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12話「真剣勝負のゴングの音が鳴る」

プール掃除を終え、次の日から本格的な泳ぎに関しての練習が始まった。

それに伴い、吉岡理恵から今後の練習に関しての説明があり、それは「初心者の泳法」「泳法別の練習内容」「走る日と泳ぐ日の両立」の3点になる。

一つ目の「初心者の泳法」に関していえば、初心者がまず覚えるべきなのは「クロール」になってしまうのが普通で、そのせいもあり初心者の人達はクロールを泳ぐ「自由形」を大会で選ぶことが多くなってしまう。

しかし、それは一般論であり、吉岡理恵は「取り敢えず、初心者はクロール」ではなく、「全部の泳法を泳がせてみて、本人が泳ぎやすく、頑張りたいと感じる」ことが重要だと考えている。

本人も大会の練習のために時間を使うのであれば「泳ぎやすい泳法」を体に覚えさせた方が本人のやる気にも繋がるし、「初心者だからクロール」という一般論を押し付けるのは本人のためにならないと感じて、ある程度自由にやらせてあげることを心掛けていた。

だけど、時には残酷なことを言わなければいけない時がある。

それは「泳ぎたい泳法」が本人の泳ぎ方に合っていない時は、「こっちの方がいいと思う」と本人のやる気を下げないように注意をして言わなければいけない。

吉岡理恵としては、本人の泳ぎたい泳法で頑張らしてあげたいけど、「負ける」よりも「勝ってほしい」と願うと言わなければいけないから、いつも「ごめんなさい、希望に添えなくて」と吉岡理恵は感じていた。

2つ目の「泳法別の練習内容」というのは、その名の通り泳法別に割り振られた練習内容を指している。

学校でのプールが、長さ25mに対して6レーンあるため、レーンごとに泳法別で振り分け、練習内容も泳法ごとに違う内容を考えて練習を開始し、6レーンある内の1レーンが余ってしまう計算にはなるが、その場所は初心者を纏めて練習をするレーンとなっており、吉岡理恵は基本的にはその場所で練習を見ながら、初心者の育成を進めている。

泳法別の練習メニューに加えて、吉岡理恵は一人一人に対して、「ダメな部分」を纏めた課題を与え、1人でも多くの部員が大会に出場し勝ってほしいと願いがあるからこそ、厳しいことを言いつつダメならば再度課題を与え、一人一人の練度を上げて他校の部員よりも強くなってほしいと考えていた。

3つ目の「走る日と泳ぐ日の両立」に関していえば、前から伝えている通りに水泳は体力を消耗するスポーツであり、全身運動を行うために距離や泳法に関係なく体力は必要になってくる。

「泳法の技術があればいいでしょ」ではなく、そこにプラスして体力もなければせっかくいい泳ぎができるのに体力がなくて大会に出られない、なんてことになりかねない。

そのような、部員本人にとっての悲しい出来事になってしまう前に「体力」「技術」の両方を体に覚えさせて、「走り込み」も「泳ぎ」も当たり前にできるような部員にしたいのが吉岡理恵の考えだ。

そんな、吉岡理恵からの説明を終えた帰り道、桜坂花蓮、南條愛美、武田佳織里は自転車を押しながら帰路に着こうとしていた、そんな時に武田佳織里はとある悩みを打ち明ける。

「私、2人に聞きたいことがあるんですが…いいですか?」

「ん?いいよ」

「答えられることなら」

2人からの了承を得て、武田佳織里は心の中にあったモヤモヤを吐き出す。

「私、どの種目でどの距離で泳ぐか迷ってて、吉岡先生からは50m自由形がいいのでは?って言われてるんですけど…これが自分が泳ぎたい種目で距離なのかがわからなくて…参考までに2人はどの種目でどの距離なんですか?」

