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激戦の荒野

 轟く爆発音と同時に、バレグは声を張り上げる。地中に潜ったメリクは暫く一〇時の敵に集中するため、索敵と指示はバレグの判断に委ねられた。

「エマーユ、魔力弾。真上、三時方向に五度」

 緑色の光弾が馬車の屋根を突き破って飛んでいく。連続で三射。彼方へ飛び抜けたのは一撃のみ、他は一〇アードの高さで見えない障害物に当たり、火花を散らす。

 火花に照らされ、一人の土蜘蛛が姿を見せた。空中に直立する姿勢をとる敵は、馬車に手裏剣の雨を降らせる。

 だが、緑に光る結界がそれらをことごとく弾き飛ばした。

 空中の敵は一旦距離を取ろうとする。だが、別の土蜘蛛と合流させないように、エマーユは光弾を連射して足止めする。

 馬車は幌も窓も全開だ。バレグは外に向かって叫ぶ。

「ケン、六時。二歩前、そこっ」

 地面に突き刺したバスタードソード。引き揚げると同時に二名の土蜘蛛が土中から現れ、距離をとって身構える。

「リュウ、八時。一歩左、そこっ」

 リュウのグレートソードは名に劣らぬ両手持ちの大剣だ。力任せの一撃が地面を大きく抉り取る。現れた土蜘蛛どもは血走った目を大きく開いていた。

「エマーユ、魔力弾。地面、四時方向」

 これは弓兵へと迫るスーチェを挟撃させないための牽制だ。

「空中と四時の敵はスーチェに向かわせなければそれでいい」

 特訓の結果、エマーユは魔力弾の出力を抑える方法を覚えた。それにより、彼女の連続戦闘時間は大きく伸びたが、それでも連射はきついはずだ。

「スーチェ! 岩の右へ回り込めっ」

 ポニーテールの先端が左へ流れる。

 慌てたように岩の左から飛び出した敵は、獲物の姿を見失ったか左右を見回した。どうやら岩の両側から同時に攻撃するつもりだったようだ。

 そこへエマーユの光弾が襲いかかる。火矢に着弾し、たまらず手を離した土蜘蛛は、上空へと飛び上がった。

「くそ、空中で複数の敵に連携されたら厄介だ」

(ベルヴェルクが上がった。空は彼に任せて、エマーユはケンとリュウを援護。両名とも予想以上に苦戦、敵は身体強化の魔法をかけている可能性あり)

 メリクからの指示だ。バレグだけの耳に届く。

(一〇時の敵は潰した。私はキースを援護する)

 遅滞なく伝える。エマーユは馬車後方の敵をめがけ、光弾の波状攻撃を開始した。

 そちらは任せ、バレグはゴーレムへと視線を向けた。その途端、目を見開く。

(メリクさん、地上へ! ゴーレムが狙ってます)

 赤い光線が地面を抉る。間一髪、メリクは地面に出るとそのまま空中に飛び上がった。

 連続する金属音。待ち構えていたバネッサが手裏剣の雨を浴びせるも、その全てを叩き落とす。

 ゴーレムがメリクへと顔を向ける。

 ほぼ同じタイミングで、両者の間に飛び込む者がいた。キースだ。狙うは額の文字だったが——。

 ゴーレムの両目が妖しく光る。

 キースは左へ、メリクは右へ。両者とも高速で真横にスライドする。

(エマーユ、ゴーレムの光線に備えろ! 結界を前方に集中)

 メリクの指示をあわてて復唱するバレグ。次の瞬間、視界が朱に染まった。

「く……うっ」

 歯を食いしばるエマーユ。思わず漏らした声が苦しげで、バレグは肝を冷やした。

「大丈夫?」

「平気よ、あと五、六発くらい食らっても」

 五、六発が限界——。暗澹たる気分は胸の内に仕舞い、凄いね、と朗らかに讃えてみせた。


 一方、スーチェは敵と一対一だ。

 至近距離では矢の方が不利。敵は潔く弓を投げ捨て、今は互いに剣を構えて対峙している。

 懐へ斬り込んでくる敵の一撃をいなす。大振りを避けての探り合い。互いに即座に正眼の構えに戻し、間合いをとる。

 周囲の喧騒が遠ざかる。荒野に敵と自分の二人だけ。スーチェの集中が高まってゆく。

 半歩踏み込む。

 袈裟斬りの動作をフェイントに、さらに一歩踏み込む。

 敵は防御の剣を振り上げた。——かかった!

