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まさか一撃食らわせられるとは思っていなかった

そこそこに強い人間だろうとは思っていたが、それでも自分に一太刀浴びせてくるとは予想外だった

油断していた訳ではない、追い詰められた人間の底力を垣間見た気がした

自分に一太刀浴びせた事に敬意を評し、この男は喰らうことにした、己の血肉となり糧としてやる

ふと、目の前の2人の人間が狂性大鬼(ベルセルクオーガ)を倒した所で、こちらを振り返った

振り返ったその表情は最初、喜色に染まってたが、自分の存在に気が付くと、その表情は硬直した

先程まで戦っていた人間と比べると、この2人の人間は比べるべくもない

今こうして自分という存在を前に固まっていることからも容易に想像出来る

脇腹に刺さっている刀を魔法を使い引き抜いていく

引き抜かれた刀身が地面に落下し音を立てる、それを呆けた顔をしたまま2人の人間は視線を動かし眺めている

目の前でさっきまで戦っていた人間の首を噛み砕くと、2人の人間はやっと状況を理解したのか、なんとも間抜けな表情で蜘蛛の子を散らすように後ろに向かって逃げ出した

取るに足らない雑魚だが、殺しておくかと、地帝狼はそう思い2人の人間を追いかける

欠伸が出そうな速さで追いかけているにも関わらず、直ぐに追い付いてしまう

さてどうやって殺そうかと考えていると、2人の人間の前方から新たな気配を察知した、これは、こいつは…

地帝狼は体が震えているのは武者震いだと自分に言い聞かせ、自分の中の恐怖をさらに怒りで塗りつぶしていく






◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


さて、またこうして終末の森とやらに戻って来た訳だが、あの建物はどこにあるのだろう

もう少し目印になるようなものを見つけておくべきだったと今更になって思うが、あの時はそんな事にまで頭が回らなかった

とりあえず奥へ進めばまたそのうち着くだろうと思い、歩き出す

すると、前方から先程別れたばかりのアレクとクレアが走ってくる、2人もこっちに気付いたようで、何やら逃げろだの何だのと叫んでいる

一体何事かと思っていると、2人の後ろから追いかけてくるものがいた、あれはあの逃げられた犬じゃないか

なるほど、そういうことか、あいつらクエストに行くとか言っておきながら犬と遊んでいるわけか、今は追いかけっこの最中で、俺も一緒に逃げろと、そういうことか、ところでイエロの姿が見えないな、別な場所にいるのだろうか

そんなことを考えていると2人とすれ違う

すれ違いざまに2人は相変わらず逃げろと喚いている

犬は前回とは違い、俺を見ても逃げようとはせず、むしろ俺に向かって飛び込んできた

追いかけっこするよりもじゃれ合う方が楽しそうだ、せっかくこうして飛び込んできたのだし、俺も一緒に遊ぶことにしよう、両手を広げて飛び込んできた犬を迎え入れる






ハッ…ハッ…ハッ…

もう少しで転送装置の場所まで辿り着く、もう少しだ、もう少しで逃げ切れる

地帝狼から必死に逃げていると、前方に人影が見えた、あいつは…

あいつ、終末の森には来ないなんて言ってやがったのに、どうしてここに居るんだ

俺はあいつに向かって、走りながらめいっぱい叫んだ


「オウド!逃げろ!今すぐ都市へ引き返すんだっ!」


俺が必死に叫んでいるにも関わらず、あの野郎はすっとぼけた顔でこっちを見ている

あのバカが、どんな状況か飲み込めていないのか?

クレアも必死にオウドに向かって叫んでいるが一向に逃げる気配が無い

すれ違いざまにもう一度言ってみるがまったく逃げない、それどころかあのバカ、あろうことか立ち止まって両手を広げだしやがった

まさか、あいつ…

状況が飲み込めていないなんて、そんなことは無かった

あいつは、身を挺して俺たちを庇うつもりなんだ、会ったばかりの俺たちのために、あいつは…

よせ――そう言いかけて、言いだせなかった

あいつの覚悟を無下にすることになる、それになにより、このままオウドを犠牲にすれば、俺たちは助かるという打算が尚更言いだすことを邪魔した

そんな考えをしてしまう自分自身に嫌気が差す

両手を広げて悠然と立ち塞がるその背中が、やけに大きく見えた






◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


憎き怨敵が、あろうことかこちらに向けて両手を広げて突っ立っているではないか

今追っていた2人の人間を庇っているつもりなのか

地帝狼にとって、今はもうそんな雑魚2人なんてどうでもよかった、こいつを、目の前のこいつさえ引き裂ければ…にも関わらず、こいつは戦う意思をまるで見せない、そのことがひどく頭に来た

最強を自負していた地帝狼は、これ以上ない侮辱を受けて腸が煮え返る思いだった

四肢に力を込め、地を蹴り飛び込む、奴の体を引き裂くために

無防備な体へと突進し、左肩から首かけて噛み付く

今の攻撃は過去最高の出来だったと地帝狼は確信した、確実に奴を砕いたと

しかし牙から伝わる感触が妙だ、噛み千切った感触ではない

突進しぶつかった衝撃で両者は縺れ合い、地面を転がっていく

地面を転がりながら、噛まれた当人は奇声を上げながら楽しげに笑っている

頭がどうにかなりそうだった

今の攻撃は完璧に決まったはずだ、何故こうして笑っていられるのだと、地帝狼は困惑した

ようやく回転が止まり馬乗りの状態になる

噛んでいた牙を離すと、驚くべき光景が飛び込んできた

噛み付いた部分に、まったく傷が無いのだ、それどころか歯型の一つも付いていない

そんなはずはないともう一度噛み付くが、先程噛み付いた時と同じ感触が返ってくる

塗りつぶされていた恐怖が、再び顔を出し始めた

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