第四十章
数日続いた雪が止み、雲間から射した冬の光が、イミリスノープル大聖堂のステンドグラスを透して差し込んでいた。例によって、信徒のための長椅子はすべて取り払われている。
石床に落ちる白光は冴え冴えとして冷たいが、その場に集う者たちの気配は、張り詰めた熱を帯びていた。
数段高く設えられた内陣の中央には、王宮の謁見の間から運ばせた玉座に座る国王アレクシオス。そしてその両脇には、龍の巨躯に合わせて誂えられた席が据えられ、左右には勇輝子をはじめとする龍たちが、礼服を身に着け悠然と身を置いている。
内陣の一段下には王太子アントニウス。さらにその下、身廊前方には中央官僚と冬季議会の貴族が列し、後方壁際にかけては、諸侯および下級官僚たちが整然と控えていた。
やがて、アントニウスが進み出る。
暴虐竜の復活。それに与したマギーラ残党の暗躍。そして内乱の顛末――
すべてが申し合わせ通り、詳らかにされていく。
続いて、グライロス卿バシレイオス・リソクリオン、ダストヴァレア卿レオニダス・コニスファロン両名の反逆と、その処罰が告げられた。
異を唱える者は、誰一人としていない。
粛然たる空気の中、儀礼官の声が響く。
「――これより、アグニア内乱における論功行賞を執り行います。王立近衛兵団航空騎禽隊長、アンドリ・チェイレイ」
「はっ!」
真っ先に名を呼ばれ、アンドリは進み出た。アレクシオス王の前に、片膝をつく。
アレクシオス王の声が静まり返った礼拝堂内に反響する。
「此度の働き、まこと見事であった。航空騎禽隊の奮戦、王国の剣として比類なきものなり」
アンドリは頭を垂れ、応じる。
「身に余るお言葉にございます。すべてはアントニウス殿下の御統率あっての戦果にございます」
その一言に、列する官僚の幾人かが、わずかに視線を交わした。
「ストラテゴイ騎士団長、イサキオス・アグリオス」
静かに次の名が呼ばれ、彼もまた進み出る。膝を折り、王の前に頭を垂れた。
「貴殿の率いる騎士団、終始秩序を保ち、戦線を支え続けた。その功、まことに顕著なり」
イサキオスは、微動だにせず応じる。
「恐悦至極に存じ奉ります。この身朽ち果てるその時まで、王国の剣として在り続けることを、ここにお誓い申し上げます」
論功は続く。各隊、各将へと褒賞が下され、場は次第に整えられていった。
そしてアレクシオス王は、龍たちへと向き直り、踵を合わせて姿勢を正した。
「此度、龍皇陛下ならびに龍乃国の御一同におかれましては、多大なるご助力を賜りました。とりわけドレイク殿のご奮戦、まこと比類なきものにて――王国を代表し、深く謝意を表し奉ります」
その言葉を受け、艶やかな礼服を纏った龍皇勇輝子が、静かに立ち上がった。
「――申し述べよう」
低く、澄み渡る声が、礼拝堂の隅々まで行き渡る。
「此度の戦、勝利を掴みしは、龍にあらず」
その言葉に、堂内がざわめく。どんな言葉が続くのかと、一同は固唾を飲んだ。
龍皇の視線がゆるやかに場を横切り、雷電を思わせる眼光でその人物を捉えた。
「イミリーシャ王国王太子アントニウス・イミリシウス殿」
「はっ!」
アントニウスが進み出る。
「研ぎ澄ましたるそなたの牙、爪。何者にも食い破られぬ鱗を備えた闘魂」
静寂が、さらに深まる。
「迫り来る暴虐竜の災厄に対し――我らが手を携えるに足る者と見定めた」
勇輝子は、わずかに顎を上げる。
「戦友よ」
その一語が、空気を変えた。
「そなたらに危急あらば、我らを呼べ。何をおいても、一飛びにて馳せ参じよう」
アントニウスは進み出て、龍皇の前に膝を折った。
「過分なお言葉、かたじけなく存じます。イミリーシャ王国を代表し龍皇陛下、ドレイク殿ならびに龍乃国のご厚誼に、この身命を賭して報いることを、ここにお誓い申し上げます」
その瞬間、アンドリが跪いた。
テオドロス、そして航空騎禽隊の面々がそれに倣う。波が広がるように、礼拝堂に集うすべての人間が、龍に頭を垂れた。
冬の光が照らしていたのは――もはや玉座ではなかった。




