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嘘と本音  作者: マツ
3/6

3 方法を探そう

 最後の授業もHRも終わった後。

 部活へ向かう生徒で溢れる廊下を通り過ぎて、由里は学校の図書室に向かった。しんと静まり返る図書室には二人、三人が自習に来ているだけで他に人の姿は見えない。静寂が続くここの雰囲気が由里は好きだった。

 最初は何もやることないから顔を覗かせていただけだったが、暇つぶしのつもりの読書にどんどんのめり込んでいった。今では常連だ。

 いつものように借りていた本を返却箱に入れ、次にどの本を読もうかと本棚の間を徘徊する。一続きの物語は今返却した本で終わってしまった。新たなシリーズ物を読むか、それとも今まで読んだことないジャンルに手を出そうか。

 そう思案していると、目の前にいきなり人が降ってきて呼吸が一瞬止まった。


「うわ、って西岡くんか」

「図書室では大きな声を出さないようにお願いしまーす」

「誰のせいよ」


 どうやら脚立に乗って高いところの本を取っていたらしい。それにしても脚立から飛んで降りるなんて、と突然現れた西岡孝史を睨む。

 彼とは由里が本に興味を示した頃からの知り合いだった。図書委員である彼は大抵、図書室にいるのでここに来ると自然に会うことになる。のんびりとした雰囲気から勘違いしがちだが彼はよく物事を見ており、時折ぽつりと零す言葉にハッとすることがあった。

 いつものローテンションな声に突っ込むと、一冊の本を差し出された。


「なに、この本。西岡くんが借りるんじゃないの?」

「さっきからぼーっとした顔で回ってたから。借りたい本が見つからないのかと思って」

「……一言多いような気がするけど、ありがとう」

「そっちの方が一言多いと思うけど」


 眠たげな目でそれだけ言うと再び脚立に上りだす。なんとなく、必要ないように感じたが脚立を支える。

 下りてきた彼が由里に渡した物とは違う本を手にしているのを見て、目を瞬いた。


「それ、なに?」

「たぶん浅野さんが興味ない類だと思う」

「西岡くんに言われると説得力あるなぁ」


 今まで彼に選んでもらった「お勧めの本」は全て由里の好みにあった本だった。そんな彼が「お勧めしない本」ということはきっとそうなのだろう。

 それでもどんな本なのか気になって表紙の題名を見てみる。


「『ミツバチダンスの謎』……?」

「八の字になって飛ぶやつだよ。それで仲間とコミュニケーションをとってる」

「へぇー」

「ちなみに生物の授業でやった内容だよ」

「うそ、私記憶がないんだけど」

「三組と四組とじゃ授業の進み具合が違うのかも。三組の方が進んでるのかな」

「じゃあ四組も近々習うかな、ミツバチダンス」


 文系クラスは全クラスが生物をとっている。一組から四組までが文系のため、由里も孝史も文系だ。


「西岡くんって生物好きなの?」

「うん、興味はある」


 じゃないとこんな本は借りないよ、と言う彼にそれもそうだと頷く。


「そんなに好きなら理系に行けばもっと学習出来たんじゃないの?」

「確かに一年文理選択のときは迷ったけどね。でもよく考えたら趣味の内に入るかなぁと思って」

「よく考えてるなぁ。私は理系科目なんて出来るわけないから迷わず文系だよ」


 あまり大きな声を出すと自習している人の邪魔になるので、二人でひそひそと喋る。

 そのうち孝史が小さく「あ、」と声を漏らしたので由里も本から視線を外して顔を上げた。

 彼の視線の先にはカウンター。詳しく言うと、カウンターに並んだ人。図書委員の姿が見えないためか視線を彷徨わせている生徒を見て、眠そうな目はそのままだが音もなく素早い動きでカウンターへと進んでいった。


 そう言えば図書委員だったな、と孝史の背をぼんやり見ていた由里は話相手がいなくなったため、手元の「お勧めの本」へと視線を戻す。

 題名は『何故、想いが伝わらないのか』

 見た瞬間、ドキッとした。あまりにも今考えていることに当てはまり過ぎていて、それをお勧めだと言った孝史がもしかして事情を知っているんじゃないかと思った。

 パラパラとめくって見た感じでは、この本が恋愛小説だということしか分からなかった。だが、考えを見透かされているような気がして、少し恥ずかしかった。

 だって、仲たがいをした男女の縁りを戻そうとしてるなんて! 考えてみればただのお節介のような気がする。

 そっと孝史を伺うと生徒はいないがまだカウンターにいて、自分の借りた本を読んでいるようだった。もうお喋りは終了らしい。

 孝史から見たら滑稽に見えるんだろうなと思うと、面と向かうのは正直遠慮したいが「お勧めの本」として渡されたからには読みたい。

 自然に、自然に。と、思いつつ足を進め、カウンターへ何でもないように本を置く。それに気づいた孝史が図書委員のマニュアル通りに本を受け取り、バーコードに機械を当て、由里へと本を渡す。


 渡される際の「これ、気に入ると思う」と言う不意打ちの言葉に頷き返すので精一杯だった。



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