エピローグ
「まさか2人とも同時に倒れるとはな…」
2人を静かに見守っていたルフィニが口を開く
「記憶の場所は頭部にあるからな…あの様子じゃ、2人とも復元は不可能だろう、予備から新しい体に複製し直すしかないな」
言って、ルフィニは2人の体を引き摺り、何処かへと去っていく
「さぁ、また初めからやり直そう…スヌゥもオウドも、また人間になってくれよ…?そして、いずれ全ての人を――」
ルフィニの顔は好奇心で溢れ、これからの未来に思いを馳せた楽しげな笑顔が浮かんでいた
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静寂な空間に機会的な音声が木霊する
――日経過シマシタ
安全装置及び学習装置の接続端子を外し凍結解除シマス
成人男性が余裕をもって入っていられるであろう大きさのカプセルから煙が排出されている
徐々に煙が収まり、カプセルの蓋が開いていく
中には裸の男が入っていた
目を瞑り、寝ている様にも死んでいる様にも見えるそれは、やがてゆっくりと目を開けた
「…」
男は無言で起き上がり、カプセルから出て自分がさっき迄入っていたカプセルに目をやる
表札の様な金属板が貼り付けてあり、【オウド】と書かれていた
中は人の形に凹んでいる
この凹みに丁度嵌まる様にして寝ていたようだ
「何でこんな所で寝ていたんだ…」
思い出そうとするが全く思い出せない
何故こんな所で寝ていたのか、寝る前は何をしていたのかどころか、自分の名前すら思い出す事が出来ない事に気が付いた
(これは、記憶喪失…?にしては、妙に落ち着いているな…)
ふとカプセルの蓋に目をやると、服と一丁の黒い銃が一緒に入っていた
最初に目が覚めて起き上がった時は目に付かなかった様だ
手を延ばして服と銃を手に取る
そこでようやく、自分が全裸なことに気が付いた
「服を着ていない…気が付かなかった」
ふと、男は自分の左腕を見やり、手を開いたり閉じたりする。問題なく動く
しかし、何故か奇妙な違和感があった。左腕があることに対する、漠然とした違和感を
「…?今、何故俺は左腕があることに違和感を覚えたんだ?」
何かおかしいと思いながら、男はそそくさと服を着る
するとまるでオーダーメイドでもしたかの様に、サイズがピッタリだった
銃を手慣れた手つきでホルスターにしまい、辺りを見渡す
「ここは、何処だろう?」
どこかの室内のようだ
扉が一つだけあり、窓は無い
床や壁には汚れや傷は無く、埃も無い…いや、傷ではないが、壁の一か所だけ、円状に新しく舗装し直したかのようになっている。あそこだけ、前に壊れたことがあるのだろうか
横に視線をやると、自分が入っていたカプセルと同じ様なものが横に2つあったが、中を覗いても何も入っていなかった
隣のカプセルにも表札の様な金属板物が貼ってあり、【スヌゥ】と書かれていた
その隣のカプセルには金属板は貼られていなかった
他には様々な機械が置いてあり、太い線で繋がっている
モニターのようなものや何かの差込口のような物が付いている
一体何の機械だろうか
男は疑問に思ったが、やがて今はどうでもいいかとそれについて考えるのを止めた
「さて…どうするか」
ここは一体何処なのか、さっぱり思い出せない
自分が生まれた場所はセントクルセイド王国の王都の東に位置するタレリアという都市だ、それは覚えている
そこで生まれ育ち…
生まれ育ち…?
何か違和感を覚える
生まれた場所は覚えていても、どのように育ってきたのかが思い出せない
「部分的な記憶喪失なのか?」
「俺が入っていたカプセルには【オウド】と書いてあった…それが俺の名前なのか?」
解らない、思い出せない
俺は誰だ、何故こんな所で眠っていた、ここは何処だ
「…解らないことでうじうじ悩んでも仕方無いな、とりあえず辺りを調べてみるか」
男はやけにアッサリと、悩むことを止めた
「…いやまて、何だこの違和感…俺は今、何故悩むことを放棄した…たしかに、わからないことでいつまでも悩んでいても仕方がない…だが今俺は、本当に自分の意思で思考を放棄したのか…?」
男は頭を抱えて自問自答する
『ハード上には無くとも、案外遺伝子に刻まれていたりするのかもな…元は――』
『俺は、俺たちは人間じゃない、造られた存在だ』
ふと頭に、そんな言葉がよぎった
(…何だ、今のは)
男は、まだ記憶が混乱しているのかと思い、頭を振る
『お前たちレプリカは考え悩むことが出来ない』
『俺は、俺のために生きる!他の誰でもない、俺のために!!』
さっきから、頭の中で誰かの声が聞こえる
一体誰の声だろう、俺はこの声を知っている気がする
「俺、は…俺はレプリカ、じゃない…俺、は、人間に…人間?俺は何だ、俺は――」
頭を抱えて蹲り呟く男の姿は、まるで自分が何者なのか分からずに苦悩しているように見えた
やがて男は、いつまでもここで考え悩んでいても仕方ないと思い、記憶を取り戻すため、外へ出て情報を得るべく、まずは人に尋ねてみようと、人を求めて歩き出す




