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「なっ…!?」
急にスヌゥの表情が変わったかと思ったら、カプセルに入れと強要してきた
声色までさっきまでと変わっている、一体どうしたのかと思っていると、急にスヌゥがこちらに突っ込んで来――
「ぐふっ…」
腹をおもいっきり殴られた
思わず腹を押さえて蹲る、まるでハンマーか何かで殴られたような衝撃だ
「一撃では駄目だったか、流石装備品だけは一級品なだけはある」
「ごほっ一体何の真似だ…いきなり何をするんだスヌゥ」
咳き込みながらスヌゥを睨む
「お前が悪いんだ…おとなしく従っていれば良かったものを」
「スヌゥ、お前は一体何を言っているんだ?」
俺が悪いだと?一体何のことだ…まさか俺がカプセルに入らないと言ったことか?
何だ…俺がカプセルに入らないことがスヌゥにとって都合が悪いのか?何故だ、しかしこれで確信した、やはりあのカプセルには何かあるのだ、恐らく俺の直感は間違っていないだろう
だとするとスヌゥの目的は何だ、俺に何かしようとしているのは間違いないだろうが
「――っ!」
思考に耽っていると、今度は顔面目掛けて蹴りが飛んできた
それを寸での所で躱す、すぐさま二撃目が襲ってくる、それを転がりながら何とか避ける
今は考え事をしている余裕は無い
理由はいまいち不明だが、こうして一方的に攻撃してくる以上スヌゥは敵だ
もはや話し合いが通じる雰囲気ではない、何とかスヌゥを無力化するのが先決だ
「器用に避けるじゃないか、なぁオウド」
体勢を整えたところにすかさずスヌゥの右拳が飛んでくる、それを左手で掴む
「舐めるなよ!」
拳を受け止められたスヌゥは少し目を見開き、今度は空いている左腕で殴り掛かってくる
それを右手で掴み止め、腕を押し返そうと力を込めるが押し返せない
「ぐっぐくっ…」
「く…ちっ流石に同スペックなだけはあるな、力比べしても拮抗するだけか」
「何だ…と!?」
スヌゥが気になる言葉を呟いたので訊き返すとふっとスヌゥの腕の力が抜けた
急に脱力されたせいで前のめりになってしまう
「うっがふっ」
前のめり倒れこんだ体を引き寄せられ、スヌゥが上体を反らし足で腹を思い切り蹴り上げる
口から空気が漏れ、スヌゥを掴んでいた手が離れる
蹴り上げられ若干宙に浮いた体目掛け、スヌゥが反らした体を捻り回し蹴りを放ってくる
何とか両腕で防御するが、衝撃に耐えきれずに後方に吹き飛ばされ、壁に背中を叩きつけられた
「がっ…はぁ、はぁ…」
強い、何だこいつは
手も足も出ない、どうすれば…
その時ふと、自分のスーツのホルスターに収められた銃が視界を過ぎった
これを使えば…と思ったが同時に危険だとも思った、強すぎるのだ、この銃は
どうにかして威力を調整出来ないかと思うが、例え調整出来るのだとしてもやり方を知らない
恐らくこの銃が当たれば、スヌゥは死ぬだろう、この状況で相手を殺さないよう足だけを撃ち抜く余裕などない
しかし、せっかくの記憶の手掛かりを殺してしまってもいいものか…
目の前にスヌゥの拳が迫ってきていた、さっき考え事をしている場合ではないと思ったばかりなのにまたやってしまった
左頬を殴られながら決意する
もう、殺す気で行かなければこっちが殺される
一旦距離を開けるべく、壁沿いに横へ跳ねる
「スヌゥ…出来ればお前を殺したくない、こんなこと止めにしないか?何故こうして争う必要がある?」
「は…ははは、オウド、お前冗談が言えるんだな、だが笑えないぞ、殺したくないだと?殺されたくないの間違いじゃないのか、それと、確かにこうして争う必要なんて無い、だが、何故だろうな、どうやら俺も、お前を前にすると冷静でいられないらしい」
「スヌゥ…お前がその気なら、俺はお前を撃つ」
ホルスターから銃を抜き取り、銃口をスヌゥに向けて言い放つ
