第7話「復興の未来」
王都の外れ、獣人街。狭い路地はゴミと汗の匂いが混じり、騎士団も近づかない治外法権の地だ。薄暗い建物がひしめく一角にその店はあった。
“カランカラン……”
「よう、兄弟」
「久しぶりっす!」
むっとした熱気とタバコの煙の中、モルトが慣れた足取りでカウンターへ。狐耳をピンと立て、バーテンダーに笑いかける。
「モヒート、キンキンに冷やしたやつっす!」
狐人が考案したハーブ香るカクテルを頼む。氷がカランと音を立て、モルトは喉を潤した。
「で、マスターはどこっすか?」
「奥で『お仕事』さ」
背後から声。振り向くと、赤みかかったもふもふ尻尾を揺らす狐人の男、バドがニッと笑う。
「バドっすか! 元気そうで何よりっす!」
「王都は物騒でな。俺たちゃ忙しい。マスターの様子見てくるよ」
バドが奥に消えると、入れ替わりに痩せた犬族の男が近づいてきた。目がぎょろりとモルトを捉える。
「お前がモルトだな。トーゴ家が追放されて、俺たちの仕事が消えた。執事だったお前のせいじゃねえのか?」
トーゴ家は亜人たちの保護を担ってきたが、アウル行きでその職は公爵預かりになっているのだ。尻尾がシュンと垂れた。
「……確かに、自分の力不足っす」
「何?」
「トーゴ家を支えきれなかった。けど、だからこそ、今できることをやるっす」
「ふん、じゃあ俺の食い扶持はどうしてくれる?」
男がモルトの胸倉を掴む。店内がざわつき、鋭い爪が光る。モルトの心臓が跳ねたが、目を逸らさず続ける。
「アウル領が入植者を募集中っす! 早い者勝ちで家と農地、収穫までトーゴ家が面倒みる。身一つで来ればいいっすよ」
「そんなうまい話、あるわけねえ!」
男の手が震え、ナイフがチラリと見える。店内の空気が凍り、モルトは息を呑む。だが、奥から人懐っこい声が響いた。
「よう、モルト。騒がしいな」
「ウーゾ! 久しぶりっす!」
裏ギルドの主、ウーゾが分厚い手を差し出す。モルトが肉球を握り返すと、店内の緊張がわずかに緩む。ウーゾは男を一瞥し、笑った。
「モルトの話、本物だ。俺が知ってる。王都きっての執事が嘘をつくわけねえだろ?」
「し、しかし……」
「アウルでの暮らし、気になるなら話聞いてみろ。モルト、詳しく教えてやれ」
「家と農地、自由な暮らし。ハヤト様が約束してくれてるっす。風土病? もう解決済み。希望者は明日、店の裏に集合っす!」
男がナイフを下ろし、店内がざわめく。ウーゾがモルトの肩を叩いた。
「さすがだな。だが、モルト。一つ忠告だ」
「なんすか?」
「アウルの噂を聞いた。王国はトーゴ家の動きを怪しんでる。入植者を送るなら、気をつけろよ」
ウーゾはそう言いながら、モルトの出した依頼書にドラゴンの骨で出来た判を押した。
◆
一週間後、店の裏にアウル行きの一行が集まった。五家族と元使用人たち。犬族の男もそこにいた。
「モルトさん、悪かったな……」
「気にしないっすよ。来てくれて助かったっす!」
男が頭を下げ、モルトは尻尾を揺らして応えた。
「それじゃ、出発するっす‼」
大型馬車に乗り込み、モルトは一行を見回した。アウルでの新生活。そして、ウーゾの忠告。公爵の影がちらつく中、モルトの尻尾が小さく揺れた。
◆
ブラックベリーでは、復興が着々と進んでいた。港に商会の船が到着し、日用品や穀物が積み下ろされている。モルトたち一行も無事到着した。
「ハヤト様、どうやら王国から目を付けられているみたいっす」
「まあ、今に始まったことじゃないけどな。それより王都の様子を聞かせてくれ」
「ハヤト様、最近王都では、ラプトルの素材を使った武具や装飾品が人気だとか」
「ま、まあそおっすねえ」
「ラプトルか。あの大森林の遠征は、思い出したくもないが、ここからは大森林まで船でほど近いな」
「危険ですが、ハヤト様の次元流なら。仮に定期的に捕獲できるならブラックベリーの復興は間違いございません」
ドランブイが目を輝かせる。
一般的に流通していないラプトル。皮や骨、更には爪や牙など捨てる所が無いばかりか、肉も極上の品質である。
俺たちの未来が、確かに動き始めていた。
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