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11話「プール掃除」

朝練も開始されてから、数週間が経過した頃に学校の生徒は浮き足だっていた。

明日からは、世間一般的にGWに突入するからであり、クラスの生徒達も遊びの予定を立てる人も多かったが、水泳部に所属している桜坂花蓮には関係ない。

だが、練習はあることはあるが別に一日ずっと練習をしているわけでもなく、午前か午後のどちらか一方になっているし、休みもないわけではなかった。

これは、吉岡理恵が全部を練習の時間に当ててしまうと、せっかくのGWを満喫できずに部活の練習だけで終わってしまうと思ったからであり、いくら目標として『全国大会出場!』と掲げたとしても、練習のしすぎで体のどこかを痛めたり、メンタルや疲れで不調になるのを避けたいのもあるからだ。

清流高校水泳部として、毎年、GWになると練習の他にやることがあり、それは『プール掃除』である。

プール掃除は、学校の職員がやっているわけではなく、水泳部がある学校は水泳部が担当、水泳部がない場合は学校によって違うが新一年生が担当することがあるようだ。

そして、今日の部活は空き教室で、『GWでのプール掃除の話』『5月の部活の日程表と大会の日程のプリントの配布』だった。

空き教室で、小島順菜と田崎怜奈が教壇に立ちながら、プリントを配り終えたのを確認して話し始める。

「今、配ったプリントを見てください。日程は5月3日で、午後1時から午後5時くらいの予定です。去年と同じように1日でやりますけど、早く終わってしまうようならその時に切り上げます。えっと、一年生はビーチサンダルを持ってくるのを忘れないようしてください。プール掃除が終わっても持ち帰らないで更衣室に置いておくように、部活の時に使うので…私からは以上です。吉岡先生からは何かありますか?」

窓側の近くに立っていた吉岡理恵は「私からは大会に関係する話をします」と言いながら、教壇に立つ。

「大会の話をする前にプール掃除の日程の日までに、『どの種目でどの距離で大会に参加したいか』を私の方にプリントを提出してください。次に大会の話をします」

吉岡理恵が話を始めた途端に、1年生から3年生までの空気感が変わっていく。

初心者は大会には出られないことが多いが、そんなことは関係ない。初心者の部員達も着々と、飛び込み、ドルフィンキックを覚えてきているのに加えて、部員1人1人にあった、泳法と距離を吉岡理恵はメニューを作り、実行しているために初心者だからと侮れない存在になっていた。

油断をしていると足をすくわれるとはよく言うが、冗談と笑い話では済まされない事態になっていているのは事実。

それは、3年生や2年生の上級生だけの問題ではなく、1年生の経験者も例外ではなくなってきている。

「では、プリントを見てください」

教室にプリントを捲る音が響く。そこに書いてあったのは、県大会、関東大会、全国大会の日程、場所、標準記録が書かれていた。

標準記録というのは、各大会に設けられた参加資格の泳ぎの時間のことで、これを突破しないと参加はできなくなってしまう。

関東大会、全国大会は県大会の決勝で出した記録で、次に出場する大会が全国大会か関東大会になるのかが決まることになっている。

「県大会は6月、関東大会は7月、全国大会は8月となっています。皆さんの目標は全国大会出場ですが、まずは県大会を突破しないと話になりません。なので、今は関東大会、全国大会のことは忘れて、県大会に集中してください。県大会のエントリーの締切は今月いっぱいですので、大会を想定した会場で泳ぐ機会が増えますし、タイム測定もかなり行います。皆さんの泳ぎを私に見せてください。私からは以上です。それでは、グラウンドに集合してください。では、解散」

