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あぁ、癒される
自分に懐いてくるこういった動物に対する感情というのは、本能に刻まれているのだろうか
記憶を思い出すにはどうすればいいかとか、あの建物はどこにあるのかとか、色々な事をほっぽりだしてこのままずっと遊んでいたくなる
さっきから一生懸命甘噛みしてじゃれついてくる
最初に会ったときは凄まじい勢いで逃げ出されたが、本来はこのようにとても人懐っこい性格をしているのかもしれない
仰向けの姿勢で馬乗りになられているが、この重みが心地よい、思わず体を抱きしめる
一瞬体を強張らせたが、甘えるような声色で一度鳴くと、その顔を体に寄せてきた
ふと、寝そべりながら顔を動かすと、アレクとクレアの姿が見えないことに気が付いた、じゃれ合っている間に何処かへ行ってしまったようだ
何処へ行ったのだろうかと疑問に思ったが、別に探す必要もないかと思い直す
こうやっていつまでも遊んでいたいところだがそういうわけにもいかない
建物の探索を再開するため、抱いていた腕を離し起き上がる
「そういえばお前…あの建物の近くに居たよな、何処にあるか分からないか、何て、分かるわけないか――」
自分でも犬に何を訊いているんだと思い思わず笑ってしまう、ところが当の犬は、こちらの言葉を理解したのか、まるで付いて来いとでもいうように、少し離れると振り返りこちらを窺っている
「…まぁ、どうせ適当に探し回るつもりだったんだし、付いて行ってみるのも良いか」
まさか本当に案内出来るとは思っていないが、付いて行こうが付いて行くまいが然程変わらないだろうと思い付いて行くことにする
前を歩く犬はたまに自分がきちんと付いて来ているかの確認のために振り向く程度で、まったく迷う様子も躊躇う様子もなく森の中を進んでいく
前回とは違う道を通っているからか、前回は見かけなかった植物がチラホラと見えてきた
右手側に何かの果実が生っている木がある、食べられるものだろうか
あの建物内で目を覚ましてから今日まで何も口にしていない、食べられそうなものなら食べてみようと思い実を一つもいでみる
匂いを嗅いでみると仄かに甘い香りがする
実を割ってみる、幸い実は硬くなかったようで、少し力を入れるだけで素手で割ることが出来た
中から果汁が出てくる、一体何の実だろうか、食べていいものか少し戸惑う、とそこで目の前の犬に食べさせてみて、大丈夫そうなら自分も食べてみようと考えた
前方でこちらを見て立ち止まっている犬に手招きしてみると、少しの間の後ゆっくり近づいてきた
食ってみろと言い割った実を渡すと、一度こちらの顔を見た後視線を果物に移し、食べ始めた、どうやら食べても問題ないらしい
自分も実を手に取り恐る恐る齧ってみる
…美味い、程好い甘さと酸味がある、あっという間に食べきってしまう
相変わらず腹は減っていないのだが、食べておいた方が良いと思ったので、何個か実をもいで持っていくことにする
実を取り終わるまで待っていてくれたのか、作業を終えると犬が歩き出したのでまた付いて歩き始める
道中、さっき取ってきた実を食べながら歩いていく
陽光が木々の隙間から差し込んでくる、日が暮れるまでに建物に着けるだろうかと思ったが、そういえば自分は夜目が利くし、いざとなれば前と同じように何処かに横になって夜を明かせばいいと思った
そうしてしばらく歩いているとだんだんと日が陰ってきた、自分はまったく疲れていないが、道案内してくれている(かもしれない)犬の方はどうだろう、見た限りでは歩く速さは変わっていないし、疲れている様子も無さそうだ、まだしばらくは大丈夫だろうが、日が落ちきる前に休む場所を確保した方が良いと思い、前を歩く犬に声をかけてみる、すると犬はこちらを振り返り近くの木の根元に横になり丸くなった
やはりこちらの言葉を理解しているのだろうか、なんとも利口な犬だ
自分も横になり休むことにする、まったく疲れていないし眠くもないが
横になりしばらくたち、日も完全に落ちきったようだ、だがやはり一向に眠れる気がしない
今回も朝になるまでただ横になり目を瞑っているだけになりそうだ
日が射してきた、夜が明けたようだ、当然一睡も出来ていない、自分の体は大丈夫なのかと不安になってくる
起き上がり伸びをすると犬も起き上がった、もしかして起きるのを待っていたのだろうか
犬がまた歩き出したので自分も歩き出す、本当にこれで着けるのだろうか
またしばらく歩いていくと、例の建物が見えてきた…本当に着いてしまった、こんなにあっさりと着けてしまうとは思わなかった
…おかしい、蹴り飛ばして壊してしまった扉が元通りに直っている
つまり、誰かが此処へ来たのだ、自分がこの建物から出て、またこうして戻ってくるまでの間に
偶然だろうか、それとも、自分に会いに来てすれ違いになってしまっていたとかだろうか
犬は建物の少し前で立ち止まりこちらを振り返った、どこか顔がやつれているように見えるんのは気のせいだろうか、無理をさせてしまったのだろうか、悪いことをしてしまった
ここまで案内してくれた犬に礼を言い、もう大丈夫だと告げると静かに立ち去って行った
もう大丈夫だと言った時、心做しか安堵の表情を浮かべたように見えた、やはり少し無茶をして案内してくれていたようだ、今度会った時はお返しに沢山遊んであげようと思った
さて、とにかくまたこの建物まで戻って来たわけだ、何か記憶の手掛かりになるものがあればいいのだが…
とっておいた果実を齧りながら扉に手を掛ける、やはり開かない、よく見ると扉に何かの差込口のようなものが付いている
何か鍵のようなものが必要なのかもしれない、しかしそんな鍵は持っていない、一度壊すのも二度壊すのも一緒だろうと思い、せっかく元通りに修理された扉を力任せにこじ開け、中に入った




