表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

2/11

第二話 結婚

 翌日、私は仲間達と魔王様の前に並んだ。


 いつものナナメ前の位置から、表情を確かめる。 

 無表情だったが、瞳を見つめると視線が下に動いた。

 魔王様が私を意識していらっしゃる。


 そう感じて、照れて動揺しそうになった。

 必死にこらえて微動だにしないように立つ。

 仲間には気づかれていない。


 しかし、唯一全てを知っているオウムのコイスが、昨夜と同じように首をかしげて私を見ていた。

 視線が痛い。

 ただのオウムのはずだがと、視線を合わせた。


 すると、翼を使って秘密というジェスチャーをした。

 小さくうなずくと、なにげなく漆黒の羽をつくろいはじめた。

 ただのオウムじゃない。

 そう戦慄したが、同時にほっとして、魔王様に視線を戻したが、途端に魔王様の顔以外なにも見えなくなった。


 仲間がなにか報告をしているが、頭に入ってこない。

 話しているのは魔王様の右腕といえる忠臣バルダンディだ。重要な話に違いない。無理矢理意識を持っていく。


「以上でごさいます。魔王様」


 話が丁度終わってしまった。


「ご苦労。皆、さがっていい」


 魔王様の命に、仲間達は一礼してさがっていく。


 私も力なく礼をして、魔王の間を出た。


「あの、バルダンディ」


「なんだ?」


 廊下を行くバルダンディが振り向いた。

 長い銀髪が美しい長身の若き魔導士だ。黒いローブを着た姿、どこか魔王様に似ている。闇属性の者は雰囲気が似るのかもしれない。


「さっき、魔王様になんと報告したのか、もう一度教えて」


「聞いてなかったのか?」


 バルダンディは細い眉を寄せて赤い目を鋭くした。

 その顔は魔王様に匹敵するほど、恐い。


「ええ、ごめんなさい。少し考えごとを……」


「支配地を見てきたが、今のところ問題はないとご報告したのだ」


「そう、問題ないか、よかった」


「ああ、だが、だからこそ油断するな。今のようではスキを突かれるぞ」


「申し訳無い」


 顔を伏せて反省する私にうなずき、バルダンディは去っていった。


 忠告に従い気を引き締めた。

 フニャフニャに不抜けていては、魔王様に呆れられてしまうかもしれないし。

 魔王の部下としての使命感も失っていなかった。

 その日はいつも通り、城の警備に徹して過ごした。


 しかし、深夜。

 昨夜告白した時刻になると落ち着かなくなってきた。

 我慢できずに、そして、昨夜のことが夢ではなかったかと気になって魔王の間に向かった。


 昨夜と同じように魔王様は居た。

 だが今夜は昨夜と違い、私の姿を見ると立って近づいてきてくれた。


「ま、魔王様……」


「モルガン……」


 魔王様の声色が優しい気がした。

 気のせいかもしれない微妙な違いだったが。


 しかし、魔王様の両手にしっかりと腕を掴まれた。


「魔王様、私……昨日のことが、夢のように思えてしまって」


「俺も、気になっていた」


 俺? いつもは我と言ってるのに。

 いえ、そんなことより、私が気になっていたなんて。

 一日中? 魔王様が私のことを考えていた?


 興奮に胸が苦しくなり、息づかいが早くなってきた。


「魔王様……」


 夢ではないと確かめるため、魔王様の顔や体に視線を這わせた。

 そして自分の腕を掴む指先に気がついた。


「魔王様、爪が」


 鋭い爪が綺麗に切られている。

 魔王様も爪を見た。


「ああ、切った。お前の体を引っ掻き傷だらけにしてしまったからな……」


 体に視線を受けて、恥ずかしさに下を向く。

 体の傷は全て消えていた。

 見つめあった後に抱きしめられた時、光に包まれたことを思い出した。


「傷はありません。魔王様がだき、抱きしめてくださった時に治療魔法で癒やしてくださったから……?」


 魔王様は静かにうなずいた。


 や、優しい!


 目を閉じて、感動に浸ってしまう。

 そして夢ではないと確かめるため目を開けて、魔王様が眺める爪をもう一度見た。


「爪なら問題ない。(じゅう)魔法を覚えて、いつでも獣の爪を出せるようになった」


 魔王様は鋭い爪を出したり引っ込めたりしてみせた。


 魔王様! 私のために、わざわざ獣魔法を覚えてくださった!?


「魔王様」


 胸にすがりついたら、爪の引っ込んだ手でしっかりと抱きしめてくださった。


 私の爪は? 大丈夫、綺麗に丸く研いである。

 その指で、魔王様の体を包むマントを握った。


「私を魔王様の女にしてください」


「女、でいいのか?」


 顔を見上げると、魔王様はまた普通の青年のように首をかしげていた。


「こ、恋人に」


「恋人か……」


 考えるように視線をそらし、やがて私に視線を戻すと真剣な顔つきになった。


「いや、恋人より、妻になってくれ」


 あまりの衝撃に、心臓を刺し貫かれた気がした。


「妻に? よろしいのですか?」


「ああ、頼む」


 いつもの口調なので少し戸惑ったが、感動でいっぱいの笑顔でうなずいた。

 うなずき返す魔王様、表情が凄く硬い。

 緊張しているとわかった。私を妻にした責任感に溢れた表情なのだ。忘れないように記憶しよう。


 見つめていると、魔王様がなにかに気づいたようにハッとした。


「今から魔法石の指輪を作る。受け取ってくれ」


「はいっ」


 私が目で訴えてると勘違いしてくれたようだ。見つめてよかった。

 それにしても。


「結婚したら指輪をすると、知ってらしたんですね」


「これでも、魔王になる前は人の暮らしをしてたからな」


 魔王様は私の好きな、面白がるような笑みをみせた。


 魔王様が人の暮らしを? 想像できない。

 いつか、見てみたいような、一緒に暮らしたいような。


「指輪だが」


「はい」


「魔法石に防御魔法を仕込んで、攻撃を受けた時に守れるようにしておく」


「ありがとうございます……!」


 頼もしすぎる魔王様。

 旦那様になったなんて、これから新婚生活がはじまるなんて信じられない。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