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第八話 夫婦らしいこと

「私、幸せです」


 魔王様の腕のなかで呟いた。


 一瞬だっだが、妖艶な幹部として振る舞い、ようやく魔王様に相応しくなれた気がした。


「モルガンが幸せなら、俺も嬉しい」


「魔王様っ」


「もっと夫婦らしいことをしよう……」


 いっそ夫婦だとカミングアウトして、夫婦で世界征服だろうか?


光の国(ルークス)に行ってみないか?」


 予想外の提案に驚いた。


「最近、ルークスの野菜料理を食べさせてくれているだろ」


「はい」


 魔王様には、夫としても幸せになってもらおうとしていた。

 その中で、痩せた体を特に気にかけていた。

 闇の者は痩せ型が多いが、唯一無二の魔王様が栄養失調では大変だとずっと心配だったのだ。

 旦那様になってもらったからにはと、栄養のある料理を密かに作り食べてもらっていた。

 夜にひっそりと城の台所で料理、怪しい薬や食べ物でも作っているように見られているようだ。今のところ、自分の夜食ということで通せている。


 せっせと料理を食べてもらうのは、健康のためもあったが、魔王様が普通にごはんを食べているのが少しおかしくて、見ていたいのもあった。


「美味い」


 ニコニコして見守る私に、魔王様も笑ってくれた。


 後は、メニューを増やさないと。

 それと栄養のある食べ物。


 メニューと食材探しを始めた時。

 ルークスで育った野菜は栄養がある。

 そんな話しを聞き入れて、こっそりと買いに行ったりもしていた。


「ルークスの野菜料理か……」


 最初出した時、魔王様は食べるのをしぶった。


「食べて弱体化したりしないか?」



 机の隣のとまり木から見守るコイスも、首をかしげた。


『しませんかねぇ?』


「しませんよ」


 私は自信を持って断言した。


「反対に健康になれるのです。闇の者達も食べていますから、心配いりません。私も食べています、なんともありません」


 安心させるようにニッコリすると、魔王様も納得したように笑顔をくれて一口食べてくれた。


「美味いな」


 確認するように噛み締めて飲み込み、体の具合を見るようにじっとしていた。まだ少し疑っているようだ。


「コイスにも、木の実をあげる」


『魔王様が食べたなら、私も食べるしかないですね』


 コイスは仕方なさそうに、小さな木の実を一つ食べた。


『美味しいです。もう一つください』


『よかった。コイスも沢山食べて健康になって」


 コイスに木の実をあげながら伺うと、魔王様も黙々と食べていた。

 その後もやはり、悪影響は見られなかった。効果があったかは、今のところ、魔王様の顔色や体つきに変化は見られずわからないが。


「ルークスに材料を入手しに行っているのだろう? 俺もついて行きたいと思っていた」


 私を心配してくれていると、瞳から伝わってきた。


「ルークスは平和を望み魔王軍と戦わないなどと言っているが、本当かどうか、確かめてやろう」


 厳しい顔つきで遠くをにらんでいた魔王様は、そのまま私の方を見た。


「危ない目には遭わせない、密かに人々にまぎれて町を見よう。モルガンはいつも通りにしてくれればいい、俺がついて歩く形にしよう」


「はいっ」


 魔王様となら安心。これは、魔王様と私ならではの新婚旅行と思っていいのでは? 


 笑顔をみせている魔王様に、前のめりに笑顔を返した。

 しかし、すぐに不安がよぎった。


「大丈夫ですか? 魔王様が行っても?」


 光の国というくらいだ。

 光属性の者たちが暮らす、キラキラ眩しい国。

 唯一、魔王軍の進行が及んでいない国でもある。


 魔王様は浄化されるんじゃ?

 物凄く心配になった。


「大丈夫だ。俺は元々人間だ。闇属性の者ではあるが、それだけなら大丈夫だろう」


「人間なんですね」


「当たり前というか、知っているだろう」


 笑ってうなずく。


 人間の証拠のように血の通った青白い不健康な肌。

 闇の者の暮らしをする自分が思うのもなんだが、日光に当たったほうがいいのではないかと思っていたところだった。


「行きましょう。私はもう何度か行ったことがありますから、人間なら闇属性でも大丈夫です」


「よし、時間をとらないとな」


「どれくらいにしましょう? あまり、魔王様が城を留守にするのも……」


 と言っても、妻になる前は、決まった時間の定例報告、敵発見時や戦闘の前後、あまりないが魔王様に呼び出された時以外はほとんど魔王様に会うことはなかった。一日に一回しか会わない日もあった。だから、いなくても多分気づかれないだろう。探そうにも、魔王様の居住地がある最上階に近づけるのは、私とバルダンディだけだ。


「部下達には気づかれないとは思いますが、留守に限って敵が来ることも……」


「ああ、だが、半日はほしいところだな。繋ぎをバルダンディに頼んで、なにかあればすぐ戻るようにすれば問題ないだろう」


「はい」


「モルガンは半日留守にして大丈夫か? 城の警備任務がない日なら行けるか?」


「はい」


 城を見回る部下達の報告を受けたり、自ら見回りをしたりという常時城にいる必要のある警備任務は、四天王でローテーションで担当していた。その他の任務は会議で決めるが、ほぼ各自好きに行動している。どこにいるか、お互いよくわからないし気にしないのだ。


「四天王には、ルークスに行くと伝えても問題ありません。実は、ミストも興味本位に行ったりしているのです。ギルバードはあまりいい顔はしませんが。バルダンディは様子を見ているようです」


「その話しはバルダンディから聞いたことがある。偵察の結果次第でルークスをどうするか決めて、バルダンディから伝えてもらうとしよう」


「はい」


 偵察の日はは明日に決まった。


「それと、この見た目はまずいかもしれないな」


 魔王様はベッドから起き上がると、胸に片手を当てた。

 漆黒の光に包まれたかとおもうと、少し姿が変わった。


「どうだ? 5年くらい前の自分になってみたんだが」


 5年くらい前の魔王様。

 どこにでもいる闇の青年ぽかった。

 髪の長さも肩くらいになって、顔つきも純粋さが残っているというか、私より年下に見えるというか、暗さが薄くなっている。

 目元も少しぱっちりになった気がする。

 いつも見ている私でさえ、さっきの魔王様と同一人物とは思えなかった。


「絶対、誰にも気づかれません!」


「よし。それと、俺のことは魔王ではなくダイスと呼んでくれ」


「ダイス様。魔王様の本当のお名前ですか?」


「ああ」


 魔王様に名前があるなんて、そんな当然のことも今まで思わなかった。私は相当 “魔王” に入れこんでいるらしい。人生を振り返ると、当然だけど。


 ダイス様。これからはダイス様自身も大事にしないと。


「ダイス様」


「様はつけない方がいいんじゃないか? ダイスさんとかで」


「いえいえ、ダイス様は魔導士としても最高レベルです。様付けで呼ぶに相応しい方です」


「そうか、ありがとう」


 ダイス様は普通の青年のように、嬉しそうに笑った。

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