その悩みは誰もが通る道で、右も左もわからない初心者は顧問の先生が一番正しいと感じてしまう。

しかし、顧問の先生に言われたから「この種目でこの距離にした」という気持ちになりかねないし、武田佳織里としては「人に言われたからこれにした」となってしまうのも「違うな」と思っているのも事実。

だからこそ、身直で長く水泳をしていて年齢が近い2人に悩みを打ち明けたというわけだ。

「私は200mの自由形なんだけど、佳織里ちゃんが悩むのも理解できるよ。初心者っていうのは、泳法も距離も狭い中で選ばないといけないから、質然的に泳ぎが比較的簡単で覚えやすいクロールになってしまうのは事実で、クイックターンや飛び込みもままならないから、50mになってしまうのも悪く言ってしまえばしょうがないってなるんだよね」

「そうなんですか…愛美はどういう意見ですか?」

「今は受け入れるしかないと思う。それ以外に選択肢がないのも事実だし、それに、泳いでいるうちに50m自由形が好きになるかもしれないから、一度泳いでみるのもいいと思う」

「なるほど」

『泳いでいるうちに好きになるか…』

武田佳織里は南條愛美の言葉が頭から離れないでこびりついていた。

『そんなことを考えていなかった』からこそ落とせない頑固な汚れのように頭の中から取り除かれることはなく、悩んでいることが前に出過ぎていて「挑戦」という考えさえも頭に浮かばなかった自分を殴りたいと思ってしまう。

全てを見透かしたように南條愛美は言葉を続けた。

「佳織里はさ、吉岡先生から言われた通りにしたら「人に言われたから」ってなると思っているでしょ」

「いや、それは…」

『全部が見抜かれているのか…』と武田佳織里は思い、体から変な汗が噴き出してくる。

言葉が詰まり何も言えなくなった武田佳織里を見て、南條愛美は口を動かし始め、武田佳織里はこの後に何の言葉が飛んでこようとも受け入れる覚悟はできていた。

「まずは、吉岡先生っていう部員のことを第一に考えてくれている先生から言われたことはやってみた方がいい。確かに佳織里の考えもわかるよ。自分で考えたことじゃないし、他人を意見を受け入れて自分が失敗した時に他人のせいにするんじゃないかって…でも、そうなるかは佳織里次第だよ」

「私次第ですか?」

「そう、最終的には受け取る側の問題ってこと。吉岡先生はせっかく数ある部活の中から水泳を選んだくれたんだから、失敗してほしくない、後悔してほしくないって考えてると思うから。まずは、吉岡先生の意見を受け入れて挑戦してほしい。私はそう思うかな」

『受け取る側の問題か…』

「他人のせいにする」「諦める」「頑張る」のは最終的にそう判断するのも、決めるのも自分自身で、他人ではない、そこを勘違いしてはいけないと南條愛美は言っている。

武田佳織里は、右も左もわからない自分のことを含めた初心者のことを考えて練習を組んでくれたことを思い出す。

飛び込み、ドルフィンキック、クイックターンは今はまだ完全に出来てるとは言えないけれど、吉岡理恵をはじめとした色んな人に支えられているのは事実。

『失敗するのは、普通だと思うし、その時に吉岡先生のせいになんてするわけがない。あんなに一生懸命に初心者のことを見捨てないで真摯に向き合ってくれたのに、バカだな…私は…挑戦してみよう、50m自由形に。やってみたら、何か見えてくるかもしれないしね』

「愛美、挑戦してみます!」

高らかに宣言をした。その顔には、一切の迷いがなく、晴々としていてとてもスッキリした顔立ちになっている。

その顔を見て、南條愛美と桜坂花蓮は「負けてられないな」と思ってしまい、仲間でもあるけどライバルという相応しい関係になりつつあった。



今日、GW最終日となりプールでの練習の前に吉岡理恵から「皆さんに話したいことがありますのでいつもの空き教室で待っていてください」との連絡があっために、こうして集められている。

