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「フィジカルブースト!」


アレクの掛け声により、体全体が淡い光に包まれる

魔法を使い、体全体の筋力を底上げする

これにより、普段以上に素早く、力強く動けるが、慣れないものがこれを行うと強化された体と普段の体とのギャップにより、逆にまともに動きを制御出来なくなる、なので自身の身体能力を向上させる魔法を使うには、それ相応の訓練などが必要になる

アレクは卓越した戦闘センスにより、身体能力の向上した体を自在に操ることが出来、この魔法を使った近接戦闘がアレクの十八番である

逆に、外に放出するタイプの魔法は苦手としている


本来、魔法を使うのに、魔法名を口にする必要はない

そもそも、魔法とは想像を具現化する現象を指すものであり、魔法そのものに名前は存在しないため、これらの名を口にする行為は、頭の中で描く魔法のイメージをより確固たるものにするために行うためのものである

もっとも、一流の魔法使いや熟練者なら、わざわざ口にすることなく魔法を扱える


「オオラァ!」


アレクは走りながら、背中から愛剣であるツーハンドソードを抜き、右上段から袈裟懸けに斬り付ける

アレクの気迫に押されたのか、今の一撃の危険性を感じ取ったのか、狂性大鬼(ベルセルクオーガ)がハッと目を見開き、素早く後方に跳ねた

アレクの剣は空を斬ったが、そこで攻撃を止めずに走っている勢いを乗せて狂性大鬼の顔に向けて突きを放った

これにも狂性大鬼は反応して見せたが、避けきれなかったようで切っ先が頬に掠めてしまう

そこでアレクは後方へと飛び、一旦距離を取る


「あれを避けるのか…何て反応速度してやがる」


狂性大鬼は頬を伝う血を拭い、アレクの顔をジッと見つめる

見つめられたアレクは、早足で鳴る心臓の音を感じながら、内心そこまで焦っていない自分に気が付いた

それは相手に傷を負わせることが出来たからか、クレアを守らなければという使命感からか、とにかく最初に狂性大鬼と目があった時ほどの精神状態ではなかった

対する狂性大鬼は、自分の食事を邪魔した、ついさっきまでは目があっただけで竦み上がるような、取るに足らない雑魚だと驕っていた相手から一太刀あびたことで、少し冷静さを取り戻しつつあった

今自分が対峙しているのは、ただ狩られるだけの獲物ではない、自分と対等に渡り合えるであろう強者であると、認識を新たにしていた

狂性大鬼が再びアレクに向かって駆け出す

狂性大鬼が右腕を振り上げ攻撃を仕掛けてくる

アレクは右腕の振りかぶりを避けようと上体を左に捻る

体の捻りを利用し、アレクは右下から切り上げる、しかし狂性大鬼はまたも素早く体を倒し躱してしまう

そこから更に追撃を仕掛けるが、体勢のせいで上手く力が乗せられず、狂性大鬼の振るった爪とぶつかり威力が相殺されてしまう


「ラピッドブースト!」


これでは埒が明かないと、アレクは再び距離を取り、今度は速度重視の魔法を重ね掛けする

魔法を重ね掛けしたり、同時に2つ以上の魔法を使うと、魔力の消費が著しく上がるが、短期決戦に持ち込んだ方が良いと判断し、魔法を使った


「さぁ、こっからが本番だぜ!」


アレクは一瞬で狂性大鬼の懐まで潜り込むと、怒涛の攻撃を仕掛ける

狂性大鬼は瞬く間に防戦一方に持ち込まれるが、流石と言うべきか、攻撃を受けてもしっかり急所は外している

今一つ決定打が打てないアレクは焦燥感が少しずつ募ってくるが、それを気取られまいと顔には出さずに攻撃を続ける

一方狂性大鬼は何かを決意したかのように、瞳に意思が籠る

アレクはその表情を見逃さず、何かされる前に勝負を決めようと、最初に放った一撃と同じように、全力で袈裟懸けに斬り付けた

狂性大鬼はそれを待っていたかのように、今度は避けずに左腕を剣に向けて差し出し、空いた右手でアレクの鳩尾を思い切り殴りつけた

錐揉みしながらアレクは吹き飛ばされ、木に背中から叩きつけられた


(ぐっ…い…今、何をされた?意識が飛びそうだ、体中が痛い、何がどうなったんだ)


「げほっごぼ」


(これは、血…俺は攻撃されたのか?)


ボタボタと口から血が垂れてくる、激痛により気絶しそうになるが何とか意識を繋ぎ止め顔を上げると、左腕が肘あたりから無くなり、苦悶の表情を浮かべている狂性大鬼の姿が見えた

それを見てアレクは理解した


「野郎…ごほっ左腕を犠牲にしてカウンターを合わせてきやがったのか、げほっこの防具じゃなけりゃ即死だったな…」


以前A級クエストである幼竜の討伐で得た素材を使った防具が、たった一撃受けただけでボロボロになってしまっている、次に攻撃を受けたら恐らくもたないだろう

アレクはふらつきながらも何とか立ち上がり、再び剣を構える、しかし先の一撃のダメージにより、すでに立っているだけで精一杯だった

それを好機と見た狂性大鬼が突っ込んでくる


「サンダーアロー!」


突如狂性大鬼に紫電の矢が突き刺さる

雷撃により筋肉が硬縮し、狂性大鬼の動きが止まる

何が起こったのかとアレクが不思議に思っていると、後ろからクレアが声をかけてきた


「アレク加勢するよ、私はもう大丈夫、2人であいつを倒すわよ、とその前にアレク、ライフポーション飲んどいた方がいいよ」


そういいクレアはアレクにライフポーションを渡す

礼を言いアレクはポーションを飲み干した

アレクが自分で持っていた分は先程の攻撃を受けて吹き飛ばされたときに割れてしまっていた

飲み終えたアレクは痛みが多少和らいだようで、幾分か表情に余裕が出てきた

もう大丈夫と言った通り、クレアの表情はもうさっきまでの表情とは違い、闘志が満ちている


「さてクレア、さっさとあの野郎を仕留めちまおうぜ!」


「えぇ、やってやろうじゃない!」


行くぜ熊野郎とアレクが担架を切って走り出す

クレアはその場に留まり、魔法でアレクをサポートする側にまわる

クレアの魔法から立ち直った狂性大鬼がこちらに向かって鬼の形相で突撃してくる


「ストーンシェイド!」


クレアは今度は狂性大鬼の顔を覆うように土の壁を生成する

突然視界が暗転した狂性大鬼は何事かと慌てて右手で自分の顔に触れる

誰しも急に目の前が暗くなれば慌てるものだ、その隙をついてアレクは強化された身体能力に任せて狂性大鬼の首を右手ごと刎ねた

大量の血飛沫が飛び、刎ねられた首が地面に落下する

狂性大鬼は憤怒と困惑の表情が一緒くたになったような表情を浮かべている


「勝った…やった、やったぞ!」


「やった!私たちの勝ちね!」


「どうだイエロ!見てたか俺たちの華麗な戦いをよぉ!」


後方で自分たちの戦いを見ていたであろうイエロに声をかけ振り返る

すると後ろには、イエロの首を咥えた地帝狼が佇んでいた

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