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peace of memory  作者: lne
2/5

記憶、曖昧な過去

 


「はぁ、はぁ…」


少年は勢いよく起き上がり、荒い息をついた。

しんとした暗い部屋の中、少年の息づかいだけが響いている。



(ここは…?)



少年にとって、その部屋は見知らぬ場所だった。

右手に見える小さな窓からは、そっと月明かりが差し込んでいる。その光は部屋全体を照らすには不十分で、部屋の様子を正確に知ることは出来なかった。

それでも彼は辺りを注意深く見回しながら、ベッド以外は何もないその部屋にいる訳を考えていた。

しかし、彼の中にその答えは無かった。


「……」


自分の手のひらを見ながら、彼は自分の事を考えていた。


(自分は…誰だ)


考えてみるが、分からない。

 

自分はどうしてこんな所にいるんだ。


彼は若干いらいらとしながら、部屋の左奥にあるドアを見つめた。

とりあえず外に出てみようかと、彼はベッドから降りるため、体を動かす。

その瞬間――


「――っうあ!!」


足をシーツから出そうとした瞬間、背中に強い痛みが走った。彼は荒い息をしながら、苦しげに体を折り曲げる。




  

「は、はっ…」


目に涙をため、彼はゆっくりと深呼吸を繰り返した。

暫くすると、体の痛みは和らいでいったものの、今度は心が締め付けられるような苦しさが襲ってきた。

ここにいる理由は…ここにいる自分は…何一つ分からない。

不安が胸を覆っていく。


コンコン―――


ドアが二度ほど叩かれる音が聞こえ、開いたドアから人が現れた。ふわふわとカールした茶髪の、可愛らしい女性だった。


「あれあれ、大丈夫ですか~?」


女性は見た目通り、柔らかいしゃべり口調で少年に尋ねた。


「誰、です?」


彼は冷たい口調だったが、女性は気にならなかったように、ポケットからハンカチを出して、彼に手渡した。

 

「汗がいっぱいですよ?」


「…ありがとう、ございます」


ハンカチを握りしめたが、彼は汗を拭く気にはなれなかった。

混乱していて、ひどく、疲れていた。


「大丈夫ですか?…あ、私は看護士のルティ・ロマンドです」


何の脈絡もなく、彼女が唐突に言った。

彼は何と答えようか暫く考え、ゆっくりと口を開いた。


「…オレは、誰ですか。どうして、ここにいるんですか」



 

 

「ちょっと待って下さいねえ」


ルティは手に持っていた書類の束をペラペラと捲る。

書類に反射する月明かりが、目に痛い。


暫くして、彼女の手が止まった。


「…アルム・ティニック君ですねえ。十七歳の、孤児院生まれさんですよ」


「孤児院…?」


彼女が軽々しい口調で言うので、彼…アルムは話をうまく理解出来なかった。

詳しく説明を求めようとして、思わず体を乗り出した瞬間、彼はまた背中の痛みに体を曲げた。


「う、はっ…」


「あらら、大丈夫ですか?まだ、寝ていて下さいね」


ルティはそう言って、アルムをベッドにそっと寝かせた。

まだ背中が痛むアルムは大人しくしていることにし、ルティが書類を捲る音を聞きながらそっと目を閉じた。


(もう…なんでも良いか)


少々ズレたルティと話すのも疲れる。などと思いながら、アルムはそのまま意識を手放していった。


「んー…。アルム君って色々分からないんですね…」


一方、書類を穴が開きそうなほど凝視していたルティは、アルムの反応を見るために顔を上げた。

彼は既に眠っている。


「…あらら。おやすみですか」


ルティはクスッと笑い、微笑みながらそっと部屋を出て行った。



 


翌朝。

アルムは目覚めてから、自分の記憶が戻っているか考えていたが、やはり相変わらず分かることは無かった。

暫くボーッとしてから、彼は手元にあるナースコール用のような小さなボタンを見つめた。

自分がここにいる理由をまだ聞けていなかった、という事を思い出したのだ。ルティを呼んで彼女に尋ねたかったが、彼女と話すのはまた疲れそうだと思い直す。


(だけど…)


