後輩は自己主張が強すぎる。優等生じゃなくてマガママ娘の間違いだろ。
「待ってください、先輩」
俺に声をかける後輩なんて一人しかいない。
振り向くと制服姿の女子高生が小走りでやってきた。
深川鈴。一つ下の後輩だ。
「ふう、追いついた」
目があった瞬間に深川は嬉しそうに微笑む。
「先輩、一緒に帰りましょう」
「ん、ああ」
深川の歩幅に合わせて並んで歩く。
冬指定の制服をきちんと着ている深川は見た目どおりの優等生。
運動も勉強もできる美少女だと噂に疎い俺の耳にまで入ってくるほどの有名人だ。
ではなぜ平凡な俺がそんな女子と放課後に一緒にいられるのかといえば偶然である。
彼女が階段で踏み外して落ちてきたときにたまたま下にいた俺が抱きとめた。ただそれだけ。
それからというもの、律儀に毎日一緒に帰っているのだ。
俺は置いていくのだが、走ってでも追いかけてくる。
助けたことに対して最初は気にしなくて良い、もう関わるなと言ったのだが聞いてもらえなかった。大人しそうに見えて意外と頑固である。
「先輩、そろそろ文化祭ですよね。良かったら一緒に見て回りませんか?」
長い黒髪をいじりながら聞いてくる。
「俺と一緒にいてもつまらないだろ」
俺をじっと見つめた後、深川は息を吐いた。
「なんだよ? 言いたいことがあるなら言えよ」
「……わかりました。文化祭まで言わないつもりでしたが、先輩が鈍すぎて我慢できなくなったので今言います」
深川が足を止めたので俺も合わせるように止まる。
決心した顔の深川が、
「先輩、好きです」
「は?」
予想外の発言に思考が停止する。
今、なんって言った?
「好き以外の返事は要りませんのでこれからもよろしくお願いします」
ぺこりと頭を下げていた。
深川の言っていることは理解できたけど、
「自己主張激しすぎるだろ」
それって付き合う以外選択肢ねえじゃねえかよ。