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「今のお前の顔を見て確信した。オウド…お前、悩んだな?俺を撃つかどうか…悩み、考えることが出来る存在に…つまり人間になれたということだ」
今、オリジナルは何と言った?
人間になれた――たしかにそう聞こえた
一体、何を言って――
「まぁ人間とは言ったが、お前はあくまでも人工的に造られ、人間に進化した存在だ、そうだな…便宜上、人造人間とでも呼ぶか」
人造人間…?俺は人間なのか?人間になった?
オリジナルの言葉を自分の中で反芻するが、今一つ意味が分からない
「たしかに、俺のレプリカという存在であるお前たちがどういった行動をするのかも知りたかった…が、本当の目的はそれじゃない、俺の真の目的は、人を創ることだった。ガキの頃から疑問だった…人とは何だ?人は、いつから人になる?いつ人でなくなる?そんなことを考えて生きてきた」
母の胎内にいる時点で、それは人と呼べるのか?まだ人間じゃない?
思考することが出来なくなった者は?もう人間じゃない?
「俺は、人が人でなくなってしまうのが、人だったものになってしまうのがとても悲しかった、そして、いずれ俺も同じ存在になってしまうことが、たまらなく怖かった、だから俺は、滅びない、劣化しない身体を欲した、そしていずれ、全ての人間がそうなれば良いと夢想した」
…
オリジナルの言いたいことはなんとなくだが分かった
不思議なことに、オリジナルに人間だと言われてから、頭痛が消えた、それに伴ってか、頭の中の声も聞こえなくなった
頭痛が止んで余裕が出てきたからだろうか、今まで然程気にならなかった色々なことが知りたくなってきた
たとえば、俺が魔法を使えなかったのは、俺が人間じゃなかったからなのか
人になったいまなら、魔法を使えるのか
探索者会長としてのオリジナルの名前は何故ルヒニと言うのか
銃から射出されているものは何か
ここへ来る前、果物を食べたが、あれはこの機械の身体に吸収されるのか
銃や身体のエネルギーの供給源は何なのか
など
急に、そんな今まではどうでもいいとさえ思っていた有象無象について知りたくなってきた
オリジナルは、これらを知っているのだろうか
訊いてみる
「オウド…やはりお前は素晴らしい、それこそが、人間の特権である知的好奇心だ。人造人間にも、それは発現するようだな」
知的好奇心…人の、証
そう言われ漸く、自分が思考し悩むことが出来なかった存在から、一つ上の段階へシフトしたという実感が湧いてきた
オリジナルが言ったように、何かを知ることは必ずしも良いことだけでは無いのだろう
この悩み考えるという機能も、決して良いことだけではないのだろう、悩むことによる苦悩も、これから先、きっとあるのだろう
でも俺は、俺が悩み考えることが出来る存在になったことを悔やむことだけは、決して無いだろう、そう、確信出来る
世界には、まだまだ俺が存在すら知らないたくさんのもので溢れていることだろう
幸い、俺には寿命も無ければ、普通の人間が行う、食事や睡眠といった生命維持活動を行う必要はない
無限とも言えるこれからの歩みを、俺の欲を満たす為だけに使うことが出来る
俺は俺のために生きる。その指標が、見付かった
俺は世界を見て回ろう、俺の知らない全てを知りに行こう
これから先の未来へ思いを馳せながら、とても高揚した気分に浸っていた
オリジナルと話をしている脇で俯くスヌゥの異変にも気付かずに
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
認めない
何だこの状況は
覚醒したばかりのオウドが何故こんな…
人間?人造人間?進化した?どういうことだ一体…全てを知っているはずの俺も、オリジナルが人を創ることが目的だったなんて、知らなかった
俺は、オウドより劣っている存在だとでもいうのか
いや、戦闘能力という観点から見れば、俺は明らかにオウドよりも勝っている
身体能力が同スペックでも、経験と知識量の差により負けることは無いと言い切れる
しかし、この言い様のない敗北感は何だ
今やオリジナルの興味は完全にオウド一人に向いているように見受けられる
人になれない俺は、オリジナルにとって必要ない存在なのだろうか…
