第十四章
翌日、来てくれた龍達を見送って安道は、様々なことを学び始めた。
騎禽の扱いは鰐尾に教えを乞うた。
高く舞い上がるときの重心の預け方、急降下の合図、翼の震えから風向きを読む術。
何より、騎禽と心を通わせる術。一日の大半を檻舎で過ごし、清掃や水換え、餌の肉片の用意もする。
あの式典で安道が襲いかかってしまった騎禽は、名を碧斗という若い雌だった。
しばらくの間、かわいそうなほど怯えていたが安道は詫びる気持ちを精一杯込めて世話をし、(安道は未だ預かり知らぬことだが)騒ぎの首謀者である勇輝子も一緒になって一生懸命に宥めてくれた。
騎禽は龍がどちらの姿であっても一頭一頭見分けがついている。碧斗は安道の姿を見る度に檻舎のいちばん高い所にある枝に飛んで行ってしまったが、鰐尾は彼女がずっと安道を観察していることに気づいていた。
「いい兆候ですよ。沢山名前を呼んで、笑いかけてやって下さいね」
やがて碧斗は、毎日止まる枝を変え、少しずつ地上に近いところに戻ってきた。名前を呼ぶと、返事をしてくれるようにもなってきた。
そして安道に心を許したのを見計らって鰐尾は、遂に安道に、碧斗に騎乗する許可をくれた。
この日、鰐尾は自らの相棒の蒼矢を伴って、安道と碧斗を飛翔台に連れ出した。檻舎の最上部に設けられた木製の大きな張り出し床は、当初は物見櫓かと思っていたが、そうではなく、檻舎から出る時はここから飛ぶのだという。
飛翔台の縁に立つと、風が下から吹き上がってきた。
「怖がらないで。この子達は私たちと同じくらい賢いんです。信じれば応えてくれます」
鰐尾の言葉に頷いて、安道は碧斗を見上げる。筋肉のよく発達した碧斗の胸に手を当てると、確かな鼓動を打っているのがわかる。
「碧斗。お前に俺の命を預ける。お前も俺を信じてくれるか」
碧斗は翼を大きく開いて甲高く鳴いた。鰐尾が蒼矢に跨って勢いよく飛び出す。
「もう一度、やり直させてくれ。あの初めて会った日から。お前は、他のどの騎禽よりも賢くて勇敢だ。お前を授けられたことを、心より光栄に思うよ、碧斗」
鞍に足をかけ、手綱を握る。碧斗の首筋を軽く叩き息を合わせる。教わった通りに。
翼の付け根がしなり、背中の筋肉が波打つ。
飛翔の合図。碧斗は一瞬の間を溜めた後、晴れ渡る空に飛び込んだ。
身体が持ち上がったと感じた瞬間に飛翔台の床が消え、巨大な翼が風を掴む。
上は、透き通る蒼穹。下は、紺碧の海。
そのあいだを、白い雲が流れていく。
勇輝子と相乗りで見てきた空よりも、色が濃い。
風の温度も、速さも、すべてが直に触れてくる。
碧斗が翼で風を掴むたび、視界がぐんと広がる。
鰐尾と蒼矢が横をすり抜け、水面すれすれを飛ぶ。
安道が手綱を引くと、碧斗が翼を打って応える。
海に影が走っている。自分の騎影だ。
もう誰の腕にも抱えられていない。自分の意志で、高く速くどこまでも飛んでいけるのだ。碧斗とともに——