暇だった。何もすることが無い。

右手にある小さな窓からは、風に揺れている木々や、小さな鳥が見えた。

だが、それで感動する事も出来ない。

むしろ苦しくてため息が出る。

あの小さな鳥でさえ、今自分が何をすべきか知っているだろうに…。

アルムはボフッと音をたてて盛大にベッドに倒れこんだ。


コンコン――


「――!!」


ドアがノックされる音に、アルムは思わず飛び上がる。すぐにまたルティだろうと思い少しは気が引けたものの、それならそれで話すことはある。

退屈な時間が終わってくれる。それだけで良いと思った。


「よ、少年~」


現れたのは、見ず知らずの二人だった。


一人は綺麗な顔立ちの黒髪の少年。切れ長の瞳がクールな印象を作っていた。

生地の厚そうな首の高いコートに、Tシャツ・ジーパン、皮のブーツとシンプルな服装だった。


先ほど威勢のいい声をかけてきたのは、その隣にいる金髪のツインテール少女。

露出の多い服だが、色っぽさはあまり感じられない、活発そうな雰囲気だ。


「ふーん、ちょっと心配してたけど…大丈夫みたいじゃん?」



  

少女は嬉しそうに笑いながら、少年と共に近づいてきた。そんな彼女もアルムの前に来ると、幾ばくか真面目な顔をした。


「なんか…記憶喪失なんだってね。…あたし達があなたをここまで運んだってことも…分かんないか」


彼女は肩をすくめて、左手を差し出してきた。正直どうすれば良いか分からなかったが、アルムもその左手をゆっくりと握り返す。

少女はそれを見て満足げに胸を張った。


「あたし、リリー。リリー・エルトン。よろしくね」


突然の事態に驚きながら、アルムはぎこちなく頭を下げる。


「んで、こっちがシェリル・ムートン」



隣の少年を指しながら、少女――リリーが言った。


「で、あなたの名前は? ルティさんが何か色々言ってたけど…」


「あ、アルム・ティニック、です」


アルムは丁寧に頭を下げながら言った。


「アルムかぁ、うん、いい名前っ」


リリーは微笑みながら、何回も頷く。

認められたような気がして、アルムは自然と嬉しくなる。


「あのー、オレは何でここにいるんですか? あなた達が運んできたって、一体どういう――」


「あああ…」


アルムの言葉を聞いたリリーは、突然思いきり顔をしかめて首を振った。

何か悪いことでも言っただろうかと、アルムは不安になりながら彼女を見る。


   

 

「あたし、敬語苦手なんだよね。特に同世代の子に敬語なんか…うん、ムリ!」


「ご、ごめん。知らなくて…」


「ああ、いや、そうじゃなくて。あたしは敬語使わないから、アルムも気ぃ使わないでって話。あたしたちの事も呼び捨てでいいし。ね?」


リリーはにっこり笑って言った。

アルムは彼女の言葉に、心から嬉しくなった。大袈裟だろうが…初めて生きてる、というような気がした。


「で、何の話だっけ?」


リリーは首を傾げた。


「え? ああ…オレは、リリー達とどういう関係があるのかなって」


「んー…まあ、ただの通りすがり。山の中散策してたらアルムが倒れてて…傷だらけで意識なくて…。だから二人でここまで連れてきたのよ」


「見ず知らずのオレを…?」


アルムは驚き、二人を交互に見る。


「放っておく訳にいかないでしょ?」


「あ、ありがとう…」


意識がなく、傷だらけだったという事は、彼らがいなければ生きていなかったかもしれないという事だ。

アルムはもう一度彼らに頭を下げた。


「ちょ、アルム!! 当たり前の事しただけだもん。…あ、ルティさんが一週間くらいで退院できるって言ってたよ」


「本当? え…でも記憶は…」


アルムが不安げに訊くと、リリーは言いにくそうに、小さく低い声で言った。


「現時点じゃ治らないって。退院して、村に戻れば何か思い出すきっかけになるかもしれないから、って」


「そう…」


退院と言っても、それでは路頭に迷うだけでは無いのか、とアルムは眉をひそめた。


 

