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連携の土蜘蛛

 メリクが差し出す呪符の束を受け取ると、ベルヴェルクも自然な足取りでゴーレムへと向かった。

「かたじけない。ありがたく使わせてもらう」

 二人だけで行かせていいのだろうか。エマーユはキースを窺い見た。そのもの問いたげな様子に、彼はすぐ気付いたようだが、前を見たまま言う。

「メリクはさ、土蜘蛛の責任として始末をつけるって言っただろ。さっき、じいちゃんの前でさ。きっと策があるんだ、ここは任せよう」

 移動魔法でユージュの森に来た彼らはまずグリズに挨拶した。

 折しもエルフ族は騒ぎに気付き、ゴーレム排除に打って出ようというところだった。それをメリクが止めたのだ。

 雪を舞い上げ、巨人が立ち上がる。

 巨体を反らし、両腕を大きく突き上げた。その目は、先程バレグを突き飛ばすまでは空洞のようにしか見えなかった。それが今、眼窩の奥に赤い光を灯しているのだ。巨人に近付きつつある二人の男など眼中にないかのように、こちらを見据えてきた。

 エマーユには魔法生物に関する多少の知識はあるが、人間が使役するモンスターや自律行動する非生物のことはよく知らない。彼女なりに想像を巡らせた。

「さっき見てて思ったんだけど、どちらかと言うとスーチェを集中的に攻撃してたみたい。ゴーレムなりの優先攻撃対象があるのよ、きっと。だとしたら、次の狙いはあたしかも」

 その言葉に、キースは首を傾げた。

「なぜだ。剣は今、ベルヴェルクの手にあるぞ」

「剣はあいつにとって大した脅威ではないのよ。せいぜい、丸腰よりは要注意といった程度でしょうね」

 地響き。巨人は二人の男を無視し、一歩を踏み出した。

「キースのマジックアイテムは〈幼竜の魔笛〉の影響下にないけど、あいつにそこまで計算する知性があるとは思えない」

 怒る感情は持っているみたいだけど、と続けながらエマーユは巨人の赤く光る目を睨み返す。

「たしかに俺はアイテムを少し持ってるが、攻撃系のものはないぞ」

 だから奴にとって脅威と認識されることはない、と苦笑するキースに微笑むと、「この中で魔族はあたし一人」と呟く。

 魔法を使える者から優先的に排除しようとするのではないか、というのが彼女の考えなのだ。

 咆哮が轟く。挟撃すべく左右に散る土蜘蛛には目もくれず、こちらを睥睨している。

 エマーユは思わず身構えたが、様子がおかしい。目をこらすと、少し視線がずれていることに気付いた。巨人の視線を冷静に追って振り返ると、そこには横たわるバレグと、彼を介抱するスーチェの姿があった。

「手出しさせないわよ」

 巨人の視線を遮り、彼らを背に庇って立ちはだかる。同じタイミングで、土蜘蛛たちが仕掛けた。

「どこを見ている。貴様の相手は我々だ」

 ベルヴェルクの身体が宙に舞う。

 巨人はうるさげに手で払うが、そのさらに上から剣の切っ先を突き込んでいく。狙うは顔面だ。

「もらった——!?」

 巨人の顔面が意外なほど機敏に動き、その視線がベルヴェルクを真正面に捉える。赤い両目がひときわ強く輝いた。

「危ない!」

 何かが起きる。不吉な予感に衝き動かされ、エマーユは援護の攻撃魔法を放とうとした。だが、キースが手を広げて遮る。

「よせ、メリクの邪魔になる」

 言われて見ると、巨人の首の後ろへとメリクが飛び上がっていた。

 強烈な赤い光芒が視界を灼く。ゴーレムの両目から光が発射されたのだ。

 矢のように飛び出した赤い光線はベルヴェルクの身体を貫いた。あっさりと炎上し、雪上へと落ちて行く。

 エマーユは息を飲み、口に手を当てた。ベルヴェルクがやられたと思ったからだが、それだけではない。雪上で燃えているのは人間ではなく、等身大の木片だったからだ。

「見事な変わり身だ。やりますね」

 賞賛する声がエマーユの耳に届いたとき、声の主であるメリクはゴーレムの頭上に飛び乗ったところだった。

「仮初めの生命に終焉を」

 メリクの手が巨人の額に触れた。ただそれだけで——。

 両目の赤い光が消え、巨人の動きが止まる。

 メリクは巨人の首のあたりを蹴り、雪上に降り立った。続けて、巨人は仰向けに倒れて雪煙を巻きあげる。

「……。終わったの?」

「うむ。メリク殿が、ゴーレムの額に描かれていた古代文字を消したのでな」

 答えを期待せずに問うたエマーユだったが、真横からベルヴェルクが返事をした。黄色い悲鳴を上げ、キースに抱きついてしまう。

「これは失礼。ご婦人を驚かせてしまった」

 ベルヴェルクの説明によると、ゴーレムの額に描かれていた古代文字は『真理』の意を持つ言葉だそうだ。先頭の一文字を消すことで『死』の意を持つ言葉に変わり、ゴーレムは単なる岩塊に戻るとのこと。一度岩塊に戻ると二度と動くことはないという。

 落ち着いたエマーユは視線を感じ、振り向いた。

「ふん、わざとらしい。私は物心つく前からキースと幼馴染なのだぞ。その私でさえまだ抱きついたこともないというのに」

 腕組みをして睨みつけるスーチェは、おそらく無自覚に考えていることを呟いている。

 咳払いしたキースが一同に告げた。

「ファリヤ奪還作戦を練る。メンバーの選定も必要だから、一度王宮に戻るぞ」

 気絶したままのバレグを除く全員が賛同の意を示す。メリクとベルヴェルクの二人を交互に見た後、キースは感心した口調で告げた。

「たった二人の土蜘蛛がこれほどの強さなんだからな。俺も鍛えてもらわないと」

「族長の許しをもらったから、当然あたしもついて行くわよ」

 スーチェの強烈な眼光に負けず、エマーユは高らかに宣言した。

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