「何を言われるんだろうか…」との不安に掻き立たれながら、部員達は無理矢理考えないようにして、頭の隅に置いていた。

扉の音が聞こえる。吉岡理恵が入ってきたと同時に、部員全員の喋り声は止まり、空き教室は静寂に包まれる。

「わざわざ、練習の前に集まっていただきありがとうございます。今日の話というのは、今週の土曜日に大会と似ている会場でタイム測定を実施します」

空き教室の空気が変わり、部員の唾を飲み音が響いた。

元々、この日は通常通り学校での練習で「まだ、本格的な練習はしないの?」と疑問を持つ声もあったのだが、そのことについては吉岡理恵も理解はしていたところだ。

「急な話ですいません。なかなか、貸してくれるプールの関係者と話し合いが上手くいかなくて、ここまで来てしまいました。本来であれば、もっと早くから練習をするつもりでした、これに関しては本当にごめんなさい」

深々と頭を下げた、吉岡理恵の姿を見て呆気に取られてしまう。

「元々、あった練習は取りやめて、タイム測定の方に切り替えます。保護者の方にも絶対に連絡の方をよろしくお願いします。保護者の方で送迎をしてくれる方がいれば、私の方に連絡をしてください。もし、足りない場合は私も車で送迎も考えます。私からは以上です、では、プールに向かいましょう」

「あ、ありがとうございました」

「「ありがとうございました」」

そのまま、吉岡理恵は空き教室を後にした後に小島順菜が「では、速やかにプールに向かってください」と言いながら部員それぞれ、先ほどのタイム測定について喋りながら空き教室から去っていくのを見ながら、桜坂花蓮はそっとため息をつく。

『タイム測定かぁ…』

心の中で独り言を呟きながら、中学生の水泳部を思い出していた。

中学一年の時は、当時の2年生や3年生を出し抜いて、200m自由形とフリーリレーのメンバーになれたが、その代償として2年生と3年生からの態度が変わっていくのを桜坂花蓮の神経を日々すり減らしていく。

その影響もあってか、桜坂花蓮は徐々に部活をただやっているだけの部員に変わっていく、それは、桜坂花蓮が水泳を嫌いになったのでは断じてない、そこだけは本当の話だ、桜坂花蓮が変わってしまったのは水泳部の環境がそうさせたと言える。

だからこそ、中学3年生の時に新入生の1年生に負けた。

その時に感じたことは悔しさではなく、「やっぱりな」という感情が先行して気持ちに乗ってくる。

水泳部の練習をただやっているだけになっていた桜坂花蓮は本気でやっている水泳部員に勝てるはずがない。

一年生の時に環境に流されずに真面目にやっていればあるいは、とも考えてしまうが過去を振り返ることができても上書きすることはできない。ログアウトして、違うファイルに保存されているセーブデータをロードができる、ゲームの世界とは違う。

桜坂由紀に言った言葉を思い出す『今度は本気だよ』は嘘偽りない言葉ではある、しかし、環境に流された中学時代があるからこそ桜坂花蓮は恐怖を感じていた、また、環境に流されてしまうのでないかと。

『いや、でも』

それでも、前に進みたいと桜坂花蓮は思う。

中学時代の苦い思い出を後悔として残っているからこそ、高校生になっても水泳部に所属をした。

だから、誰が相手だろうと負けるわけにはいかない。



土曜日の練習に行くために、正門前に集められた桜坂花蓮は周りを見渡した。

すると、小嶋順菜と田崎怜奈の近くに母親らしき人がいてお互い仲がいいのか親同士で世間話をしている光景が見える。

『なるほど、今回の送迎は小嶋先輩と田崎先輩の送迎で向かうんだ』

と察したが、乗れる人数が多い車ではないといけないのに2台で大丈夫なのかと不安もあったが、吉岡理恵の言葉を思い出した。

今回、隣の県までわざわざ出向いていくのに、自転車や電車で学生達で向かうのに事件や事故に遭うかもしれないというリスクが伴うのでこうして部員達の親と顧問の先生の送迎で向かうというわけだ。

