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Dragons Cry, Destined to Fly ー竜哭の彼方ー  作者: Watt A. Lee
第十八章

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第十八章

 北鱗集落では、安道が泊まった時のものよりもう少し大きな、二階建ての建物を来客一行に割り当て、随行員は階下の大きな居間を共同で、コンスタンティノスと身の回りの世話をする侍従には二間に別れた二階を寝室として、当てがった。

 アンドリは頃合を見計らい、兵士の一人に声をかけて外に誘い、家屋の傍で自身の副官の名を呼んだ。

「テオドロス......」

「チェイレイ小隊長殿。お久しぶりです」

 第一小隊副隊長テオドロス・メガラが踵を合わせて礼を取る。

「本当に、団長がお前達をこの任務につけさせたのか」

「左様であります。私が現在、第一小隊長代理の任に就いておりますが、受け取りました辞令はイミリシウス団長閣下の署名がございます。第一小隊十九名、全身全霊をもって任務を遂行致します」

 アンドリは思わず黙り込んだ。

 王都の盾と呼ばれる誉れ高き近衛兵団の一隊が、王都を離れ、地方貴族の護衛に付けられるなど、隊員たちの心中はいかばかりか。

 胸が沈み、顔を上げることができない。

 その様子を見たテオドロスが、周囲をちらりと確かめると、すっと距離を詰めて小声で囁いた。

「……隊長殿、実はですね」

「?」

「その辞令ですが、イミリシウス団長閣下は——私の前で署名なさったんです」

 アンドリが顔を上げる。テオドロスは口元にわずかな笑みを浮かべた。

「団長閣下は、署名の前に私へお尋ねになりました。行ってくれるか、と」

「……それで?」

「もちろん即答致しました。行かせてください、とね」

 アンドリは目を瞬かせる。テオドロスは肩をすくめた。

「副隊長とは、隊長を補佐するのが務めであります。しかしながら——」

 少しだけねめつける。アンドリは思わず身構えた。

「これまでのところ、戦場でチェイレイ小隊長殿に副隊長が必要だったことは、一度もございません。それどころか」

「……」

「いつも隊員を背に庇うような戦い方ばかりなさる」

 テオドロスは淡々と続ける。

「正直申しまして、面白くありません」

 ここで、悪戯っぽくにやりと笑う。アンドリは驚きに身を固めたまま、一言も話せない。

「我々の働きどころを、全部隊長に持っていかれては困ります。ですので——」

 わずかに声を落とす。

「今度こそ、副隊長というものがどれほど隊長の役に立つか。きちんとご理解いただこうと思いましてね」

「……お前」

 テオドロスは年若い上官を見上げ、くすりと笑った。

「団長は笑っておられましたよ。“あいつを頼んだ”と仰せつかって参りました」

 そこで彼は顎で後ろを示した。アンドリが振り向く。

 家屋の影、塀の向こう、荷車の陰。そこかしこから、ぞろぞろと兵士たちが顔を出した。

 十八名。第一小隊の全員だった。

「小隊長殿」

「お久しぶりでさあ」

「早く帰って来てくだせえよ」

 口々に言う。

 アンドリは呆然とした。

 第一小隊が——これほど自分を慕ってくれていたと、初めて知る。

「……なぜ、急に」

 ぽつりと漏らすと、テオドロスが吹き出した。

「別に急でも何でもありません」

 隊員たちが苦笑する。少し呆れ顔でもある。

「オレたちを拒絶してたのは、アンタの方ですぜ」

「何?」

「矢を背中で受け止めてもらっておきながら」

 兵士の一人がぼやく。

「礼を言おうにも、声をかけるといつも自信なさげな顔でビクつきなさるでしょうが」

「……」

「どう声かけりゃいいんだって話ですよ」

「話かけづれえんで、こっちも黙ってただけでさ」

 アンドリは完全に言葉を失った。

 テオドロスが肩を叩く。意味ありげに首を振る。

「ちなみに、矢を背中で受け止めた件。団長は大変衝撃を受けておられました」

「……」

「帰ったらお説教して下さるそうです。心しておいて下さいね」

 アンドリは思わず泣き笑いのような顔になる。

「……心得た」

 その様子を、少し離れた物陰から見ている者がいた。牙野と蓮空である。蓮空が肩をすくめる。

「うーん。あたしの計画とはちょっと違ったけど」

 くすっと笑う。

「まあこれはこれでいいかしらね」

 牙野は疲れたように額を押さえた。

「頼むから、あの子の周りに不必要な波風を立てようとしないでくれ」

 蓮空はくすくす笑う。

「それにしてもさ」

 視線を安道たちへ向けた。

「安道くんの兄貴ってのは、結構な策士みたいねぇ」

 牙野は小さく息を吐く。

「……そうだな。これは、一本取られた」

 彼は腕を組んだ。

「これで安道くんは、兄貴への忠誠も、部下との絆も再確認しちゃったわよね」

「里心が、いっそう強まるだろうな」

 複雑な顔をする。それだけではない。安道の部下達は、人質も同然でもある。万が一にも彼が帰還を拒むようなことがあれば、彼らがどんな扱いを受けるか分からない。

 だがしばらくして、小さく肩を竦め、腰に手をやった。

「……まあ。お前の言う通りかもしれんな」

 これはこれで、良かったのかもしれない。

 牙野と蓮空は踵を返し、静かにその場を離れた。


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