認めない、認めるものか…貴様のような存在が、何も知らなかったお前が、取るに足らない存在だと興味も無かったお前が俺の全てを独占するなど、あってはならない
どうすれば良いと考えたのは一瞬で、すぐさま案は浮かんだ
これだ、簡単じゃないか
とても単純で簡単なことだ、オウドを殺せばいい
だが俺たちの性質上、殺しきることは恐らく出来まい、今のオウドの体を破壊しても、外部デバイスに保存されている予備から新しい体に複製されることだろう
だがオウドはまだ、覚醒してから記憶の保存は行っていない、つまり今のこいつを殺せば、こいつの記憶も失われる
もう一度何も知らなかった頃のお前に戻れば、オリジナルもお前に対する興味を失うに決まっている
そうなれば、もうお前に知識など与えるものか、一生自分が何者なのかも分からないまま朽ちて逝け
そうと決まれば善は急げだ、銃を取り出し、オウドに向けて引き金を引く
こ、こいつ…この距離で躱すだと?さては感付いたな、まぁいい、せいぜい抵抗してみろ、無駄だがな、戦闘ならばお前に勝ち目は無い
「よせスヌゥ!オウドを撃つな!」
二撃目を撃とうと引き金に掛ける指に力を込めたところでオリジナルから静止の言葉が告げられた
オリジナル、オウドなどに入れ込んでも時間の無駄です
オウドはきっと、出鱈目を言っているのです、俺たちレプリカが悩めるはずが無いじゃないですか
貴方がそう言ったんです
そんな嘘を吐いて貴方を惑わす愚か者は殺すべきです
「スヌゥ、お前今…何を考えている?」
貴方のことですよ、私は常に貴方のために行動するのです、それが俺の存在理由です
「もう一度言う、オウドを撃つな、銃を下ろせ」
再度言われふと気付く
俺はオリジナルのためにオウドを殺そうとしている
でも、オリジナルはオウドを殺すなと言っている
…
どうするかなんて、迷うわけがない
オリジナルの言葉に従う、これに尽きる
オリジナルには、レプリカである俺には及びもつかない深い考えがあるに違いない、それを俺の浅慮で邪魔するわけにはいかない、ここは素直に銃を下ろそう
「スヌゥ、やはりお前はそうなんだな…」
何故、そんな表情を…?
俺は貴方が止めろと言ったから止めたのです、なのに、何故そんな、哀れむような、落胆したかのような顔を…
分からない、考え悩めない俺には分からない
オリジナルの言葉に従う
俺のこの行動は間違ってなどいない、それは断言出来る
だが、今の表情を見るに、俺の今の行動はオリジナルを喜ばせるにたる行動ではなかったと判断出来る
一体どうすれば、オリジナルを喜ばせることが出来る?
こちらを見るオウドの顔が勝ち誇った顔に見えて、より一層焦りが生じる
オリジナルの言葉の意味を理解するのだ
オリジナルは、オウドを撃つなと俺に言った
それに従ったら、オリジナルは落胆したような顔をした、つまり――
どういうことなんだ?分からない
オリジナルは、本当は撃つのを止めて欲しくなかった?
いや、そんな筈はない、だったらそもそも止めろなんて言わない筈だ
では、何だ…?オリジナルはどういった意図で俺に撃つなと言ったんだ?
俺がここでオリジナルのためにすべき、最適の行動は…
オリジナルの予想の範囲内の行動をしているだけでは、オリジナルを満足させることは出来ない
ならばどうするか…想像を超えるには――
オリジナルの意思に逆らう
ふと、そんな案が浮かんだ
――馬鹿な、俺の行動理念は、存在理由は、オリジナルの為に生きる、だ
それなのにオリジナルの意思に逆らうなど、そんな矛盾――
いや、矛盾ではないのかも知れない
オリジナルの意思に従う事のみがオリジナルの為になることではないのかも知れない
オリジナルが、自分の意思に逆らって欲しいと望めば、俺はそうするべきなのではないか?
それがたとえ、オリジナルを傷付ける類のものでも――
頭の中で、オリジナルの意思に逆らいオウドを撃つことこそ、オリジナルの為になるのだと言う囁きと、そんな不確かな理由があろうがなかろうが、オリジナルに逆らうことなどありえないという声が聞こえる
こんな考えが浮かんでしまうこと自体、今までの俺にはありえなかったことだ、なら、俺のこの考えも、一種のバグなのだろうか
俺は、どちらの声に従うべきなのだろうか
オリジナル…俺は、どうするべきなのですか?
悩めない俺には、分かりません




