方舟ノアの行き先は…
ー 方舟ノアの行き先は… ー
師との別れは、あまりに静かだった。
ポセイドンは最後まで振り返らない。
「進め。海はお前たちの背を押す」
その言葉だけを残し、神達は帰って行った。
4人の神帝と大神官は一礼し、氷の階段をあがる。
「師匠は変わらないね…」
モックは笑顔で話す。
ー 出航の時 ー
ノアの甲板に、朝の光が差し込む。
港は、静かだった。
あれほどの補給と整備、神帝の集いを経て――
いよいよノアは大西洋を越え、宇宙へ向かう。
岸壁には、見送りの人々が立っていた。
整備兵の家族。
補給部隊の古参たち。
ノアに憧れを持つ子ども達。
「兄ちゃん、帰ってくるよね?」
少年がつぶやく。隣の母は、黙ってうなずいた。
艦橋ではヒメナが前を見据える。
ゆっくりと――
ノアが動き出す。
重低音が港の空気を震わせ、巨大な船体が水を押し分ける。
岸壁の人々は、誰からともなく手を振り始めた。
整備兵の若者は帽子を掲げ、補給司令は敬礼を崩さない。
子ども達は両手を振りながら叫ぶ。
「いってらっしゃい!!」
ノアの甲板から子供達も手を振り返す。
距離が離れていく。
だが――
誰も涙は見せなかった。
これは別れではない。
旅立ちだ。
やがてノアは水平線の向こうへ消える。
空には、ただ青が広がっていた。
地中海を進む鋼の巨艦。
護衛艦隊が左右を固める。
やがて前方に見えるのは、ジブラルタル海峡。
ヨーロッパとアフリカの狭間。
歴史が幾度も戦火に染めた門。
「海峡通過まで20分」
艦橋に緊張が走る。
アイズが言う。
「来るな」
海峡を抜けた瞬間だった。
大西洋上空に黒い光の裂け目が走る。
宙帝派組織の戦闘艦隊。
光学迷彩を解除し、一斉に姿を現す。
「敵艦多数確認!」
警報が鳴り響く。
砲撃。
蒼い海面が爆ぜる。
ノアは旋回。
主砲が咆哮し、対空砲が火を噴く。
宙帝派の高速艦が側面へ回り込む。
「距離三千、接近!」
メインが艦橋右舷部に出る。
「右舷、任せろ」
ギフト"高速移動"を使用した斬撃により右舷側敵艦を無力化。
爆炎。
しかし敵も執拗だった。
海上ドローン部隊が波間から突進する。
ノアの甲板が揺れる。
「主機、全開」
艦体が震え、巨大なエネルギーが唸る。
4人の神帝がそれぞれ持ち場に立つ。
師の言葉が脳裏をよぎる。
― 迷うな。ー
やがて、最後の敵艦が沈黙した。
大西洋に再び静寂が戻る。
宙帝派艦隊を突破した直後。
海はまだ黒煙を上げている。
巨大空母ノアの艦橋は、緊張と静寂に包まれていた。
⸻
「高度制御システム、最終チェック完了」
「重力偏向フィールド、展開準備よし」
「主機関、出力80%…安定」
オペレーターの声が、淡々と響く。
ヒメナが前を見据える。
「いよいよだね」
レンが低く笑う。
「海の時代は終わりだ。次は空だ」
メインは静かに目を閉じ、祈るように呟く。
「師匠…見ていてください」
ポセイドンの姿が、誰の脳裏にも浮かんでいた。
⸻
アラート音が鳴る。
「浮上制御、開始可能!」
「反重力炉、臨界突破!」
艦橋が微かに震える。
ノアの船体下部から蒼い光が放たれ、海面が大きく波打つ。
「浮力解除!」
「海上固定ボルト、全解除!」
一瞬の無音。
次の瞬間―
ドォォォンッ!!
海が割れた。
巨大な水柱が立ち上がり、ノアの船体がゆっくりと海面を離れる。
「上昇率、毎秒20メートル!」
「姿勢安定!」
艦橋の窓の外で、大西洋が遠ざかっていく。
ウォンが息を吐く。
「飛びましたね…」
艦長のオダイが短く命じる。
「第一宇宙進路、セット」
「了解。ジブラルタル上空通過ルートから軌道離脱へ」
ノアは雲を突き抜ける。
白い雲海の上に出た瞬間、艦橋が青い光に包まれる。
「大気圏離脱、カウント開始!」
10……9……8……
誰も声を出さない。
3……2……1……
「メインブースター、点火!」
轟音。
視界が白く染まり、次の瞬間
星空が広がった。
地球が、青く輝いている。
艦橋に静寂が訪れる。
タカヤが、静かに言った。
「美しい」
ヒメナが言う…
「ここからが本当の戦いだ」
ノアは、宇宙へと加速する。
地球が遠ざかる。
窓の向こうに、青い星が広がった。
誰かが小さく息を呑む。
大神官の一人が呟く。
「守るべきものだ…」
白い雲。
深い海。
静かに輝く青。
ノアは推進炎を伸ばし、宇宙へと進む。
蒼を越えて。
次なる戦場へ。
そして――
試される未来へ。
一章・完
二章へと続く…
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公開情報
・宙帝派組織
宙帝に賛同する太陽系内に存在する過激派組織
ノアが出航し一章が完結しました。
二章からは宇宙の旅が始まります。
次回もよろしくお願い致します!




