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「オリジナル…こんな、こんな洗脳紛いのことをして、俺やスヌゥを従えようとしたのか」
「洗脳…?一体何のことだ?」
「とぼけるなよっ!ならお前に対するこの感情は一体何なんだ!」
「オウド、落ち着け…お前が何を言っているのか俺には分からない、今のお前の行動は大変素晴らしいと思うが、出来れば分かるようにきちんと説明してくれるとありがたい」
オリジナルは本当に俺が何を言っているのか分からないといった顔をしている
視線をスヌゥに向けてみるが、スヌゥもこいつは何を言っているんだといった表情を浮かべている
「あくまで白を切るか…俺はお前を、オリジナルを視た瞬間、お前のために尽くさなければいけないという意思に支配されそうになった…これは一体、何なんだ…オリジナル、お前が仕組んだことなんだろ!」
オリジナルは俺の発言を受けて顎に手を翳して考え込んでいる
この反応…まさか、本当にオリジナルは知らないのか?ならあの感情は何だと言うんだ、レプリカはオリジナルに無条件に従うように出来ているとでもいうのか、冗談じゃないぞ
「素晴らしい発見だ、オウド…俺もレプリカについて、その全てを把握しているわけではないんだ。お前の言ったことが本当なら、つまりレプリカは、オリジナルに無条件に従うように出来ているということになる…俺はスヌゥにもオウドにも、俺に従うようにとか、逆らわないようにとかいった機能は付与していない。あくまでも、お前たちの行動はお前たちの意思に任せている。にも拘らずスヌゥは俺に付き従っている…これは、スヌゥが望んで選択した結果なのだと思っていたが…どうやら俺の勘違いだったのか…いや、まだ決め付けるには早計か」
「俺の貴方に対するこの感情は、決して誰かに強制されたものではないと断言出来ます、俺は俺の意思で貴方に付き従い、貴方のために行動するのです」
今まで口を噤んでいたスヌゥが口を開いた
「スヌゥ、お前のその意思が偽りではないと何故言い切れる!お前は、勝手な都合で造られたことに対する怒りはないのか!?」
「怒りなどと…オリジナルがいたからこそ、俺という存在が生まれたんだ、感謝こそすれ、恨むようなことは無い、オリジナルがいなかったら俺は造られなかった。なら、オリジナルのために行動しようとすることの何が悪い?人間も、生みの親には従い尽くすものだ」
「黙れ…」
「オウド、お前のそのオリジナルに対する反抗の感情は、お前の製造過程で生まれたバグだ、お前は、生みの親であるオリジナルのために生きるべきなんだ」
「黙れ…俺は…」
胸と頭を手で押さえる
頭と胸が締め付けられるようだ、痛いわけじゃない、でも――
「苦しそうだな、オウド…お前のその感覚は一体何なんだ?一体どこが苦しいんだ?なぁオウド、俺もお前も、痛みなんて感じるわけないんだよ、痛覚が無いんだからな。でも現に、お前はそうして苦しそうにしている、教えてくれ、何でお前はそんなに苦しそうなんだ?」
「うるさい…さっきから人の気も知らないでべらべらと…お前こそ何なんだ」
「人間が何かを知ろうとするのは、至極当然の感情だろ?俺はその好奇心が少し強いだけの、ただの人間だよ」
「何が人間だ…スヌゥが言っていたぞ、オリジナルは元人間だとな…お前は人間をやめた化け物だろうが」
人間をやめた化け物という言葉を受けてオリジナルが大きく目を見開き、スヌゥに振り返る
「ハハハッスヌゥ、お前、そんなこと言ってたのか、というより、俺は人間をやめたつもりなんてないぞ、今も昔も、俺は人間さ」
「今も昔も人間だと言われ、今度はスヌゥが目を丸くし、次いで謝罪の言葉を口にした」
「すいません、俺の勝手な勘違いでした…その体になってから、てっきり人間はやめているものだとばかり…」
オリジナルは、おもむろに自分の胸の辺りの皮膚を引き千切った
スヌゥの腕がそうであったように、オリジナルも皮膚の下には金属の骨格が存在していた
「確かに、俺たちの身体はこのように機械で構成されている、記憶なんかも、外部デバイスに接続すれば容易に転写、複製出来るし、老いることも無い。今の身体が壊れれば、新しい体へと乗り換えるだけだ、でもな…俺は人間なんだよ」
機械の身体
オリジナルはそう言った
スヌゥの腕の機械の骨組みを見てから、自分の身体もそうなのではないかと思っていたが、確かめるのが何だか怖くて、考えないようにしてきていた
