第四章
夢の中で、アンドリは幼い頃に何度も聞かされたおとぎ話を思い出していた。
百年前、世界を滅ぼそうとした暴虐龍。
それを大陸中の力を集めて打ち倒し、極北に封じた――誰もが知る物語だ。
イミリーシャでは、子どもを戒める言葉として語られる。
「言うことを聞かないと暴虐龍の巣穴に放り込むぞ」
アンドリの乳母も、同じように日々、言っていた。
けれどアンドリは、怖いと思ったことがなかった。
自分は人間ではない。この世界は、最初から自分を受け入れる場所ではない。
幼いながら、期待もしない。信じもしない。望みもしない。
そんな心に、恐怖が入り込む余地はなかった。
成長した今ならなおわかる。おとぎ話は、真実ではない。
だから暴虐龍など、ただの遠い物語の存在に過ぎなかった。
――今日までは。
暴虐竜の鱗を分けた者よ。
あの声だけは、はっきりと残っている。
長大な身体を覆う鱗。刃のような牙。雷を宿した瞳。
その一瞥だけで、自分のすべてを見透かされた気がした。
――美しかった。息を呑むほどに。
(世界がひれ伏すべき存在だ……)
自分もまた、同じ“龍”であるはずなのに。
変身した自分の姿を、自分では一度も見たことがないが、想像はついているつもりだった。変じた姿を見た人間たちの、凍りつくような敵意に映る醜い姿。
考えれば考えるほど――うまく形にならない。思考がそこで止まるのだ。
あの美しい龍と同じはずの自分はなぜ醜いのか、理由を見つけてしまう気がして。
アンドリに自覚はないが、これ以上抱えきれない傷を負うまいとする、無意識の防衛本能は、胸の奥に沈む違和感だけを僅かに残し、あとはすべて頭の中で無音のまま逆巻く暗い雪嵐の吹く彼方へと洗い流してしまうようになっていた。
痛みと呼ぶほどには煩わしくない。だが希望と呼ぶには、あまりにも冷たい感覚だった。




