第二十四章
安道は、初めて雪の降らぬ冬を越し、春を迎えた。
そして季節の移ろいを待ちきれぬかのように、予定よりも早く、龍乃国はイミリーシャの使節団を迎えることとなる。
都の外縁、緩やかな丘を越えた先に、その一行は現れた。
春霞の中、列をなす馬影が静かに揺れる。
北鱗の龍に案内されて先頭を進むのは、白馬に跨る王太子アントニウスだ。
深い群青の礼装に王家の紋章を織り出した外套をまとい、腰には儀礼用の細身の剣。その存在感は一行の中心であることを疑わせない。
ややあって、一行の行先に二つの影が姿を表した。
ひとつは、巨体に礼服をまとい悠然と佇む龍――牙野。ゆるやかに尾を揺らしている。
もうひとつは、その傍らに立つ安道だった。
同じく礼服を纏って背筋を伸ばし、踵を打ち合わせた姿であった。
馬列が二頭の前で止まる。
アントニウスは静かに下馬し、数歩進み出た。
その動きを見届けてから、牙野がようやく口を開く。
「――よく参った、イミリーシャ王国王太子アントニウス・イミリシウス殿。これなるは龍乃国皇宮筆頭侍従牙野である」
穏やかな声音と微かな笑顔は、柔和な雰囲気だ。
「昨夏の宴のもてなしに対する返礼を致す。滞在の間は、不自由なきよう計らおう」
アントニウスは踵を合わせて一礼し、牙野を見上げる視線を逸らさずに応じた。
「お出迎え、誠に感謝致します。同時に我が王国近衛兵団小隊長にして実弟アンドリ・チェイレイへの多大なるお心尽くし、心より御礼申し上げます」
少し目元を緩ませ、牙野は安道へと視線を促した。
「そなたらより預かり申した竜の御子は、見違えるほどに成長した。いずれは王国の盾となり、剣となろう」
その言葉に、使節団の後列でわずかな気配が動く。
アントニウスは、間を置かず頭を下げる。
「……ありがたきお言葉にございます」
そして、安道が一歩前へ出る。
「王太子殿下。ご無沙汰致しております。ご到着、心よりお迎え申し上げます」
踵を打ち合わせ、深く礼を取る。その滲み出る気配は、もはやかつての少年のものではない。
アントニウスの視線が、わずかに柔らぐ。
「……本当に、見違えたな」
短くかけた声に、かすかな安堵が滲む。
やがて牙野が顎を引いた。
「龍皇陛下は宮中にてお待ちである。ご一同、参られよ」
その言葉に、控えていた一行が静かに動き出す。




