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開戦の合図は無かった

どちらともなく動き出し、両者が同時に銃を撃つ

2人とも銃口の角度から射線を予測し、最小限の動作のみで避ける

避けながら2人は互いに向かって走り出し、スヌゥは左腕でオウドに殴り掛かり、オウドは左足を振り上げ払いのける

一瞬の交差の後、2人は弾けるように再び距離を取る

今度は両者ともに睨み合ったまま動かない、まるで互いが互いの動きを牽制しているかのようだ

2人の間に、言葉は無かった

互いに、言葉は無粋と思っているのか、それとも、言葉を発している余裕もないのか

スヌゥもオウドも、睨み合ってはいるものの、その表情はどこか、ほんの少し楽しそうだ

戦うと言う行為に、楽しさを見出しているのかも知れない

人は、争うものだ、それは思想の違いから、互いの意思の相違から、はたまた特に理由も無く争うものだ

戦闘本能、闘争本能とも言う。それが人には備わっている

スヌゥ…お前ももう、人と呼んでもいいのかも知れないな

お前も、オウドがそうであったように、頭の中で二択を迫られ、一度は思考を放棄したが、それでもお前は選んだんだろう?オリジナル(おれ)のために生きると…それがたとえ、オリジナルのためと言う皮を被ったエゴだとしても。お前も悩み、選択したのだろう?たとえスヌゥ自身に、悩んだという自覚がなくとも


人は、いつ人になる?

いつ、人は人でなくなる?


お前は、オウドほど明確に悩んだわけではないのかも知れない、だが、それでも悩み、自分で決めた答えだと言うのなら、お前ももう人なのかも知れない

…そんなことを考えていると、睨み合ったままの膠着状態だった両者に動きが見られた

オウドがスヌゥに向かって走り出した

スヌゥは焦ることもなく、左手で銃身を弄ったかと思うと、オウドに向かって、銃を持った右腕を眼前に軽く持ち上げ、引き金を引きながら腕を水平に振り払った

本来なら一直線にしか射出されない光線が、薙ぎ払われるようにしてオウドに襲い掛かる

俺はスヌゥの構えを見た瞬間から、どんな攻撃をしてくるかが分かっていたため、屈んで難なく避ける

しかしオウドはそうはいかなかったようだ。だが上体を反らし、頭を思い切り仰け反らせることで、何とか横薙ぎの攻撃を避けきった

薙ぎ払われた光線により建物が真横に寸断され、少しの間の後、焼き切られた建物が音を立てて崩れ落ちる

建物が横に切断されたおかげで、随分と風通しが良くなった

ふと外に目を向けると、周囲の建物には被害が無かった。スヌゥはきちんと射程範囲の出力を調節していたようだ

しかし派手にやったものだ、俺はどうせ躱せる踏んでの攻撃だったのだろうが、明らかにあれは俺も攻撃範囲に入っていた、現に避けなければ当たっていた

これも、スヌゥの心境の変化だろう、今までは、俺を巻き込むような攻撃は決してしなかった、そんな理由もあって、今までスヌゥは素手で戦うことが多かったのだ、もっとも、銃が強力すぎるから、とも言ってはいたが

初見であの攻撃を避けたオウドは流石と言う他ないが、無理な避け方をしたため体勢は大きく崩れ、隙だらけだ、その隙をスヌゥが見逃すはずも無く、オウドを思い切り殴り倒す

地面にバウンドして跳ね上がったオウドの身体を容赦なく蹴り飛ばし、オウドが地面と水平に飛んでいく

オウドの身体は建物の外に転がっていき、何転かした後ようやく止まる

起き上がろうとするオウドに向けて、スヌゥが間髪入れずに銃を撃つ

あの状態ではオウドは避けることは出来ないだろう、随分呆気ない終わり方だったが、それも仕方ないだろう、オウドに戦闘経験などないのだから、スヌゥが勝つのは当然だ

だが、勝利の女神はまだスヌゥに微笑まなかった

さっき射程範囲を調節したままで撃ったため、光線がオウドに届く前に消えてしまったのだ

スヌゥは慌てて銃身を弄り、再びオウドに向けて銃を構える、しかし既にオウドは立ち上がり、体勢を整えていた

これでまた、流れが一度止まった

しかし依然としてオウドが不利な状況であることに変わりは無い

オウドは形振り構わず、再びスヌゥに向かって走る

スヌゥは再び腕を眼前に上げ、横薙ぎに振り払った

オウドはその瞬間、走りながら上空へと飛び上がり、その勢いのままにスヌゥへと飛びかかる

しかし、スヌゥの銃から光線は射出されなかった

オウドはスヌゥのフェイントにまんまと引っ掛かり、逃げ場のない空中へと誘き出されたのだ


(…やはり、こと戦闘に関してはスヌゥに軍配が上がるか)


