第二十三章
安道は不思議な夢を見た。
話にだけ聞く、イミリーシャ国王アレクシオスの処刑された前王妃――顔も見たことのないはずの母の夢だった。
前王妃アイリーナは、辺境ながら古い魔法の血を引く一族から嫁いできたと聞かされている。実際には占いに近いものだったそうだが、彼女が告げる未来はよく当たり、イミリーシャは戦を常に有利に進め、アレクシオスは戦上手の常勝王と名を高めていた。
アイリーナは、笑っている。
――母さん。
呼びかけようとしたが、声は出なかった。
安道が彼女へ近づこうとすると、アイリーナはあらぬ方向へ視線を向けた。
そこにいたのは、巨大な生き物だった。
後肢で立ち、前肢は皮膜に覆われた翼となっている。後頭部から背、長い尾の先に至るまで、尖った角が一列に連なる煤竹色の巨体。
顔は見えない。だが、あれがきっと竜なのだと思った。
勇輝子の長い身体とはまるで違う姿だった。変身した自分の姿を一度も見たことのない安道だったが、それでもなぜか、自分とよく似ていることだけはわかった。
本当に母は暴虐竜と交わり、自分をなしたのか。 それはなぜなのか。
尋ねたかった。だがどうしてか、母よりも竜から目が離せなかった。
そして気付く。自分は吹き荒ぶ極北の風の中に立っていた。イミリーシャへ吹き込む北からの凍てつく風は、息をすることさえ辛い。
だが自分は、不思議と寒さを感じなかった。
見下ろすと、自分は勇輝子たちが与えてくれた、たっぷりとした布の衣装と防寒外套をまとっている。初めて袖を通した時のように、暖かく、心地よかった。
――いつまでだってここにいてほしい。
――いつでもここへ帰ってきてほしい。
自分は、勇輝子たちが見つけ出してくれた。
体を温めてくれた。心を暖めてくれた。
けれど。
悲しげな竜の背中。あの竜に、手を差し伸べる者は誰もいないのか。
封印されたはずなのに、どうやってこの世界へ戻ってきたのか。
本当にあの竜が、自分の父なのか。今は、どうしているのか。何をしようとしているのか。
「……父さん」
呼んだ瞬間、自分の声で目が覚めた。
暖かな朝日が顔に当たっている。
頬へ触れると、涙がこめかみを伝っていた。