「起立、ありがとうございました!」

「「ありがとうございました!」」

小島順菜が言った後に続いて、部員達全員で礼をしながら言う。

恒例ではあるけれど、いつもよりも声の大きさ、顔付きの真剣さが増している気がした。



プリントをクリアファイルにしまいながら、武田佳織里は『プール掃除』というものが、ピンときていなかったので真後ろにいる、桜坂花蓮、南條愛美に尋ねてみる。

「プール掃除ってめんどくさいんですか?」

桜坂花蓮がすかさず「あっ」と顔をして、『なるほど、佳織里ちゃんはプール掃除したことないんだ』と気がついた。

「うーん、本音を言ってしまえばめんどくさいよ。見ればわかるんだけど、屋外に置いてあるプールって体育の授業や部活で使わなくなったら放置されて、掃除をするときに水を抜くんだけど、いくら水泳部使っているっていっても、せいぜい8月頃までで、その後は使わなくなるから塩素を入れなくなるんだよ」

「塩素を入れないとどうなるんです?」

「藻が大量に発生すんだよって言っても藻がわからないか…うーん、簡単に言えば緑色しているやつ」

「あー見たことあります。塩素って重要な役割をしているんですね」

塩素というのは藻が発生しないようにするためだけでなく、感染症の予防、水質管理を目的としている。

口に入ったり、誤って飲んでみれば変な味がするが、そんなイメージしかないために不必要な気がしてしまう塩素だがちゃんとした役割があるのだ。

「佳織里、藻だけじゃないんだよ。水を抜いてみれば、虫の死骸があったり、抜いた水にグラウンドなどの砂がこびりついていたりで、それも掃除が大変。ホースとデッキブラシがあればなんとかなるけど」

「私、やった事ないんですけど、結構、大変なんですね…」

水泳の授業でプールが使えるのは、水泳部が掃除してくれたからなのかと武田佳織里は1人で感心していた。この感情は水泳部に入らなければ、わからなかった気持ちである。

「ホースかぁ…」

そんな言葉を呟きながら、ため息をつきながら天井を見上げる桜坂花蓮のことを、南條愛美と武田佳織里は不思議そうに見つめていた。

「どうしたの?花蓮?急にため息なんかついて」

「いや、別に深い意味はないんだけどさ。今年は濡らされそうだなって…」

「あー、そうだね…」

今度は南條愛美がため息をつきながら天井を見上げている。

「愛美もどうしたんですか?」

そんな2人を見ながら、過去のプール掃除で一体何があったのか気になってきてしまう。

「佳織里、替えの体操服は持ってきた方がいいよ。絶対に濡らされて、大変な思いをするから」

「大変な思いですか?」

「私が中学1年生の時のプール掃除なんかは花蓮も含めて、1年生は皆んなずぶ濡れだった。そんなことになるなんて思わなかったから、変えの体操服なんて持ってきてないし、そのまま帰る羽目になったから本当に大変だったよ」

「そんなことあったよね〜だから、佳織里ちゃんも替えの体操服忘れずにね」

「わかりました」

2人は大変だったとは言いつつも、顔はしんどそうにしているわけではなくて笑っていたのを見て、武田佳織里は『プール掃除も楽しい思い出の一つなんだ』と感じて、水泳部皆んなとプール掃除をするのが楽しみなってきてしまう。

そんな中、武田佳織里は清流高校水泳部なら誰がホースを独占するのか?という方に思考が働いていた。

『うーん、誰だろう…小嶋先輩かな?それとも田崎先輩?』

思考を巡らせる中、丁度いいタイミングで同じことを考えていた南條愛美と桜坂花蓮は話し始める。

「愛美は誰がホース独占すると思う?」

「宵宮先輩だと思う」

「そうだよね…なんとなくそう思う」

「宵宮先輩ですか…あり得そうですね」

「「でしょ!」」

2人同時に言った言葉に反応するような形で遠くから、『クシュン!』と誰かのくしゃみの音が聞こえた。まるで、3人の話を聞いていたかのように…



プール掃除当日の5月3日になり、天気は快晴で、近年の猛暑のせいもあってか風は吹いているのに、とても暑く、立っているだけでも汗が顔から雫のように落ちていくのを感じる。

桜坂花蓮は清流高校に着いて、プールに向かうとそこに待ち構えていたものは、何ヶ月も放置され砂や土汚れで汚い無惨な姿をしていたプールが「綺麗にしてくれ!」と叫んでいるように感じた。