 

「あ、あたし達がいる村で過ごしてたらきっと思い出すよ…ね?」


「君たちの、村で?」


「そ、あたし達の村で暮らすの。きっと…何か分かると思うよ? 家のことは、あたしんちに住めば良いし」


「そんな、迷惑が…」


「いいの。アルムの家がちゃんと分かるまでは、あたしんちに住んでよ」


結局、アルムは自分の事が分かるまでリリーの自宅に居候することになった。そして三人はリリー達の村の事を話し込むのだった。



「…じゃああたし達、また一週間後に来るよ。色々やらなきゃいけない事もあるし」


一時間ほど後、リリーが切り出した。


「一週間、頑張れよ」


あまり話さないシェリルは、低く落ち着いた声でリリーに続けた。


「うん、二人ともありがとう」


「一週間頑張ってね」


そう言って、リリー達はアルムに手を振って部屋から出て行った。

アルムはこれから一週間、怪我を治さなければと、明るい気分で深呼吸をした。



部屋を出たリリーたちは、二階のアルムの病室から受付前へと続いている階段を下りていた。


「アルム、いい人だったねっ」


リリーは嬉しそうに言う。しかし、シェリルは堅い表情を崩さずに続けた。


「…お前、気づいてないのか?」


「え、何?」


「いや。…先生に訊けよ」


シェリルは、ポカンとして固まったリリーを放って、スタスタと歩いていってしまった。


「ち、ちょっと待ってよ!」


リリーは叫び、ズンズン階段を降りていくシェリルを慌てて追いかけた。



 

 


一週間後。

アルムは病院の前で、数人の医師や看護士に囲まれていた。

彼の傷の治療は順調に進み、ちょうど一週間後の予定日に退院する事が出来たのだ。…記憶はまだ戻っていなかったが。


「今まで、ありがとうございました」


アルムは医師らに深く頭を下げる。


「今まで良く頑張ったの。…して、リリーらはまだかの」


そう言ったのは病院長のバーンズだった。

バーンズは白髭をたくわえた優しい老人で、人当たりがよく誰からも好かれている。

勿論、アルムもバーンズを敬愛していた。


「約束の時間まで、もうすぐですねえ」


隣にいたルティが、腕時計を確認しながら言った。

その時――


「――アルムさんっ!!」


バンッと大きな音を出して開かれた扉の向こうから現れたのは、髪の青い男性看護士だった。

彼はかなり慌てた様子でアルムの前にやってきた。なぜか腕いっぱいの荷物を抱えている。


「良かった…。まだいらしてましたか」


彼は手に抱えていた黄色いリュックや剣などをアルムに手渡した。


「アルムさんのだそうです」


「ありがとうございます」


アルムは看護士に何度も頭を下げながら、リュックに腕を通す。と、その時だった。


 

 


「よ、少年っ」


聞き覚えのある声がして振り向くと、街道からリリーとシェリルがやって来るのが見えた。


「リリー、シェリルっ」


「あらあら、嬉しそうな声出しちゃって…お姉さん感動だわ」


リリーはそう言って、突然アルムに抱きつく。


「わっ。え…いや、何か嬉しくて」


アルムが照れ笑いをすると、リリーは何故か顔を赤くさせてアルムの頭をぐじゃぐしゃにした。


(その笑顔、反則…)