オウドの目が驚愕に見開かれる

そんなオウド目掛け、スヌゥはゆっくりと照準を合わせると、勝利を確信したかのように口角を上げ、引き金を引いた

…しかし、今度はしっかりと引き金を引いたのにもかかわらず、銃は黙したままだった

今度はスヌゥの表情が驚愕に変わる、銃を見つめ、信じられないといった表情をしている


(エネルギー切れか!たしかに、スヌゥの方がオウドよりも多く撃ってはいるが…それでも、ここまで早く切れるか?撃ち出す魔素の量を最大に設定していたのか?でなければ、いくらなんでも早すぎる)


今まで、スヌゥはその身体スペックと銃により、苦戦というものをしたことはないだろう

普段使わない銃も、これほどまでに短時間に何発も使用したのは、おそらく今回が初めてだろう

残量の把握が出来ていなかった

それが、お前のただ一つの失敗だ

オウドとスヌゥが激突し、きりもみしながら転がっていく

オウドがスヌゥに馬乗りになり、銃口をスヌゥの頭部へと向けて引き金を引く

引き金が引かれる瞬間、スヌゥは左腕で銃を払いのける

引き金を引きながらオウドの銃が振り払われたことにより、射出された光線は先程スヌゥが行った横なぎの光線のように、スヌゥの右腕に向かって吸い込まれていく

頭部の破損は免れたが、スヌゥの右腕の肘から先が切り落とされた

光線の余波は、地面を容易く切り裂いていき、一直線にその爪痕を残す


「左腕の借りは返したぜ、これでとどめだ!」


オウドが吠え、再度スヌゥに向かい引き金を引いた

だが今度は、オウドの銃がエネルギー切れを起こしたようだ、引き金を引いても反応が無い

オウドが慌てふためき、何度も引き金を引く、しかし、銃口からは何も射出されることはない

慌てるオウドを余所に、スヌゥは拳を握りしめ、オウドを殴り飛ばす

余程の衝撃だったのか、オウドの腕の銃との接続コードが抜け、銃はオウドの手を離れていく

間髪入れずにスヌゥはオウドに向かって走り出し、続けざまに殴ろうとする

焦りのせいもあるだろうが、その攻撃はとても単調なものだった

オウドは急いで起き上がり、スヌゥの攻撃をすれすれのところで躱し、スヌゥの顔面にカウンターを決めた

たまらずスヌゥは後方へ仰け反りながら吹き飛んでいく

大の字に倒れるスヌゥを見つめたまま、オウドは追撃を加えようとはせず、その場に立ち尽くす

スヌゥもすぐには起き上がらずに、空を仰ぎ見たまま、しばらくそのままの体勢でいる

やがて、どちらともなく笑いだす

オウドは腹を抱えて、スヌゥは顔を覆って笑っている

ひとしきり笑い終えた後、スヌゥがゆっくりと起き上がる

両者が互いに見つめ合い、ゆっくりと近付いていく


「オウド、俺が今こんな感情を抱いているのも、お前のおかげなんだろうな…楽しいよ、すごく…お前とこうしてぶつかり合うのが、すごく楽しいんだ」


言って、スヌゥがオウドに笑いかける

スヌゥの顔は、本当に楽しそうだ

まるで新しい玩具を与えられた子供のように無邪気に笑う


「あぁ、俺もだスヌゥ…どうしてだろうな…っふふ」


オウドも、スヌゥに笑いかける

その顔は、純粋に楽しんでいるように見える

やがて二人の距離は、あと一歩どちらかが前に出ればぶつかると言うところまで来て止まる

2人は同時に笑うと、互いに顔目掛けて拳を振り抜いた


「あぐっ…」


「ぶっふ…」


2人は殴られた衝撃で後ずさる


「オウド…戦闘能力では俺が上だ、なのに、俺のこのざまは何だ…!」


オウドに向かって恨み言のように呟きながら顔面を殴りつける


「俺とお前は同じなんだよ!その上から目線を止めやがれ!」


オウドも、負けじとスヌゥに拳を浴びせる


「培ってきた経験は俺の方が上だ、俺は事実を言ってるだけだよ!」


スヌゥがオウドを殴り返す


「少し早く造られた(うまれた)からって偉そうにするな!」


オウドがスヌゥを殴る

2人とも、一言文句を言っては殴り合っている

ついには、お互いに言葉を発することなく、交互に殴り合う。硬い金属音や、軋む音が周囲に響く

2人とも拳と顔の塗装が剥がれてきており、金属部分が露出してきている


「「おォラァ!」」


2人が同時に蹴りを放つ

両者の顔面に綺麗に決まり、何かが壊れる音がする

2人は後方に蹴り飛ばされ、地面を転がる。そしてすぐさま、まるでネジの切れかけたゼンマイ仕掛けの人形のように起き上がる

2人とも、頭部が半壊している


「オウド…これデ最、ゴだ…!」


「っハハ、こッチの、台詞ダ…!」


2人は同時に走り出し、既に壊れかけている頭部目掛けて一直線に腕を振りかぶる


「アアアアァァ!」


「オオオオォォ!」


さっきよりも大きな破壊音を響かせながら、2人の拳と頭部は全壊した

2人は崩れ落ちるように倒れ、そしてそのまま起き上がることは無かった

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