『この汚いプールを綺麗にするのが気持ちいんだよね』

と中学時代のプール掃除を思い出しながら、プール掃除の道具の準備を開始する。

準備が完了してから吉岡理恵のプール掃除の説明が始まり、部員達はそれぞれ、プールサイド組、プール床組、プール壁組に分かれて、デッキブラシ、雑巾、細い所を掃除する用の歯ブラシ、水が入ったバケツを手に持ちながら掃除に励んでいた。

桜坂花蓮、南條愛美、武田佳織里はプール床組となっていたのでデッキブラシで床を擦りながら、額から汗が垂れてくるのを首に掛けてあるタオルで拭う。

何ヶ月も使っていないプールの汚れはなかなか落ちはしないのと同時に、異常気象の暑さが水泳部員達を襲う。

「汚れは取れないし、それにしても暑いですね…」

「そうだね。佳織里ちゃん、水分はちゃんと摂ってね」

「水筒持ってきてるので大丈夫です」

「水分は摂っても直ぐに喉が渇くくらいに暑い」

そう南條愛美は言う。

5月とはいえど、侮れない暑さに年々なっていく一方で屋内プール掃除は年々苦労が増す一方だ。

「ん〜汚れ落ちないなぁ…ちょっと、ホース取ってくるね」

頑固な汚れはモップで力強く磨いてもなかなかに落ちない。

そこで使うのがホースだ。全体に水を撒くのであれば、拡散タイプのシャワーでもいいが、頑固な汚れを落とすならば力強く出るストレートをかけながらモップで磨くと汚れが落ちることが多い。

しかし、ホースを使ったからといって必ず落ちるわけではない、その時は諦めるしかないだろう。

「わかった」

「わかりました」

桜坂花蓮は南條愛美、武田佳織里に言い、手すりで登ってプールサイドに上がる。少し遠くに置いてある、ホースは誰も使っておらず、床に置かれていた。これは使うチャンス!と思ったがー

「ホースもらい〜」

と宵宮夏美が『私以外にホースは使わせない!』と言わんばかりにホースを掴み、天高くホースと共に手を挙げた。

「あんた、また、今年もホース占領する気?」

と霜月真冬が呆れた顔で宵宮夏美を見ていた。

宵宮夏美がホースを手に取った瞬間に桜坂花蓮は南條愛美、武田佳織里と話したことを思い出す。

『あの話が本当になるとは…』

なんとなく、性格と顔付きで「ホースを独占するのは宵宮夏美ではないか?」と話をしていたわけだが、それが本当になるとは思いもしていなかった。

「いいじゃん、別に〜」

「どうせ、あんたのことだから、去年みたいに部員に水かけるまくるんでしょ」

「ヤ、ヤラナイヨ…」

宵宮夏美がそうは言ってもホースを使う人間は、絶対に部員に対して水をかけないということはない、たまに人に対して水をかけない人もいるかもしれないが、いないに等しい。だからこそ、桜坂花蓮はあの時に替えの体操服を持ってくることを提案した。

きっと、水泳初心者でプール掃除が初めてな武田佳織里に伝えてなかったら、大変な思いをしていたと思うとあの時に伝えてよかったと安堵する。

「私の目を見ろ!私の目を見て喋れ!」

霜月真冬は『ガルルッ!』と威嚇している番犬の如く、吠えまくった。

「やっぱりか…」

桜坂花蓮はそんな2人の会話を聞いていて、『あ、やばい』と手で口を押さえたが心の声が外に漏れてしまった後だったので意味がないわけだが、そのことについて宵宮夏美はさほど気にしてはおらず、疑問を浮かべながら、話をかけてくる。