 波打つフランベルジェの剣閃は、敵にとっての距離感を惑わす役に立ったのだろうか。

 見事な抜き胴が敵の腹に吸い込まれ、スーチェは身体を回転させつつ振り抜いた。

 エマーユによる補助魔法の効果も手伝い、敵の身体は真っ二つに千切れ飛んだ。

 頬にかかる赤い飛沫。

 ほんの一瞬浮かべた笑み。次の瞬間には凍りつく。

「ぼうっとするな」

「え、あっ」

 ベルヴェルクの怒声がしたかと思うと、彼に抱えられたスーチェの身体は上空を舞っていた。いわゆるお姫様抱っこの姿勢である。

 それでも剣を手放さなかったのは訓練の成果と言えよう。

「戦場に出たからには新兵も古参兵もない。一人斬ったくらいで放心するな」

 眼下の岩が破裂した。

 巨人の光線が命中したのだ。あのまま下にいたら……。

「気を付けます」

 見下ろす視界の中に、土蜘蛛の死体が他に二つ。弓兵の片割れと空中にいた敵だ。ベルヴェルクが斃したのだろう。

「ケンとリュウが苦戦している。まず、そちらに加勢する」

 スーチェとしては一刻も早くキースの加勢をしたいところなのだろう。返答にごく僅かな間が空いた。だがベルヴェルクの判断に異を唱えることなく従うのだった。


「エマーユ、魔力弾。〇時、合図に合わせて」

 メリクからの指示による援護射撃だ。彼とキースは今、ゴーレムの周りを高速で周回している。時に地面に降り、時に空中へ飛び上がることで敵に狙いを絞らせない。

「地面と平行に。三、二、一、撃て」

 人の顔ほどの光弾が撃ち出された。

「次は威力抑えて。地面平行とすれすれの二射。三、二、一、撃て」

 拳大の光弾が飛ぶ。

「正面に結界!」

 慌てるバレグの意図を正確に汲み取り、エマーユは〇時方向に結界を集中する。

 青い光弾が複数飛来し、派手な火花を散らした。

 いつの間にかゴーレムの左右の肩に陣取ったバネッサとロレイン族の女が、その手から魔力弾を撃ち出してきたのだ。

 巨人は、振り上げた腕を地面に突き刺す。周囲を回る敵を潰そうと、自らも回転すると再び腕を振り上げた。が、ちょうどこちらに背を向けたところで足が止まる。

「しめた。メリクさんたちの蜘蛛糸で足止め——」

 バネッサは鼻歌混じりに巨人の足下へと魔力弾を撃ち下ろす。蜘蛛糸はあっさりと切れたのか、巨人は軽々と足を振り上げた。

 その時、背後から聞こえてきた。

 高く、猛々しく、それでいて物悲しい雄叫び。尾を引く余韻は遠く湖面をも渡っていきそうだ。

 その声はまるで。


「ワーウルフ、だというのかっ」

 ケンの声がした。

 聞きたくなかった単語に、バレグの顔面は蒼白となる。

 馬車後方に目を遣ると、果たしてそこには獣人現象を惹き起こし、頭部が狼と化した人狼どもがケンたちと対峙していた。

 ケンたちが斃したのであろう土蜘蛛の死体は二つ。しかし、人狼が五人。

 そこに、ベルヴェルクたちの加勢が到着した。

「あたしたちは負けない! しっかりして、バレグ」

 エマーユに肩を揺さぶられ、なんとか口許を引き締めて頷いた。

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