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無事転送が完了し、都市バルフレアへと到着する
どうにか逃げられた…
スヌゥは俺がバルフレアから来たことは知らないはずだ、これでしばらくはスヌゥを撒けるだろう
一先ず協会へ行き、セントクルセイド王国跡地のタレリアにはどうやって行けばいいのかを聞きに行く
唯一ある記憶がこれだし、一度は行っておくべきだと思う。それになにより、そこへ行けばオリジナルに、ルフィニに会える気がした
会って、一言言ってやる
俺は俺のために生きると!
たとえこの体が造られたもので、偽物だったとしても、俺のこの意思は俺のものだ
思わず右手の拳を握りこむ
協会へ向かって歩いていくと、やけに視線を感じる気がした、何故だろうと思い自分の体を見渡してみる
傷口が炭化してる左腕が目に留まる…おそらくこれのせいだろう、確かにこんな傷があるのに平気な顔をして歩いていたのでは不審極まりない
…どこかに傷を覆えるような布は落ちていないだろうかと思い辺りを見回すと、丁度おあつらえ向きな大きさの白い布が風に吹かれて前方からこちらに飛んできたため右手で掴み取る、どうやら生活区の方から飛んできたようだ
「おーい、そこの兄ちゃん、シーツを取ってくれてありがとう、折角買ったシーツを無くすところだったよ、今まで使っていたベッドシーツがもうボロボロだったからさ…と、そんなことは兄ちゃんにはどうでもいいか、とにかくありがとうな、何か御礼をしなくちゃあな」
「礼か…なら、この布をくれ」
「…え?」
「こちらこそありがとう、丁度こんな布を探していたところだったんだ、少し大きいが…まぁ、なんとか、なるか」
「…え」
そう良いながらオウドは布を口に咥えて右手で引き裂いていく
手頃な大きさになったシーツを器用に右手だけで左腕に巻いていき、協会がある工業区へと歩いて行った
協会へは歩いて直ぐの所にあるため、その後少し歩くだけで着いた
オウドは右手で協会の扉を開け、中に入っていく
後にシーツをオウドに奪われていった男性はこう語る
「自分が何をされているのか、しばらく理解出来ずに固まってしまったんだ、だって考えてもみてくれよ、シーツを拾った御礼にそのシーツを要求されるんだぜ?訳分かんないだろ?で、返事する前にもう引き裂き始めるわけ、なんなのこれ。もう呆然と破かれたシーツが腕に巻かれていく様を見ているしか出来なかったさ、しばらくそのまま放心してたみたいでさ、近くを通りかかった人に声を掛けられて正気に戻った時には、あの男は何処かへ行ってしまった後だったよ」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「………」
協会内は、静寂に包まれていた
皆が一様に信じられないといった表情をしており、誰一人として口を開こうとしない
イエロが死んだ…この情報は、協会内の皆を放心させるに十分な情報だった
他の誰かがそんなことを言っても、冗談だろうと笑って一蹴されるのがオチだが、この情報を持ってきたのはイエロと長い間行動を共にしていたアレクとクレアである。何より、2人の表情がこの話が決して性質の悪い冗談なんかではないということを物語っていた
そんな中、静寂を破ったのはA級探索者であるグレッグだった
「つまり…お前ら腰抜けのお守りをしていたせいで、イエロは死んだってことかよ」
言葉を発したグレッグは俯いており、その表情を窺うことは出来ない
「………」
恐らくイエロは、2人を残して逃げるわけにはいかないから地帝狼と戦ったのだろう
イエロ、アレク、クレアは同じS級探索者だが、アレクとクレアの実力は、イエロとは遠く離れている
「そのうえ、オウドとかいう奴に庇われて助かっただと…?オウドってあいつだろ?受付のアンナさんに急に掴み掛ってやがった妙な奴。てめぇらは死神か何かかよ、関係ねぇやつまで巻き込んで死なせやがって!半端な実力で終末の森になんて行くんじゃねぇ!」
グレッグがアレクに掴み掛る
グレッグの顔は怒りと、少しの悲しみも混じっているような表情をしており、アレクを掴んでいる手は僅かに震えている