「ん?どうしたの、花蓮ちゃん?」

言ったことに対し追求されなくてほっとしたのも束の間、本音を言えるはずもないので、彼女は咄嗟に誤魔化すことにした。

「いえ、なんでもないです」

「そお?ならよかった」

なんとか作り笑いで、その場を後ろに1歩2歩と後退しながら、こう思った。

『私には水をかけないで下さい!お願いします!』と…

そして、桜坂花蓮はホースを入手することができずに南條愛美、武田佳織里の所に戻ってくる。

「戻ってきた」

「あれ?ホースは?」

「ホースはね…宵宮先輩が先に取っちゃたよ」

「え?」

「本当ですか?」

南條愛美、武田佳織里の顔から笑顔が消え、そこには曇り空一色になった顔があった。

「冗談で喋っていたことが現実になろうとしているなんてね」

「でも、かからないように逃げれば大丈夫です!」

2人共に、桜坂花蓮と考えていることは似ていて思わず笑ってしまいそうになるのを必死に堪えながら、こんな楽しくて一生懸命な部活に入れて幸せ者だと感じる。

「まあ、そんなことを言っても仕方がないから掃除しよう」

そう言って、掃除の方に目を向け集中する。

遠くで宵宮夏美がホースを使っていることなんて気にしないで、目の前の汚れに集中しながらも少しだけ宵宮夏美の行動を見ていた。

意外にも、真面目にホースを使っていたので一安心したのは桜坂花蓮だけではなく、桜坂花蓮を含めた水泳部員一同が『誰にも水をかけないで真面目に掃除をしているな』と思ってしまい宵宮夏美から目を逸らしていた。

『この瞬間を待っていたんだーっ』と言わんばかりに宵宮夏美は行動を開始し、まずはホースを真っ直ぐになるストレートタイプに変更、近くで掃除をしている桜木春香、秋空楓、霜月真冬の3人に見つからないように獲物を探すために目を光らせ周りを探る。

すると、目の前に桜坂花蓮がいることに気がついた。

『まずは手始めに花蓮ちゃんを襲うかな…一年生で結構仲良くしている方だし、ま、これもプール掃除の楽しみの一つということで』

「花蓮ちゃん、ちょっといいかな?」

完全に油断している桜坂花蓮は宵宮夏美が話しかけた意図に気が付かないで、「なんですか?」と言ってしまい、その時に気が付く「やばい、これはホースの水をかけられるやつだ」と。

だが、気がついた時は既にに遅しだった。

「覚悟!」

宵宮夏美は背後に隠し持っていたホースを桜坂花蓮に目掛けて噴射し、見事にずぶ濡れの状態になり、髪の毛先から『ポタポタ』と雫が垂れる音が聞こえる。

「あんたねぇ!またこんなことをして!」

「別にいいじゃん、濡れて困ることはないし」

「ちょっと、待ちなさい!」

プールサイドでは宵宮夏美がホースを持ちながら、霜月真冬から逃げまくる笑い声が聞こえたのを小島順菜が見ていて、「もう…真面目に掃除してよ…」とため息をついている。

「なんでこうなるんだ…」

桜坂花蓮は安心したのが間違いだと全身が濡れてから気が付く。

何故、宵宮夏美が怪しいと睨んでいたのに「真面目に掃除をしているから大丈だろう」と考えて、目を離し安心してしまったのが全ての間違いだ。

「心中お察しいたします」

自分の判断のミスで全身が濡れたのをいいことに南條愛美は『クスッ』と笑いながら言ってきたので、桜坂花蓮は心の底からかなりムカつき、そして、考えた『愛美も同じ目にあわせてやろう』と…

「ねぇ、愛美…私だけ、濡れるのは違うと思わない…一緒に濡れようよ…」

近くに置いてある綺麗な水が入ったバケツを持ち、『ニコッ』とアイドル顔負けの笑顔を見せながら、近づいてくる。

額から汗が滴となり地面に落ちながら、後ろに1歩ずつ後退していく。

走ればいいとは思うが、プール掃除をしている環境であることが幸いして走れない。それは、水泳部員がプールの床を水を撒きながらデッキブラシで擦っているために滑って怪我をする恐れがあるからだ。

桜坂花蓮にいい条件が揃っているのが現状で、次第に逃げ道がどんどんなくなっていくことに危機感を覚えはじめたが逃げる場所などはなく、既に飛び込み台の近くの壁まで来てしまい南條愛美は運命を受け入れるしかなくなっていた。

