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立ち止まる駅、動き出す人生

作者: 刺身

読み切りです

第一章: 正午の最寄り駅

タジロは、正午にいつもの駅に立っていた。都会の喧騒に紛れ、彼の周りを多くの人が行き交う。彼の視線は虚ろで、どこにも焦点を合わせていない。日常のルーティンに飲み込まれ、自分の足がどこへ向かっているのかすら考えなくなって久しい。

駅のプラットホームで待っている時間だけが、タジロにとって何も考えずに済む唯一の時間だった。無数の足音、電車の音、誰かが発する笑い声、それらすべてが彼の中で溶け合い、心地よいノイズとなる。その中に身を置くことで、タジロは自分がただ一人の人間として消えていく感覚を味わっていた。「何も特別じゃない。僕は。」

タジロは口の中でそう呟く。特別なことなど何もない、そう自分に言い聞かせることで、彼は生きる実感を遠ざけていた。

しかし、その日は違った。

正午のプラットホーム。いつものように電車が到着し、人々が吐き出されるようにホームにあふれる。タジロはその流れに逆らうことなく、ぼんやりと周囲を見渡していた。だが、ふと壁に目をやったとき、彼の視界に飛び込んできたのは、黒いスプレーペイントで書かれた奇妙な言葉だった。

「君は、生きて」

タジロはその言葉を目に留め、立ち尽くした。何の変哲もないフレーズでありながら、それが彼の心の奥底に何かを呼び覚ますかのように感じた。見たことがないはずの言葉なのに、その響きが妙に懐かしかった。

「君は、生きて...?」

タジロは思わず声に出してつぶやいた。しかし、その瞬間、何かが心の奥で弾けたような感覚がした。長い間忘れていた記憶の一部が、ゆっくりと浮かび上がってくる。

第二章:過去の記憶

その言葉がタジロにとって特別な意味を持つ理由は、数年前の出来事に遡る。彼にはかって愛する女性がいた。ナツキという名の、どこか浮世離れした美しさを持つ女性だ。彼女はいつも周囲に笑顔を振りまき、何気ない日常の中に喜びを見つけることができる、明るい性格だった。彼女と過ごす日々は、タジ口にとって人生の最も輝かしい瞬間だった。

しかし、そんな幸せも突然の悲劇で幕を閉じた。ナツキはある日、病気で倒れ、そのまま帰らぬ人となった。彼女が病床で最後に残した言葉は、タジロの心に深く刻まれている。「君は、生きて...」

彼女は、タジロに向けて微笑みながらそう呟いた。それが何を意味していたのか、タジロには時理解できなかった。彼女は何を伝えたかったのか?自分に「生きて」と言い残したのは、どんな意図があったのか?その答えを見つけられないまま、タジロはただ日々を消化するように生きていた。

そして、今、駅の壁に書かれたその言葉。まるでナツキの声が現実に響いているかのようだった。

第三章:謎のメッセージ

その夜、タジロは自宅のソファに座り、スマホをいじりながら時間を潰していた。何も考えずにただスクロールしているだけの無意味な行動。それでも彼にとっては、それが日常だった。

しかし、ふと目に止まったSNSのアカウントが、彼の意識を強く引き寄せた。

アカウント名は「君は、生きて」。プロフィール画像には白い花が描かれている。無然にしては出来過ぎた名前だ、とタジロは思った。好奇心に駆られ、そのアカウントをクリックしてみた。

そのアカウントには、ほとんど投稿がなかった。謎めいた写真が数枚と、いくつかの無意味な文章が載っているだけ。だが、その瞬間、タジロのスマホが通知を鳴らした。

「ナツキは君を見ているよ」

そのメッセージが彼の画面に表示されたとき、タジロは息を飲んだ。心臓が一瞬、鼓動を止めたかのようだった。

「ナツキ...?なんで...?」

誰がこのアカウントを作ったのか、そしてなぜ彼にこんなメッセージを送ってきたのか。タジ口は考え込んだが、答えは見つからない。だが、何かが彼の心を動かし始めていた。ナツキが、何かが彼の心を動かし始めていた。ナツキが最後に言い残した言葉、そしてこの奇妙なメッセージ。そのすべてが、タジロを何かに導こうとしているように感じた。

第四章:再びの出会い

翌日もタジロはいつものように最寄り駅に立っていた。昨日と同じ時間、同じ場所。しかし、何かが違って感じた。心の奥に不安定な感覚が広がり、彼の視線は無意識に辺りを探し回っていた。

電車が到着し、人々がホームに降りてくる。そんな中、一人の女性の姿がタジロの視界に入った。長い黒髪をなびかせ、白いコートを羽織ったその女性。彼女の後ろ姿は、どこかナツキに似ていた。

タジロは思わず彼女を目で追った。彼女は人混みの中を静かに歩き、駅の出口に向かっていた。彼は衝動的に足を動かし、彼女を追いかけた。

彼女が出口に差し掛かったところで、突然、足を止め、振り返った。その瞬間、タジロは彼女の顔を見た。

「君は、生きて」

彼女は微笑んでそう言ったかのように見えた。

そして次の瞬間、彼女の姿は人混みに紛れて消えてしまった。

タジロはその場に立ち尽くした。ナツキではないことは分かっていた。しかし、その女性が発したかのように感じた言葉が、彼の心に強く響いていた。

第五章:真実への旅

タジロはその日から、何かに導かれるように自分自身を見つめ直す旅に出る決意をした。ナツキが残した「君は、生きて」という言葉の意味を理解するために、彼は過去と向き合わざるを得なくなった。彼はナツキの死から逃げていた。彼女の死を受け入れられず、感情を閉じ込め、ただ時間が過ぎるのを待つような生き方をしていた。しかし、それではダメだということを、彼はようやく理解し始めた。

そして、ナツキが彼に託した言葉の真意を探るために、彼は彼女との思い出を振り返りながら、自分自身の人生を再構築する旅を始めた。

結末:新しい一歩

タジロは、ついにナツキが残した言葉の意味を悟ることになる。「君は、生きて」という言葉は、ただの励ましではなかった。それはタジロ自身が、生きることを選ぶためのメッセージだった。

ナツキがいなくなったことで、彼は一度生きる意味を見失った。しかし、その失った意味を再び見つけ出すためには、自分自身が生きることを選び、前に進むしかなかったのだ。

「生きる」という言葉の重みを改めて感じたタジロは、過去の悲しみから解放され、新しいー歩を踏み出すことを決意した。ナツキはもうこの世にいないが、彼女が残した言葉は、彼の心の中で生き続ける。

タジロはその日、初めて駅のホームを離れ、次の電車に乗り込んだ。新しい旅が、ここから始まるのだ。

初めて書いた小説なので誤字脱字等があります

すみません

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