吉岡理恵が昇降口から出てきたのをきっかけに、部員が全員いるのかという点呼が始まり、全員が集まったのを確認すると、吉岡理恵の話が始まる。

話している内容は、今日の練習内容のこと、つまりはタイム測定のことだ。

普通の練習を軽く流してやった後に、2人1組でタイム測定を行う、その時の相手は自分自身で選んでいいとのことで、部員全員のその発言に一番驚いた。

つまり、部員一人一人が『この人には負けたくない』『この人には勝ちたい』と思える部員との戦える場があるということで、内心では闘志が燃え広がっていたのを隠すのに必死だ。

吉岡理恵の話が終わったのと同時に、送迎してくる人達の紹介が始まり、小島順菜から「今日はお願いします」との声が上がると部員のそれにならって声を上げる。

今日の送迎の振り分けが吉岡理恵から言い渡されて、桜坂花蓮は、南條愛美、武田佳織里と一緒に田崎怜奈の母親の車で向かうことになった。

「今日は、宜しくね」

「はい、送迎宜しくお願いします」

田崎怜奈の言葉にありきたりな定型文で返したが、田崎怜奈の言葉が果たして送迎のことを指しているのか、タイム測定のことを指しているのか気になったが怖くなり考えるのを即座にやめる。

それは、田崎怜奈と戦うことを恐れていて、体が拒否反応をしているように思えた。



他の部員達も乗りながら車の中は比較的に穏やかな雰囲気でプール場に向かっていた。

だがそれは、内心でのタイム測定の不安を掻き消したいからであり、不安を表に出さないためにお喋りで気を紛らわしていたにすぎない。

隣の県のプール場に着くと、スイミングスクールとは比べ物にならない大きさの建物がお出迎えをしていた。

今日来た場所は、1ヶ月前に武田佳織里と共に来たプール場であり、近場で本格的な大会を想定した練習をするとなるとここしかない。

他の送迎車を待つために受付で待っていると、小島順菜の母親と吉岡理恵の車に乗っていた部員達が姿を現し、受付に挨拶を済ませた後に吉岡理恵の話が始まった。

話の内容は変わらず、今日の練習についてやロッカールームの使用に関してなど水泳部に所属しているならありきたりなことだったが一つのことだけは違う。

「今日のタイム測定の組む相手は私が選ぶのではなく、皆さんが自由に選んでください。組む相手が決まったら、私に一言お願いします」

その言葉が部員の心を掻き乱す。

吉岡理恵の話が終わった途端に、部員達は自分自身で戦い相手に声をかけたりする瞬間が目に入った。

桜坂花蓮はその場面の横を通り過ぎながら、「誰と組もうか?」と考えたりするが考えは纏まらずにロッカールームに着いてしまう。

鍵付きのロッカーを開けながら、自分の学校指定のバックから水着を取り出してロッカーの中に入れたタイミングで南條愛美、武田佳織里は隣のロッカーを開ける。

「2人共、遅かったね。なんかあったの?」

「誘われたから、少し話してた」

南條愛美はそう言いながら、少し困惑した表情をしているのに気が付いた。

『まあ、妥当な人と言えば田崎先輩だけど』とも思いつつ、とりあえず誰に誘われたか気になるので質問をしてみて、答えを聞いた桜坂花蓮は南條愛美と同じ顔になってしまう。

「誰に?」

「秋空先輩に誘われた」

「は?」

『秋空先輩?なんで?』と頭の中が?でいっぱいになり、埋め尽くされる。

桜坂花蓮の秋空楓の印象は50m自由形しか泳いでいないイメージで、そこからなんてなくではあるが、「ターンがうまくできないのかな?」とは想像がついてはいたから、ここで名前が上がってくるのは予想外だった。

