第四十二章
「ドレイク殿。ようこそお越しくださいました。何か御用でございますか」
執務室でテオドロスと共に書類に目を通していたアントニウスはその夜、ドレイクの突然の来訪に驚きながらも、笑顔で迎え入れた。
アントニウスの執務室には身体の大きな来客に勧められる椅子がなかったので、二人で絨毯の上に足を組んで座る。
テオドロスはてきぱきと座布団を調達し、酒を準備してくれた。
それは龍乃国で作られているあの酒だった。アントニウスにはそのまま酒杯で出したが、テオドロスはその酒を、厨房の竈で温め、同時に茶を沸かして混ぜ、酒杯ではなく小さな茶器に注いでドレイクに出したのである。
龍乃国の酒の香りが、イミリーシャで作られた茶の香りと絡まり合う。
あまり酒に慣れていなかったはずだったが、一口含んでドレイクはその調和の取れた味わいに感心した。
ドレイクがあまりに美味しそうにしているのを見て、アントニウスも最初に出された自分の酒杯を干したのち、同じものをテオドロスに頼むのだった。
三度ほど茶器を干したドレイクは満足したように息をつくが、ふと顔を引き締めて、アントニウスを見た。
「暴虐竜に、戻ろうと思う」
アントニウスはその一言だけで、ドレイクの考えを概ね把握した。続けるように、眼で促す。
「このまま俺が飼い慣らされた英雄になれば、人は安心する。安心はやがて慢心に変わる。慢心は忘却を呼ぶ。忘れた頃に、本当に竜たちが戻れば、次こそ終わる」
アントニウスは否定しない。
「おっしゃる通りでございます」
「……止めない、のか」
「止めてほしいのでございますか」
少し揶揄うようなアントニウスの口調に、ドレイクはわずかに目を細めるが、アントニウスは続ける。
「封印解放のてがかりはおありだと仰られましたな」
ドレイクは躊躇ったが頷く。アグニアに来たこと、戦が起こる気配を感じるたびに戦場に姿をみせていたこと。ドレイクの中では既にほぼ確信に近い物を得ているのだ。マギーラの残党は死んでしまったが、他にも策があるのだという。
「それを探しにいかなくてはならない。そのためには、これからも各地で様々な種族の戦士が闘志をぶつけ合うような状況を作る必要がある」
それならばその闘志と剣が向かう先は、お互いの軍勢ではなく共通の敵•暴虐竜としてはどうかとドレイクはアントニウスに持ちかけるのだった。
ドレイクから封印解放の全容を聞いたアントニウスはこれを自身の筋書きに絡めることにした。
自分を高潔な統治者だと信じてくれている弟に、また辛い別れを強いなければならないのが、少し残念だった。
ドレイクが少し寂しそうに笑って語ったのは、封印解放と混血の誕生について、アイリーナに知恵を授けられた時のことだった。