「ホースで濡らされた気持ちを教えてあげるよ!」

南條愛美はバケツの水を頭から思いっきりかぶり、桜坂花蓮はとても満足した顔を見せていた。

『愛美を全身濡らしたんだったら…いいよねこの際だから…佳織里ちゃんも…仲間に入れようか…』

悪魔のような考えを働かせた桜坂花蓮は水が入っているバケツが近くにあることに気が付き、バケツを持ちながら、獲物がいる場所まで歩き始める。

バケツをかぶる所を遠目で見ていた、武田佳織里は『次は、私が狙われる!』と思い逃げようと思ったが、時すでに遅し、もう背後には南條愛美が回り込んでいた。

「捕まえろ!」

南條愛美は武田佳織里のことを羽交締めにし、拘束する。

この態勢だと南條愛美も水をかかるが、一度全身濡れているのでどうでも良くなっていた。

「なんで、息ぴったりなんですか!」

「これも経験ということで…いきます!」

そして、武田佳織里は水を頭からかぶり、桜坂花蓮は一仕事を終えたサラリーマンのような表情をしていた。

プール掃除といえば、お堅く聞こえるが、実のところ言えば、ふざけつつ真面目に掃除するのが水泳部のプール掃除だ。

ホースやバケツの水で人にかけたり、先輩や後輩がコミニケーションを図るためにふざけあうなど、方法は様々ではあるが、先輩が後輩を知り、後輩が先輩を知る、きっかけになる、大事な水泳部の行事の1つとも言える。

「ふざけるのもこれくらいにして、もうそろそろ真面目に掃除しようか」

南條愛美は言いながらも表情は楽しげで、プール掃除が終われば県大会のための練習、そして、タイム測定が待っている。

楽しい日々ばかりが続くわけがないのはわかっているからこそ、今を楽しみたい、3人はそう感じた。

「そうだね。やりますか!」

「終わらなくなりますもんね」

「終わらないってことはないから、大丈夫だけど…やっぱり、ホース欲しいな…けど、夏美先輩が独占してるしな…」

「大丈夫ですよ…夏美先輩はふざけすぎて真冬先輩に怒られてますから…」

武田佳織里が指を差した方向を見れば、正座をさせられながら怒られている、宵宮夏美が見えた。

「あんたねぇ!私達とか後輩濡らしてどうすんの!私達が汚れに見えるの!」

「いや〜手が滑っちゃって…ごめん!」

「ごめんで済んだら、何事も楽だろうね〜春香、楓、取り押さえて!」

怒りの表情が笑顔に変わり、言った言葉も相待ってより一層に霜月真冬が怖く感じ、「やっべー!」と宵宮夏美は変な汗を掻いてしまう。

「はいよ〜」

「ん」

「え、え?離してよ〜」

宵宮夏美は、両腕を『ガシッ!』と掴まれ、『これは、濡らされる!』と直感で理解はしたが振り解こうと動いたがびくともしない、完全にお手上げで濡らされるのを待つしかないと悟る。

霜月真冬はホースを掴み、ホースのタイプをストレートにして宵宮夏美に向ける。これまでの、鬱憤やイライラをぶつけながら、こう叫んだ。

「くたばれ〜!」

「うぉ!」

一部始終を桜坂花蓮、南條愛美が見ていて、さっき、武田佳織里にしたことが罪悪感が急に芽生えてきて、武田佳織里の目を見ながらー

「「さっきはごめん」」

と、桜坂花蓮、南條愛美は謝った。

宵宮夏美みたいに、仕返しされる未来が見えてきたからだ。

「どうしたんですか、急に!」

そのように考えてるとは知らない、武田佳織里は不思議そうな顔をして桜坂花蓮、南條愛美の顔をじっと見つめていた。

「えっと…宵宮先輩が霜月先輩に怒られているうちに取ってくるね」

「私は水を取り替えてくる」

一斉に早口で喋り始めて、武田佳織里の前から姿を消してしまう、何から逃げているようにも見えてしまうが、武田佳織里は見当もついていなかった。

取り敢えず戻ってくるまで、モップを磨きながら待つこと数分が経ち、桜坂花蓮は念願だったホースを無事確保して、笑顔で帰還するのと同時に水を取り替えてきた南條愛美も合流する。

