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スヌゥの目に一瞬、思考の色が見えたが、しかしそれはすぐに影を潜めてしまう
どうすればいいのか分からずに、スヌゥが困った顔でこっちを見てくる
(スヌゥ、お前はなまじ自分が悩めないと知っているからこそ、それ以上考えようとしない。思考を放棄するな、お前も、悩んで見せろ)
ルフィニはスヌゥに何と声を掛けるべきかと考えていた
スヌゥに考えさせるにはどうすれば良いか
今のスヌゥは、恐らく俺の言った事に無条件で従ってしまうだろう
だがそれでは駄目なのだ、オウドが悩むことが出来た以上、スヌゥもまた、悩めるはずだ
その時、思わぬところから助け舟が出た
「スヌゥ、お前も悩めるはずだ!現に今、お前は悩みかけたはずだ!思考を止めるな!」
「うるさい黙れ…貴様なんぞに、貴様なんぞに…!」
「聞けスヌゥ!さっき悩みかけた時、頭の中で声が聞こえなかったか?」
「!?聞こえた、が…何故分かる、オウド何故分かったんだ!」
「俺もそうだった、声が聞こえたんだ、オリジナルを殺して、俺がオリジナルに成り変われという声と、オリジナルに従い尽くせという声が聞こえたんだ、でも、そんな声何て関係ない!大切なのはスヌゥ、お前がどうしたいかだ!俺もまだよく分かっていないが…おそらくそれが、人になる鍵だ」
「オウド、アドバイスのつもりか…それが、人に進化した者の余裕か?」
「違う!俺は、そんなつもりで言っているんじゃない!スヌゥ、お前もなれるはずだ、俺にも悩めたんだ、同じ存在であるお前が悩めないはずはない」
…恐らく、オウドは本心からスヌゥにアドバイスをしている、目を見れば分かる
スヌゥにも人になってほしいのだという想いが、こっちまで伝わってくる
あるいは、単なる善意ではなく、レプリカが人になるその瞬間をオウドも見てみたいのか…どちらにせよ、良い傾向だ、俺が半端に口出しするよりも、ここはオウドに任せた方が良さそうだ
「っふふ…お前にはお前のやり方、生き方があるように、俺には俺のやり方がある…俺は俺のやり方で、人になってみせる!俺は――!」
言って、スヌゥがオウドに銃口を向ける
…どうするべきか、ここで再度スヌゥを止めるべきか
恐らく一度戦闘になれば、オウドはスヌゥに負けるだろう、スペックが同じでも、戦闘の経験値が圧倒的に違う
オウドはまだ記憶の保存を行っていない、つまりオウドがここで死ねば、もう一度何も知らなかったころの、レプリカに戻ってしまうことになる、それは阻止したい、が――別にそうなっても良いのではないかとも思う
もう一度やり直せばいいだけだ、最初から
終末の森の研究所で再覚醒したオウドに、もう一度スヌゥと会わせ、半端な知識を与え、俺に会いに来るように仕向ける
そうして再びここでオウドと会うのだ、そうすれば、オウドはまた人になれるだろう
一度で無理だったら、何度でも、何度でも繰り返せばいい
…ふむ、そう考えれば、今のスヌゥを止めるのは止めておくか、2人の好きにさせよう
今のスヌゥは、俺のオウドを撃つなという命令に逆らっていることになる、これも貴重なデータだ
スヌゥも、オウドと会うことで変わってきているのだ、自覚があるにせよないにせよ
変わる方向性が善でも悪でも、そんなものはどっちでも構わない
「あくまでも、俺の存在理由はオリジナルのために生きる、だ…それは絶対に、変わらない…俺は、オリジナルのために、オリジナルの命に逆らい、オウド、お前を撃つ!」
…スヌゥよ、はたしてその行動は、本当に俺のためなのか?
自覚が無いだけで、お前はオウドに嫉妬しているんじゃないのか?
俺のためと言う大義名分を掲げて、その実本当は、お前自身の為にオウドを撃とうとしていないか?