そうなのであろうとは思っていたが、実際にそうだと告げられると、改めて自分が人外の者であると感じてしまう
こんなふうに思うということは、自分は人間でいたかったのだろうか、人間になりたいのだろうか…よく分からない
「これは自論なんだが…人間ってのは、深く考え悩み、何かをゼロから生み出せる者のこと…だと思うんだよ、それさえあれば、機械の身体をしていようが関係ない」
考え悩み、何かを生み出せる者
そう言われ、ふと気付く、俺は…
「その顔は、気が付いたかオウド…お気付きの通り、お前たちレプリカは考え悩むことが出来ない」
…あの建物で目が覚めて、何故自分はこんな所に居るのだと感じたが、分からないことで悩んでも仕方が無いなどと思い、それ以上考えなかった
…森を歩き続け、疲れも空腹も感じないことについても、困ることでもないしと、理由についてそれ以上深く考えなかった
他にも色々と、悩み考えなかった自分を思い出す
これらも全て、自分がレプリカであるが故のことだったというのか
「お前たちレプリカに、何故考え悩むという機能が発現しないのかは、正直俺にも分からん」
頭が痛い、自分が考え悩むことが出来ないと自覚した瞬間、確かに痛みを感じた
まるで鋭利な針が突き刺さっているような、そんな痛み
俺に、俺たちに痛覚は無いらしい、オリジナルがそう言った
ならこの痛みは、幻覚なのだろうか
でも、確かに痛みを感じる
ふと何故か、オリジナルとスヌゥを殺し、自分が唯一の存在になれば、この痛みが消えるような気がした
「オリジナル…俺は、お前、を…」
言って、ホルスターから銃を引き抜く
「俺は、貴方と争うためにここへ来たわけじゃなかったんです、ただ、俺は俺のために生きるのだと伝えるために…こんなことを知ってしまうのだったら…俺はこんなこと知りたくなかった…!でも、俺は――」
「動くなオウド、銃から手を離せ、お前…自分が何をしようとしているのか分かっているのか?」
スヌゥが銃口を向けて言ってくる
スヌゥに言われ、自分の腕を見る。銃口は、知らずオリジナルに向いていた
腕は小刻みに震えていて、照準は定まっていない
そう…俺は別に、貴方と敵対しに来たんじゃない…でも、さっきから頭の痛みと一緒に、声が聞こえるんです
「何かを知るというのは、必ずしも良い方向に行くとは限らない。知らなかった方が良かったことなんて、世界にはたくさん溢れている。それでも俺は、何かを知ろうとすることをやめようなどとは思わない、人として生まれた以上、俺は俺の好奇心を、探究心を満たすために生きていく」
「貴方を…貴方を殺して、俺がオリジナルに成り変われという声と、もう聞こえなくなったはずの、貴方に従い尽くせという声が聞こえるんです、俺は、どうすればいいんですか…」
「なぁオウド、お前…もしかして今、悩んでるのか?その引き金を引くべきか、引かざるべきか」
銃口を向けられているのにも拘らず、オリジナルが嬉々とした表情で両手を広げながら近付いてくる
「今のオウドは危険です、不用意に近づかないでください!」
スヌゥが焦ったようにオリジナルの行動を止めようとしているが、オリジナルは止まる気配を見せず、真っ直ぐ近付いてくる
震える銃身を掴み、自身の胸へと押し付ける
「さぁ、お前はどうする?引き金を引き俺を殺すか?それとも、俺に付き従うのか?もっとも、こいつで撃った程度では俺は殺せないがな」
オリジナルが顔を歪めて嗤っている、心底楽しそうに、まるで新しい玩具を与えられた子供のように無邪気に
俺は、どちらの声に従うべきなのだろうか
いや…そもそも、どちらかの声に従わなければならないなんてことはないはずだ
俺は、俺自身はどうしたいのだろう、俺は今、悩んでいるのか?どうするべきか、考え悩んでいるのか?
オリジナルはさっき、レプリカは深く考え悩むことが出来ないと言った…それが出来るのは人間の証だと…では、今の俺は何だ?何故こうして悩むことが出来ている?悩めているようで、実際には悩めているわけではないのか?
いや…とりあえずこれについては後回しだ、重要なのは、俺がどうしたいのかだ、頭の中の声なんて関係ない
当初の目的を思い出せ
俺は、オリジナルと敵対しに来たわけでも、服従しに来たわけでもなかったはずだ
俺は、俺のために生きる
造られた意義がたとえオリジナルのためだったとしても、俺の身体は、俺の意思は、俺だけのものだ
そう言いに、ここまで来たのだ
意を決してオリジナルを視る
だから、俺は――
「おめでとうオウド、お前は人間になれたようだ」




