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15話目は一滴の墨が如く

季燕君の対魔獣の戦闘能力はドン底です、里で自他共に認めるワースト1です。

あれからえっちらおっちらと里に帰った後が大変だった。



まずインディゴを探してくると俺が森に入ってかなり経ってたらしい。帰りは疲れてたし、インディゴが先導してくれてたから全然気付かなかった。


手分けして最初に俺がうろうろしてた辺りを探しても見付からず、とうとう本格的に捜索隊を編成するかという議論の真っ只中だった。

そうしたら森からインディゴ付きで帰ってきたから、みんな胸を撫で下ろしたらしい。俺の弱さは笑えないくらいだから。


ロランダさんを筆頭に、インディゴと揃ってたくさんの人に怒られた。そして心配した、無事で良かったと言ってくれた。

バースさんとかチュリッダさんとか特に仲良くしてくれる人達は泣いてまでいたから、俺まで泣いてしまったのはみんな秘密にしてくれると思う。



ここまでなら、単に良かった良かったで済む話だ。

だがそうは問屋が卸さなかった。



俺がインディゴの背中に横たわったままだった鎧の人を思い出して、慌てて「騎士が落ちてた」と言ってしまったからだ。

里中、大人も子供もパニックになった。

みんな俺より背が高いのに、揃って無事だったことに意識が行き過ぎて見えてなかったようだ。


大急ぎで里長であるマスロゥさん宅に連れて行き、一番良い部屋で休ませることになった。

マスロゥさんが言うにはハヴァード王国の国王近衛騎士隊の鎧に間違いないらしい。




どう明るく考えても厄介事にしか思えない。




重ね重ねご迷惑をかけて本当にすみません、と渾身の土下座を披露したのはマスロゥさんだけが知っている。


問題は、騎士を鎧のままベッドに横たわらせたりしたらその瞬間にベッドの寿命が尽きることだった。

なので鎧も兜も剣も外してベッド脇に揃えておくことになった。本当は不敬罪になりかねないんだけど、ことがことだ。

騎士が起きたら謝り倒してうやむやにすることに決定した。






ガチャッ、グイグイ…


ガチャガチャ…パチンッ


「あ、剣やっと取れた…!」


バチンバチンと、留め具が音を立てても騎士に全く起きる様子はない。鎧が重いからそっとしようとしても騎士自身に当たりまくってて怖い。

こういう時って飛び起きて殺気出しながら誰何するんもんじゃないの?騎士サマっていうのは。(偏見)



ごつくて何重にも固く止められてた剣はどうにか出来たけど、兜な外し方なんか見当も付かないんだが。

そのまま首から引っこ抜いていいんだろうか。鼻とか強打しそうだし、駄目かな。



「…えぇいままよ!」


今更鼻に当てたくらいで変わらないしな!既に色々当てまくってるしな、鼻血出なけりゃそれでいいや。


吹っ切れてかなり強引に兜を引っ張る。留め具とか見付からないし重いし詰みそうだ。


「ぬぅぅぅ~…ぉわっっ!」


突然兜が抜けた。勢い良くずるっと行ったから重さも相まって後ろに転びかける。

床に放り出さなかった腕の兜に安堵のため息をついて騎士に向き直った。


「うっわ…ムカつくくらいのイケメンじゃねえか…滅びてしまえ」


銀色の肩でバッサリ切られた髪に、貴公子然とした顔立ち。

美男子って言葉が人間になったらこんな感じだろうか。

思わずモテない男子のせりふという呪いを吐きつつ剣のそばに兜を下ろした。流石に鎧は無理なので、バースさんとハスターさんにバトンタッチだ。


「じゃー鎧外してベッドに寝かせるまでお願いしますねー」


「おうよ。疲れたろうからしっかり休めよ、キエン。えらい綺麗な兄ちゃんだなぁしかし」


「寧ろ休めなきゃ倒れますよ俺」


「もう無茶は駄目だぞ、インディゴも気を付けなければな」


「ガウ…」


俺が弄ってた時よりも大分小さく少ない音を聞きながら、マスロゥさん家を後にした。


ほとんどインディゴに乗ってるような状態だけどなりふり構ってられない、ベッドが俺を待っているから。せっかくロランダさんが作ってくれた夕食もこの眠気と倦怠感のせいで食べ損ねるだろうな。



その日の最後の記憶は、ロランダさんのお帰り、という声だった。


波乱の予感を示唆してみました。


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