グレッグが前から何かとイエロに食って掛かっていたのは、イエロをライバル視しているからだろうというのは、周りの誰もが思っていたし、口にしていた。もっとも、それを口にした人物はもれなくグレッグに殴られていたが
グレッグは決してそれを認めようとせず、単に気に食わないだけだと言っていたが、ライバル視しているであろうことは、誰の目にも明らかだった
普段、口ではイエロたちを貶めているグレッグも、イエロが死に、そのうえイエロが死ぬ原因となったであろう2人がのこのこ逃げ帰り生き残っているのだ、グレッグも感情を上手く制御出来ないようだ
しかし誰もグレッグの行動を止めようとはしない、これでもグレッグはA級探索者であるし、グレッグは正論を言っている
胸ぐらを掴まれているアレクの目に涙が浮かんでくる
「俺だって…俺だって、こんなことになるはずじゃなかったんだ!そもそも地帝狼は自分から縄張の外には出ないはずなのに!俺たちは運が悪かったんだ」
「てめぇ…それ、本気で言ってんのか」
「だってそうじゃないか!過去に終末の森で行われたS級探索者の通過儀礼では、地帝狼に遭遇したなんて話は無かった!何かあったんだ、地帝狼が縄張りの外に出なくちゃならない理由が。そうだ、俺は悪くねぇ、本当に、運が悪かっただけなんだ!」
「この屑野郎!!」
グレッグがアレクの顔を殴りつけ、アレクがよろける
「いいかクソガキ、俺が気に食わねぇのは、てめぇのその、自分の行動に責任を持とうとしないその態度だ!探索者なんてやってりゃぁ、いつだって死と隣り合わせだ、イエロの野郎だって、死ぬことは覚悟の上だったはずだ、それをてめぇは、碌な覚悟もないまま終末の森に行きやがった。今まで地帝狼が縄張りの外へ出なかったからって、今回も出てこないなんて保障が何処にある、自分の行動に責任を持てねぇようじゃいつまで経ってもガキのまんまだ。運が悪かっただ?責任転嫁するな、そうじゃねぇと…死んだイエロが、浮かばれねぇだろうが…」
「グ、グレッグ…」
アレクを殴ったグレッグの瞳には、僅かに涙が浮かんでいた
とその時、協会の扉が開き、誰かが入って来る
「お前は…」
「オ、オウド…」
「い、生きて…」
協会内の皆の視線が一斉にオウドに集まる
「…取り込み中だったようだな、すまない、出直すとしよう」
「ま、待って!」
扉を開けるなり引き返そうとするオウドを慌てて呼び止める
「オウド…あなた、生きていたのね、良かった…」
今までずっと黙っていたクレアが口を開いた
「まぁな、それより、訊きたいことがあるんだが…」
「無事で良かった…って、その腕…」
包帯代わりの布で巻かれたオウドの無くなった左腕を見ながらクレアが言う
(あぁ…私たちのせいでオウドの左腕が…)
(オウド、済まない…俺たちを庇ったせいで…この償いは必ずする、グレッグに殴られて目が覚めた、それが俺の、俺たちの贖罪だ)
(何だこいつ…地帝狼と対峙して腕の一本で済んだってことか?一体、何者なんだ…)
左腕を見て固まっている皆に気が付いたのか、オウドが口を開く
「あぁ、この腕か…これは、自分で選んだ結果だ、この位の代償で済むなら安いものだ」
「オウド、お、お前…」
「オウド、私たちに出来ることがあれば何でも言って」
オウドが暗に腕の事は気にするな、お前たちのせいじゃないと言ってくれているようで、目頭が熱くなり、溢れてくる涙を抑えることが出来なかった。オウドの気遣いが、自分たちのせいでオウドを犠牲にしてしまったという罪悪感を軽くしてくれた
「そうか、じゃあ訊きたいんだが「それにしてもオウド、よく無事だったな、一体どうやって逃げられたんだ?」
「いやお前、話を遮っ「確かに、てめぇ、一体どうやって生き延びたんだ?あのイエロですら殺されたってのに」
「何?イエロが死ん「あんたすごいんだな、俺もそんなふうに強くなりたいぜ」
「………」
「あ、いや、話したくないならそれでも構わないけどさ」
オウドはただ質問攻めにされてうんざりしているだけなのだが、興奮した周囲の皆にはそう取ってもらえず、話したくないから黙っているように映ってしまったようだ
オウドは少しげんなりした顔で周囲を取り囲んでいる取り巻きを掻き分け、受付のアンナの所まで歩いていく
「ひっ」
前回、オウドにいきなり胸倉を掴まれたことがトラウマになったようで、アンナは軽く悲鳴を上げた