ホースで頑固な汚れの場所に集中的に向け、そこを南條愛美と武田佳織里がモップ掛けを行い、綺麗にする。

そして、ついでと言わんばかりに壁も雑巾とホースで完全にとは言えないが、ぱっと見ではわからないくらいの汚れしか残らなくなってくる。

プール全体を見回しても、プール掃除開始した頃の汚さは嘘みたいになって、心が晴れやかな気持ちになってくるのは何故だろうか。

「結構、腰にきますね」

「まあね、プール掃除は意外と肉体労働なんだよ」

「この時期、朝と夜以外は暑いから、余計、疲れる。私達は慣れてるけど、初めての人はしょうがないよね」

「ま、その分、汚いプールがみるみる綺麗になっていく光景は、気持ちがいいけどね」

「そうなんですか?」

「うん!達成感というのかな…なんて言葉にしたらいいのか、わからないけど…周りを見渡してみて、少しづつ綺麗になってきてるでしょ」

武田佳織里は、「そういえば、周りを見ていない」ことに気が付いて周りを見渡してみると、明らかに始めた頃よりは綺麗になっていることに、今、気が付いた

「確かに、見渡してみると、綺麗になってきてますね」

「でしょ!綺麗になった後に、プールの水がいっぱいになった時の光景はたまらないよ」

「そこまで、頑張ってみます!」

「その意気だ!」

更に、壁や床にホースの水をかけて、ブラシや雑巾で磨いて綺麗すること、数分、完全とはいわないが、あらかた綺麗になってきた。

長年使っている、学校のプールではあるため、少しは汚れが落ちない場所もあるのは仕方がないといえる。それを抜きにすれば、今日のプール掃除は終わりといえる段階まで差し掛かってきている。

「皆、聞いてください!」

小島純菜の一言で部員のプール掃除の手が止まり、注目が集まった。

言われることは、想像がついている人も多く、やっとこプール掃除の地獄から解放されると思うとホッとしている人が多数いて、顔に出ている人が大半だった。

「プール掃除、お疲れ様です。えっと〜汚れがだいぶ落ちてきたので、少し早いですが、この辺で終わりにしたいと思います。それでは、写真撮影しましょう」

「プール掃除で写真撮影なんかするんですか?」

と武田佳織里は不思議そうな顔をすると、桜坂花蓮は『うーん』と考え込んで、なんとか言葉を繋ぎながら喋り始めた。

「新入生が部活に入部した時に写真撮影ってするじゃない?」

「しますね」

「水泳部だと、なぜかプール掃除の時にするんだよね。どうしてか?は私も知らないだけどね…愛美は知ってる?」

「多分だけど、仮入部した後の大きな行事といえば、プール掃除だからじゃない」

「あー、そういうことか」

「話してるのもいいけど、早く行かないと怒られるよ」

「まずい、行こ!」

前から、3年生、2年生、1年生の順でプールの真ん中で列に並んだ。

吉岡理恵がプールサイドにいて、カメラを構えて、こちらをレンズ越しに覗いているのがわかる。だが、唐突にー

「小島さん」

と小島順菜を呼ぶ声がプールの中にまで響く。

「はい」

「掛け声、お願いします」

「うぇ」

と突然、振られた無茶振りに変な声が出てしまい、恥ずかしくなってしまい顔を赤らめてしまう。

『何を言おうか?』と考えが脳をぐるぐると掻き回すが、一回深呼吸をし冷静を取り戻す。

『ここはいつもの掛け声でやろう』

「えっと、一年生は始めてだと思うけど、清流高校水泳部には掛け声があります。そうは言ってもシンプルです。『清流、ふぁいとー』って私が言ったら皆さんは『おぉー』と返してください。これからも、何かという機会があるので覚えてくださいね。それでは、いきますよー」

大声で叫ぶために、もう一度深呼吸をし校舎に聞こえるイメージで声を荒げる。

「清流、ふぁいとー!」

『おぉー!』

この先に暑くて辛い現実にぶつかる夏が始まったんだ。

そんな、長いようで短い青春の水泳の音が聞こえた気がした。

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