「…お前、それ…」
スヌゥが銃を見て言葉を失った
全てを知っていると言ったこいつはこの銃についても知っているのだろう、この銃の威力を
この銃で撃たれることの意味を知っているなら、これで止まってくれるといいんだが…
「…それを抜いたってことは、お前も俺に撃たれても文句は言えんぞ?というか、室内でそれを撃つつもりか、止めておけ、お前とてここを壊すのは本意ではないだろう」
銃口を向けられているにも拘らず、スヌゥはまったく焦るそぶりも見せず淡々と言う
俺に撃たれてもだと?スヌゥは素手で戦う奴だと協会で聞いている、つまり奴は銃を持っては…いない、はずだ、それに、こんな危険な物がそう何丁もあるとは思えない
しかし、スヌゥの言うことももっともだ、そもそも俺はここを調べるためにまた戻って来たのだ、それを碌に調べないままで壊すわけにはいかない、しかしスヌゥに勝つにはこの銃を使うしかない
引き金に掛けた指に力を込める
「お前、本気で撃つつもりか…馬鹿め、当たると思っているのか?それに、その状態では出力が――」
スヌゥが足に力を込め動く素振りを見せるが、それより早く、スヌゥが動く前に引き金を引ききる
発射音と共に光線のようなものが発射される
しかしスヌゥは避けた、この距離で避けられた
それでも左の肩口を僅かに掠めたようで、光線の余波か、左肩が黒く煤けている
放たれた光線は建物の壁を容易く撃ち抜き、遥か彼方へと吸い込まれていった
「撃ったな…機材には上手い具合に当たらなかったが、壁に穴を開けやがって、誰がこれを直すと思ってやがる」
スヌゥが後ろを振り返りながら忌々しげに言う
今のうちにもう一発撃つかと考えたが、また避けられるビジョンしか浮かんでこず、引き金を引けなかった
「少し…灸を据えてやろう」
懐に手を入れながらそう言ったスヌゥの眼つきが変わり、思わず後ずさる
懐から出てきたのは、自分が持っているものと同じ形状の銃だった、色こそ白いが、おそらく同じものだろう
まずい…スヌゥも銃を持っているとは…これでこっちには銃があるという優位性が無くなった、どうするか…と思っていると、スヌゥは左手で自分の右手首付近の皮膚を剥がした、まるで蓋か何かを外すかのように、何の躊躇いも無く
目を疑った、一体何をしているのかと
剥がされた部分からは筋肉ではなく機械が、骨組みのようなものが窺える、何だ、あれは…
すると剥がされた場所から何か管のようなものを引っ張り出し、銃の撃鉄部分にある穴へと繋ぎはじめた
何だこれは…俺はこの奇妙な光景をただ茫然と眺めているしか出来なかった
「何だオウド、そんな顔して…まるで化け物でも見たような顔だな、命乞いでもする気になったか?」
「スヌゥお前、何をしているんだ、その管は何だ、その腕は何だ…、お前は、お前は一体何なんだ!?」
目の前の光景が信じられず、理解が追い付かない
頭の片隅で、聞くなと何かが叫んでいる気がした
「何ってお前、俺たちは――いやまてよ、その反応…そうか、さてはお前…自分が人間だと思っているのか」
「なっ…!?」
「そういえばここへ入って来た時も何か食っていたしな、こいつは何を非効率的な事をしているのかと思っていたが、お前あれ素でやっていたのか、こいつはお笑い草だな」
スヌゥが何やら言っている、今何と言った?
人間だと思っているだと?当たり前じゃないか、人間でなくて何だというのだ、それをこいつは…
お、俺を動揺させようとしてこんなことを言っているのだろうがそうはいくか
「オウド、こうしてお前と敵対した以上、逃がすつもりはない、記憶の上書きは必ず行う。冥途の土産に教えてやろう、俺のこの行動も間違いではないはずだ、そもそも俺たちの行動に間違いなんてものはないんだからな」
「スヌゥ…お前は、何を…」
聞くな聞くなと、頭の中で警鐘が鳴り止まない
「俺は、俺たちは人間じゃない、造られた存在だ」