「なんで?」

「詳しくは知らないけど、200m自由形に挑戦してみたいんだって」

「なるほど」

朝練で「何を泳ぐか?」について宵宮夏美達と会話をした時、その場に秋空楓もいたが一言も発言をしなかったのを思い出した。

『隠していたのか?いや、こんなこと隠す必要すらないのに…それか、挑戦するのか迷っていたのかな…本当のところはわからないけど…』

桜坂花蓮の考えは当たってはいる。秋空楓の得意とする距離は50mであり、それが200mとなれば手や足の動作のリズムや力加減、体力の使い方も変わってきてしまう。

何よりも変わるのはターンが組み込まれること、50mから200mに変われば、変えなければいけない癖とかも出てきてしまうわけだが、それでも挑戦してみたい秋空楓の気持ちはわからなくもなかった。

高校生活での大会は一度しかない。それはたとえ、1年生と2年生であっても、次の年に大会に出れる権利があろうとも、その学年で行われる大会は未来永劫にやらない。

つまり、たった一度しか出場できない大会で自分の殻を破りたいと思ってしまうのは仕方がないことだ。

『だったら、私は怖がってはいけないよね』

秋空楓が新しいことに挑戦しようとしているのに、田崎怜奈に怖がっていてはいけないと感じて、「秋空先輩に負けてられない」と心の中で火がつく。

「佳織里ちゃんは、誰かと泳ぐの?」

「私は宵宮先輩と泳ぐことになりました」

「宵宮先輩とか…」

「はい。一緒に泳いでみたいそうです。私はタイム測定が初めてなので頑張ります」

「うん。自分らしく泳いでね」

南條愛美は秋空楓と武田佳織里は宵宮夏美と泳ぐことが決まって、2人の心の中では「先輩だからといって、容赦はしない」と下剋上を狙う、武士の如く活気付いていた。

2人よりも早く着替えおいた桜坂花蓮は水筒を手に持ち、そそくさと1人で行こうとすると、南條愛美が呼び止めてくる。

「花蓮、田崎先輩と泳ぐの?」

「ん?どうして?」

「顔に書いてある。私からは言うことはたった一つ、自分らしく泳いでよ」

「わかってる」

『頑張れ』とは決して言わない。『頑張れ』などという無責任な言葉を南條愛美は誰にかに対して、投げかけたいとは思わない。

『頑張る』のは自分自身であって他人ではない。そこを履き違えてはいけないのだ。

他人から言われたから、強くなれるのか?速くなれるのか?頑張れるのか?そうではないだろう。

強くなるために頑張るのは自分、速くなるために頑張るのは自分、結局は自分自身が前に進むために行動をしているわけで、自分の努力の方向性、考え方が正しい方向にいかされた時に初めて、自分自身が自分自身に対して『頑張った』と言える。

『頑張れ』と言う言葉は他人が言うものではない、自分自身が自分自身を鼓舞する時に使う言葉だ。

「じゃあ、行ってくるね」

そう言い残しさっていく、桜坂花蓮の背中を南條愛美は静かに見守っていた。

桜坂花蓮のことも心配だが、自分のことに対して集中しなければいけない時だからだ。

桜坂花蓮はプール場に着くと、奥にある50mプールがある所までころばらないように小走りで歩いていく。

すると、そこには小島順菜と喋っている田崎怜奈の姿があった。

「田崎先輩、少しいいですか?」

「ん?何、花蓮ちゃん」

心臓の音がうるさく鼓動するのが自分でもわかっていて、「緊張しているんだな」と体が伝えてきたのを、深呼吸で落ち着かせる。

「タイム測定の時に私と泳いでくれませんか?」

次にくる言葉は、預言者でもないのにわかりきっていて、それが何故だが、桜坂花蓮は自分でもわからないけれど、田崎怜奈という水泳が好きな先輩は断らないと確信が持てていたからだ。

「いいよ、やろうよ。その言葉、待っていたからさ」

一年にたった一回しか行われない水泳大会に向けての真剣勝負のゴングの音がプール場で鳴った気がした。

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