故、大人を狩らなかった?」
口にこそ出さなかったが父の言いたいことはひしひしとユアンに伝わってきた。
父に認められたいと言う目標はやがて超えたいへと変わる。
超えたい。そして俺がデヴィッドになる。それがユアンを突き動かす原動力の全てだ。
ユアンは大きく息を吸い込み、宙を仰ぐ。
その時、屋上のドアが重い音を響かせながら一人の男を迎え入れた。
エドワード.ペリーシャ。
今朝方、壇上で騒ぎを巻き起こした生徒指導だ。
父と彼は親交が深く、以前に父を訪ねて来た彼と一度だけ話したことがある。
「何かを超えるためには、本物になる必要がある。次、会う時には...そこから抜け出しておけよ?坊主」
彼の言葉が怖いほど鮮明に蘇りユアンを締め付ける。
「なんだ。授業をサボってる奴がいると聞いて来てみれば、お前だったか。デヴィッド.Z.ユアン」
ペリーシャはデヴィッドの部分を強調してユアンの名前を呼んだ。
「生徒指導も、暇なんですね。ペリーシャ先生?」
ペリーシャは笑って煙草に火をつけた。
紫煙が立ち上り、二人の間を遮る。
「暇じゃないさ。生徒指導の仕事中だよ」
彼は大きく口を開け、紫煙を吐き出す。
そしてその鷹を彷彿させる目付きでユアンを睨みつけた。
「悲しいねぇ。お前はまだ、そこを彷徨っているのか。怖いぐらい偽物の自分から抜け出せないんだろ?」
全てわかっている。お前のことは全て分かっているとでも言うように、ペリーシャは続ける。
「デヴィッド。お前がデヴィッドである限り、ジェンを越えられない。お前が一番よく分かってるんじゃないのか?自信でも実力でもない、まるで虚勢の塊だな。お前は」
「そうかな。でもまぁ...胸の片隅には留めておくよ」
ユアンはまるで議論の必要は無いとでも言うように、屋上から飛び降りた。
重力に逆らわずに落下運動を続けるユアン。
ペリーシャはひどく愉快だとでも言う様に笑いながら、煙草を揉み消した。
彼に昔の親友の姿を重ねながら。
「滑稽だな、ジェン。お前が昔、苦しみ憎んだ事を、息子に味わわせているとは。さぁ、彼はお前のように花開くか?それとも...潰れるか?」