リリーはゴホンと、一つ咳払いをして目線をそらした。シェリルもリリーとは違う種類の咳払いを二つしたが、それは誰の耳にも届いていないようだった。


「で、用意出来たか?」


シェリルが訊いてきたが、アルムは答えに詰まる。先ほど返してもらった剣を生身で手に持ったまま、どうすればいいのか困っていたのだ。


「あの、これって手に持ったまま…?」


「鞘は?」


「さや?」


シェリルの問いに、アルムは首を傾げる。

「それ」


シェリルはアルムの持っている、細長い皮袋を指した。アルムはその袋を見て首を傾げる。

何をする物なのか全く分からない。


「普通は鉄の鞘じゃないの?」


リリーが不思議そうに首を傾げる。


「普通はな。…貸せ」


鞘をどうすればいいのか分からず、アルムは自分の体をせわしなくキョロキョロと見ていた。



 

 


それを視界の端で見ていたシェリルは、アルムの手から奪うように鞘を受け取る。

そして、彼は鞘を器用にアルムの腰のベルトに結わえた。


「ありがとう」


アルムは頭を下げて礼を言ったが、シェリルは何も言わず、ただ肩をすくめた。


「よし、準備出来たし出発しますか!!」


タイミングを計ったリリーの元気な声で、アルム達は再び看護士らに頭を下げて病院を立ち去った。

そんな彼らを、看護士らも姿が見えなくなるまで手を振って見送る。


「ラルク村で記憶が戻るといいの…」


病院に入りながら密かに呟いていた院長の言葉を、彼女は聞き逃さず呟いた。


(ラルク村で。か。それは無理かもね。彼らはすぐに村を出る。私がここを出るのと同じように…)



 

 

「わぁ…のどかで良い所」


病院の前から続いている街道には、脇に立派な木々が等間隔に並んでいた。その木々の間を、優しい風が吹き抜けていく。

アルム達はその日の当たる街道を、横に並んでゆっくりと歩いていた。


「剣、抜いとけよ」


シェリルの言葉にハッとしたアルムは、リリーとシェリルを見た。

リリーは身長ほどもある槍を、シェリルはキラキラと光る双剣を抜いている。


「…なんか、二人ともかっこいいね」


「へっへ~、そお?」


アルムの言葉に、リリーはにんまりしながら頭をかく。


「うわ、うぜ」


「何をぅ?!」



リリーは叫んでシェリルを睨んだが、彼はツンとした表情で、既にそっぽを向いている。

アルムはそんな二人を和やかな気分で見つめながら、剣の重みや緊張で震える頼りない手で、鞘からゆっくりと剣を抜く。


「…おいおい」


おぼつかない手の動きに、シェリルが首を振る。その隣にいたリリーも、顔をしかめて暗い顔をした。


「ねえアルム…それ、大丈夫なの?」


「え?」


アルムはプルプル震える腕で剣を構える。



「見てて…すっごく不安なんだけど」


リリーは苦笑いを浮かべる。


「ごめん。こういうの扱った記憶も無いから…」


アルムが申し訳なさそうに謝るので、リリーとシェリルは顔を見合わせる。


 

 


「ま、まぁあたし達がカバーするし、大丈夫だよね」


リリーはその場を取り持つように出来るだけ明るい声で言う。

アルムも二人に迷惑をかけないようにと、剣をしっかりと持ち直した。


「ありがと……む、何か来るよ」


アルムは突然辺りの気配が変わったのを感じ、そう呟いた。


「え?どこに…って、おぉ!!ホントに来たじゃんっ」


リリーが叫ぶと同時に、三人の頭上を黒い大きな影が通り、目の前に熊のように巨大で、姿形が狼に似た獣と、一回りほど小さな狼が三体現れた。


「気ぃ抜くなよ…」


「あいあいさ~」



双剣を胸の前で構えるシェリルと、その隣でゆるい返事をするリリーの声に、アルムは力なく笑っていた。

が――



 

 

「わっ!!」


いつの間にかすぐ左にいた獣に左腕を噛まれそうになり、アルムはすんでの所で飛びずさる。


「…気ぃ抜くなっつっただろうが」


かシェリルがどこからか飛んできて、彼はアルムに言いながら、双剣を使って狼の首もとを斬った。


「ご…ごめ――」


突然のことで驚いたアルムは足元をふらふらさせながら、シェリルが次々と獣を倒すのを呆然と見ているしか無かった。


「はあっ!!」


力強い声にアルムが振り返ると、リリーがその長い槍を大きく振り回したり、確実に突き刺したりと、あっという間に一体を倒して次の一体に取りかかっているのが見えた。

次々と敵を倒していく二人の間で、アルムは何も出来ずに剣を握りなおす。



グルァアア!!


