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Dragons Cry, Destined to Fly ー竜哭の彼方ー  作者: Watt A. Lee
第二十七章

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第二十七章

 人と龍の盛大な宴は、日没前から始まり、月が中空に差し掛かるころまで続いた。海へ沈む夕日が水平線を朱に染め、その余韻が消えぬうちに、やがて東の丘陵から大きな月が昇る。刻一刻と移ろう空の色、絶えず寄せる波音、暖かな海風が運ぶ潮の香り。煌々と明るい月光の下、砂浜に設けられた宴席は、まるで夢の中の景色のように風流であった。

 前回と同じく、護衛や下働きの者にまで席が用意されている。龍達は身分差というものにあまり頓着しない様子である。とはいえ王族のアントニウスとその側近の貴族たちへの配慮として、龍皇や侍従達とすぐに言葉を交わせる上座を案内した。

 だが料理や酒などは随行員にもまったく同じ質のものが出された。

 通常、アントニウスや貴族たちには訪問先でもそれぞれが連れてきた侍従が給仕につくものだが、何しろ皿も料理も龍の寸法なので、とてもではないが人間の侍従には抱えられないのである。

 給仕はこちらでするからどうぞご一緒にお楽しみくださいと言われ、一人残らず席に案内されてしまい、イミリーシャの小間使いたちも兵もやや戸惑い気味であった。

 そんななか、さっさと郷に従うことにしたのは護衛として随行した近衛兵団重装歩兵第一小隊の面々である。この戸惑いを昨年の内に経験してしまっていたので、あっさりと馴染んでいた。

 第一小隊副隊長にして隊長代理のテオドロス・メガラが、落ち着いた声で杯をアンドリに差し出す。

  「ご一緒させていただけて光栄です、チェイレイ隊長」

  アンドリは内心の焦燥を覆い隠し、苦笑しながら杯を受け取る。テオドロスは一口含んで笑った。

「感慨深いです。ですが少々意外でしたな。貴方はもっと酒に弱いかと。普通は酒を覚えたての若いのは、加減を見誤るのが常なのですがね。この酒、結構強いはずですよ」

 アンドリはいまいちピンと来ていない様子であるが、杯の中の酒を見て言った。

「酒の質かな。まだこれしか呑んだことがないから、これからいろいろ呑み比べていく」

「いいことですよ。貴方と呑み交わせる夢は叶いましたが、酔いつぶれた貴方を介抱する夢も、いずれ叶えさせてくださいね」

 その横から、遠慮のない声が割り込んだ。

「聞きましたぜ副隊長殿!そんならその夢、オレが今叶えてやりまさあ!」

「何だティゴ」

 テオドロスとアンドリは杯を持ったまま、きょとんとティゴを見る。

「何って、決まってるでしょうが!酒は俺が教えてやりたかったんで!」

 ティゴは酒瓶を手にぐいと身を乗り出してきた。

「隊長殿がようやく酒を覚えてくだすった記念に一勝負願いまさあ!」

「ティゴ! 抜け駆けは許さねえぞ!」

 アンドリとテオドロスの周りに、自然と第一小隊の面々が集まってきた。

 無礼講とはいえ近衛兵団長にして王太子であるアントニウスや、何より龍皇の御前で見苦しい様子を見せるわけにいかない。テオドロスが慌てて割って入る。

「控えろ貴様ら。度が過ぎるぞ」

 だがその言葉を、アンドリが遮った。テオドロスがわずかに眉を寄せる。

 アンドリは、少し口元を緩めていた。 どこか楽しんでいるような、珍しい表情だった。

「加減を見誤るのが常だと言ったな。俺も自分の限界を知っておくいい機会だ。ティゴ。お前が教えてくれ」

「っしゃあああ!オレが隊長殿を漢にしてやりますぜ!」

「待ちやがれティゴ! 一人だけずりぃぞ!」

 一気に包囲され、あっという間に宴席の中で最も盛り上がる集団となってしまう。

 ところが、酒には自信を持っていたはずの第一小隊の面々であったが、杯を重ねるうちに一人また一人と撃沈していき、輪の中に意識を保っている者がいなくなってしまったのである。

「くっそ……どうなってんでさあ。隊長殿、顔色ひとつ変わってねえじゃねえか……」

「いや? 酔いが回っているのは間違いなく感じているんだが」

 アンドリは最後の一杯を飲み干し、静かに息をつく。

「酔っぱらった隊長、見てえと思ったのに……」

 その言葉を残して最後の一人が意識を手放し、大の字にいびきをかき始めてしまった。

 テオドロスは呆れて言ったものである。

「驚きました。水をお持ちしますか」

「いや、大丈夫だ」

 そうですか、と息をつくが、少し笑って続けた。

「……まったく不甲斐ない者どもだ。どうやら貴方を介抱する夢はお預けのようですね」

 アンドリはくすりと笑い、テオドロスと共に隊員たちを両肩に担ぎあげた。屍の累々としたような有様はいささか見栄えがよろしくないので、あてがった離宮に連れていく。

 アンドリは前を見据えたまま、同じく肩に隊員を担いで横を歩くテオドロスにふと声をかけた。

「テオドロス。俺が戻るまで、彼らを頼む」

 テオドロスは背の高い上官を、思わず見上げた。その瞳に、雷光が宿っているのが見える。

「......承知いたしました。ご無事のお戻りを、お待ち申し上げます」


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