5、第一王子は言葉が足りない
「もうお前がヒロインで良いんじゃね?」
「嫌だ、絶対に嫌だ! 最後まで抗ってやるんだ!!」
既にブリッツは諦めムードだ。
しかし、僕は諦めたくなかった。
ルーチェという唯一の人を既に見つけているのに、何が悲しくてイケメン達の『ヒロイン』なんかにならなきゃいけないんだ。断固として拒否したい。
……しかし、悲しい事にいくら僕が逃げたくとも、イベントはあちらからやって来る。
残るイベントは一つ。
三人の攻略対象との出会いイベントを発生させた後に起こるイベントがある事を、僕は知っていた。
「ああ、フレドくん。ここに居ましたか」
「ちょっと話があるんだが」
「嫌です、間に合ってます」
廊下で出会したイースとソルに声を掛けられ、僕は反射的に踵を返した。
嫌な予感しかしなかったからだ。
しかし、二人はそれを許してはくれない。
「少しで良いですから。ちょっとお話しするだけです」
「ほら、行くぞ」
「嫌だって言ってるでしょ、ちょっ……ぎゃー!!!」
僕はこれからルーチェと楽しくランチをするんだ!!!
そう叫びながら、ソルに首根っこを掴まれてズルズルと引き摺られていく。
連行された先は、生徒会室だ。
「あっ、フレドさん! ……だ、大丈夫ですか?」
そこに居たのは、半泣きの僕を心配してくれるプラントと、もう一人。
「やあ、また会えたね。……ドジっ子くん」
やっぱいるよねー!! 生徒会長だもんねー!!!
攻略対象の一人であり、背後がキラキラしている筆頭。そして生徒会長も務めてらっしゃるヴァンドール第一王子殿下だ。
出来るなら、二度とお目に掛かりたくはなかったです。
そうとは口が裂けても言えない。
とりあえず、早く用件を済ませてしまおう。
「何の御用でしょうか」
「単刀直入に言おう。……僕の物になる気は無いかい?」
「ふごほぉ……」
ヴァンドール王子殿下の言葉に、思わず変な呻き声が出た。
展開が爆速すぎる。
というか、単刀直入すぎん?
ギギギ、とぎこちなくイースの方へ視線を向ける。
イースは無言で眼鏡を押し上げていた。これは彼が色々な憤りを我慢している時の顔である。
次は、ソルの方を見る。
ソルは「まーたそういう言い方を……」と呆れたように頭を掻いていた。
そしてプラントの方を見る。
プラントはオロオロと僕と王子殿下を見比べていた。
最後は、王子殿下を見た。
彼は、何も疑問に思わずにニコニコしている。
四人の表情を確認して分かった事がある。
多分王子殿下が言いたいのは、まず想像してしまった恋愛的な意味合いではないようだ。
そうと分かれば、話は早い。
─────……ブチギレても良いですかね!!!!!!!
状況を把握し終えた僕は、笑顔で答えた。
「ありません! 僕は身も心もルーチェに捧げているので!!!」
そう言い切って、扉の方へ回れ右をする。
しかし、ここでも邪魔をする攻略対象三人衆。
「ち、違います、フレドくん! 殿下は生徒会に入らないかという事を仰りたいのです!!」
「ハァ!? さっきの言葉のどこに生徒会に関係する言葉がありましたか!? 何も言ってないでしょう! 僕の物になるとしか!!!」
「そうなんだよ、それは分かるんだけど言葉が足りないんだよ、この人はいつも!!」
「それでも言って良い事と悪い事があると思います!!」
「フレドさん! お願いです、話を聞いてください!!」
「聞いていられるか! 僕はね、人生の全てをルーチェに捧げているんです。それ程彼女を愛しているんです! さっきの言葉を客観的に考えてみてくださいよ。少しでもルーチェに誤解されたらどうしてくれるんですか!!!」
僕の肩を押さえたり、腕を掴んだり、腰にへばり付いたり、もうわちゃわちゃだ。
でも、いくら不敬だと言われようとも、もう我慢がならなかった。
ただでさえ、彼女は僕がヒロインだと思い込んでいるのだ。
今のシーンをルーチェに知られたら最後、「王子殿下ルートにするのね、頑張ってね!」と勘違いするのは間違いない。
そんな誤解を受けかねない場所にいられるか!!
「フレドくん、頼みます!」
「お願いだよ、フレド! そのツッコミが欲しいんだ、マジで」
「フレドさん! お願いですから!」
「はーなーせー!! 僕は帰るんだ!!!!」
抵抗も虚しく、僕の生徒会入りは確定されてしまった。
後から聞いたところによると、生徒会の追加メンバーを探していた所、イース・ソル・プラントの三人から推薦者として名前が上がったのが僕だったらしい。
成績も上位であるし、他の生徒会メンバーとの関係も良好。
気難しいイースと友人関係を築ける程に懐が深く、目的の為ならば努力を惜しまない根性もあり、困っている人を見過ごせない優しさもある。
おまけに、何かと言葉が足りない王子殿下の言葉を率直に受け取らないどころか、ツッコミを入れてくれそう。
つまりは、悪いのは今までのあれこれと、イース達が勝手に期待を膨らませてしまった僕の人物像だ。
ツッコミを入れてくれそうって何だよ。僕がしなくても、勝手に入れなさいよ。
それでも、土下座する勢いで頼み込まれてしまったら、もう断る事なんて出来やしなかった。
生徒会に入るという事は王子殿下の側近の一人になる事確定のようなものだけれど、僕はルミナリエ家に婿に入る予定なので、絶対に城には上がりませんからね。
その事を強く言い含め、僕は渋々受け入れる事にしたのだった。
***
その後、何処から聞きつけたのか、ルーチェが鼻息荒く僕に詰め寄ってきた。
曰く、
「生徒会室で、男だらけでくんずほぐれつしてたって本当!!?」
「ルーチェ、言い方!!!」
表現が酷すぎる。
ていうか、何かいかがわしい想像をしてないか!?
後にも先にも、僕がそうしたいと思うのは一人だけなんですけど!!
ルーチェの誤解を解くのに、二時間掛かった。
そして、王子殿下含む生徒会メンバーに、それに伴う苦情を同じくらいの時間行った。
王子殿下は流石に反省したようで「本当にすまない……」としょぼくれていたが、暫くは根に持ってやるつもりである。
【登場人物紹介】
ヴァンドール・イサール・ヴェント
第一王子であり、一年生ながら生徒会長を務めている。
銀髪、金の瞳。
大らかな性格で、無自覚に人を振り回す事が多い。
お近づきになる為には、まずは他の生徒会メンバーである三人と仲良くなる事。
彼らが信頼している人物に興味を持つはず。