シェリルとリリーが小さな獣を倒しきった瞬間、さっきまで微動だにしなかった一番巨大な獣が突然叫んだ。


「うわ…」


獣の目が紅くなり、ごわごわした毛は一本一本が逆立った。より増した迫力に、リリーは生唾を呑む。


「…来るわよ!!」


アルム達は次の攻撃に備えて互いに身を寄せ合い、腰を低くする。


グルァアア!!


「――!!」


大きな吠えを聞いた次の瞬間、アルム達は倒しきっていた筈の小さな獣たちに囲まれていた。獣は先ほどよりずっと多い数でびっしりと密着し、低い壁のようになる。



  

「分裂したの?!」


リリーは周りの獣の叫び声に負けないようなほど大きく叫ぶ。


「そのようだな」


一気に向かってきた狼たちに、シェリルは刃を向けた。


(…本当に分裂したのか?)


アルムはなんとなく生気が感じられない獣たちに違和感を覚える。


「…ち、違う!!それは幻…本物は――」


アルムは言いながら勢いよく天を仰ぐ。



「上だっ!!」


彼の言う通り、頭上の木の枝にはその巨大な獣が乗っていた。白い牙をむいて今にも襲いかかってきそうなほど大きく木の枝を揺らしている。


「周りの奴らは幻影だっ、――逃げて!!」


ついに獣が枝から大きく飛び上がる。


アルムは大きく叫ぶが、リリーもシェリルも周りから飛びかかってくる幻影の獣たちに気をとられていて、アルムの言葉が聞こえないようだった。


(どうすれば…)


と、その時だった。


突然アルムの剣を持っている右腕が無意識に上に伸び、剣の切っ先は天をさした。

そして、口からは呪文のような言葉が勝手に飛び出し出したのだ。


「――ガード!」


その瞬間、緑がかったドーム型のうすい膜がアルムたちを覆う。


(……え?)


呪文を発動したらしきアルム自身も、何が起こったのか分からず思考は完全に停止した。

上から降ってきた巨体や、周りから飛びかかってきた獣たちは、そのドーム型の膜に跳ね返されてひっくり返った。



 

 

やはり幻影は巨体の獣の仕業だったのか、ダメージを受けた一番大きな獣のおかげで周りの獣たちはいつの間にか姿を消していた。


「い、今だ!!」


アルムが叫ぶが早いか、リリーが任せてと叫びながら駆け出していく。


「オレたちも――」


行かなきゃ、とシェリルに言おうと振り返り、アルムは固まった。

…シェリルが自分を見ていた。

その瞳は、冷たかった。

何か、異様な物を見るような、疑わしげな鋭い目線。

怖い、とアルムは思った。


「シ、シェリル…?」


カラカラに渇いた口で、やっと小さな声を出す。

指先も動かせないほど、シェリルの視線に緊張し、困惑する。



「お前…何者だ」


暫くして、シェリルが低い声を出した。


「なに…」


「ちょっと!! 二人とも何よぉ、か弱き乙女のあたしにあいつを預けちゃってさぁ」

二人の意味深な雰囲気に気づかず、リリーが巨体の隣で叫んだ。


「あ…うん、今行く!!」


「もういいわよ、倒しちゃったし!!」


リリーは槍を背中のホルダーにしまいながら、こちらに歩いてくる。

アルムもシェリルの視線を気にしてチラチラと振り返りながら、リリーの方へ歩いて行った。

一方のシェリルは、そんな彼の背中を意味ありげに、まだ冷たい視線で見つめるのだった。



 

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