「訊きたいことがある、あいつらでは埒が明かない、セントクルセイド王国跡地に行くにはどうすれば良い?以前転送装置にセントクルセイド王国のタレリアに転送しろと言ったが上手くいかなかった」
「それは、何故でしょうね、そのまま、セントクルセイド王国跡地に転送と言えば王都へ転送されるはずですが…」
「何?しかし転送されなかったぞ?どういうことだ」
「オウドさん、そういえば貴方は探索者ギルドに登録していなかったですよね、貴方は転送装置にギルドカードを読み込ませずに起動したのではないですか?あれはそうしなければ処理能力がとても低いんですよ、処理能力が低いまま操作すると、こちらできちんと登録されているワードを言わなければ転送されないんですよ。それにそもそも、遺跡として残っている古代都市には、王都だったところにしか転送装置は設置されていません、でないと転送装置が何個あっても足りませんので、なので、跡地という単語が抜けたことと、タレリアという場所を指定してしまったことが失敗の原因ではないかと思います」
「なるほど、そうだったのか…なら、ギルドカードを発行してくれ」
「はい、カードを発行するには、探索者ギルドに加入していただく必要があります、加入には加入金と、加入後に幾つか守ってもらいたいものがあります」
「…なら無理だ、俺は金を持っていないし、探索者ギルドに加入する気も無い」
「えっあ、そ、そうですか…」
「ギルドカードが無くても、転送装置にはセントクルセイド王国跡地に転送と言えば行けるんだろ?」
「それは、まぁ、そうですが」
「オウド、古代遺跡に行きたいのか?なら、俺たちも付いて行かせてくれ、絶対に足手まといにはならないし、もしそう感じたなら置いて行ってくれて構わない、お前に恩返しがしたいんだ!」
「というか、探索者ギルドには入っておいた方が良いと思うよ?これからのことを考えれば、入っておかないとまともなクエストなんて受けられないし、それに加入金なんて私たちで払うよ、大した額じゃないし、こんな程度で恩を返せるとも思っていないけど…」
「恩ってのが何のことかは分からないが、そういうことならお願いするとしよう」
オウドはまたも恩なんて感じる必要は無いと言ってくれた
アレクとクレアはそれがとても嬉しくて、絶対にオウドに付いて行こうと決めたのだった
「では、カードを作っている間、加入後の説明をしますね、いくつかありますが、特別オウドさんに何かして頂く必要はありません」
「まず一つ、ギルドで受けたクエストを達成した場合、依頼料の数パーセントを探索者ギルド協会へと収めていただきます。ですがこれは達成料金の中から既に引いたものが依頼書に掲載されているため、特別そちらで何かを行う必要はありません」
「二つ目は、どんなクエストでも構いませんので、最低一ヶ月に一回はクエストを受けて下さい、一ヶ月以上受けずに放置すると登録は抹消されてしまいます、次に依頼を受けようとした場合、再登録という形になるため、また加入料金が必要になり、ランクも最低ランクであるFからになります」
「三つ目ですが、クエストが達成されても達成料金が支払われないなど、依頼者との間にトラブルが生じた場合は協会が介入します、依頼中の事故や怪我、死亡に関しては、依頼書の内容と実際の依頼内容に大きな食い違いがあった場合は本人や遺族に補償金を支払いますが、それ以外での依頼中の事故や怪我、死亡に関しては協会は一切責任を負いませんので、お気を付け下さい」
「と、この位ですね、あとは節度を守って、自由に行動されていただいて構いません、ではカードが出来上がりましたのでお渡しいたしますね、誰でもそうですが、オウドさんもFランクからのスタートになっていますので。ランクを上げる方法やランクが上げることによる特典など、細かな点に関してはこちらの冊子をお読みください」
受付のアンナからカードと冊子を貰ったオウドはカードを確認する
名前とランクが記載されているだけの、シンプルなものだった、裏面を見てみると、一部表面が削れており、金属板が露出している、ここから情報を読み取るのだろう
「よし、では行くか」
そう言うとオウドは踵を返し、入口上部の会長の肖像画を一瞥すると、協会内を後にした