「…そうか、お前は、どこまでいってもオリジナルのために行動すると言い張るのか…」
「そうだ、俺は、俺たちはそのために造られ、ここにいるんだ」
「お前は、オリジナルのために俺を撃つと言ったな…現に、既に一発撃っている。が、それはオリジナルに止められたはずだ、なのに何故俺を撃つことがオリジナルの為になる?」
「オウド…俺はお前を撃つなと言われて銃を下げた時、オリジナルの顔を見てしまった、そして聞こえてしまった。哀れむような目で俺を見て、やはりお前はそうなんだな…と。つまりオリジナルは、俺が素直に銃を下げた行為が気に入らなかったのだ、ならどうすれば良いか…オリジナルの為を想うなら、たとえオリジナルの意思に逆らってでも行動せねばならないと悟ったのだ」
「なるほど、矛盾しているようで、案外矛盾していないのかもな…ちなみに、お前の頭の中に聞こえた声はどんな声だったんだ?」
「…オリジナルの意思に逆らいオウドを撃つことこそ、オリジナルの為になるのだと言う声と、オリジナルに逆らうことなどありえないという声だ。だが俺は選んだ、自分で、自分の意思で、オリジナルの為を想うならば、オリジナルの意思に逆らいお前を撃つと!」
「は、ハハハッ…スヌゥ、俺が人になったからこそかな、感じるものがある。お前のそれ…本当にオリジナルの為っていうのが目的か?」
「…何が言いたい」
「お前の本心さ、スヌゥ、お前は俺を、どう思っている?オリジナル抜きにしてさ…お前自身が、俺をどう思っているかだ」
オウドがスヌゥにそう尋ねた瞬間、スヌゥは俯き、力無く腕を弛緩させる
少しの間の後、スヌゥが腕を振るわせながら顔を上げ、オウドを睨みつけ言い放つ
「…お前が憎い、妬ましい!何故お前なんだ、お前よりも先に覚醒した俺が、何故人になれないっ!貴様なんぞに、俺の全てを独占されてたまるか!」
「そうだ、それがお前の本当だ!オリジナルのためなどと言いつつ、結局は自分のために俺を撃とうとしている」
「だ、黙れ…違う、俺は」
「だが、それでいいじゃないか」
「何!?」
「人になる前から思っていたし、今もその思いはより強くなったが…俺はこう思うんだよ。人は、生命は、自分のために生きるべきだと、生きて良いのだと。だからお前も…自分の感情に従って、俺を撃てばいい、もちろん、俺とて素直に撃たれる気は無い、死ぬ気も無い」
「自分のために、か…だが、そうだな…たしかに、俺は俺のためにお前を撃とうとしているのかも知れん…レプリカ失格だな、まぁ、いい…今は、この感情に身を任せてみるさ…」
言って、スヌゥが銃を自分の腕と接続する
その顔は、憑き物が取れたように、どこか晴れやかな表情だった
「己の感情に任せて行動する、か…悪くない気分だ。今こんなにも、心、というか…精神というか、爽やかな気持ちになっているのもきっと、お前のせいなんだろうな…っふふ」
「そんな気持ちにさせた俺が気に食わないか?そんな気持ちになっている自分が許せないか?」
オウドも、言いながら器用に歯で右腕の皮膚を破り、コードを引っ張り出して銃に接続している
オウドに銃や体構造に関する知識は入力されていないが、スヌゥのやり方を見て、何となく分かったのだろう
「こんな状況になってもオリジナルが止めに入らないってことは、オリジナルはこの現状を黙認しているってことだ」
オウドがこちらを見ながら言う
「あぁ、思う存分やるといい、だが、あまり銃を下に向けて撃つなよ?大地が壊れるのは俺の望むところではない」
「だそうだ、オリジナルのお許しも出たところだ、始めようぜ」
「あぁ、そうだな…オウド、人造人間に進化したお前を倒し、俺が真の人間になってやる!」




