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姉弟勇者の異世界生活  作者: アジの缶詰
エピソード0 ~異世界転移する前の話~
4/5

ベイスカイ王国の悲劇

俺たちはベイスカイ王国へ急いで向かっていた。

 さっき聞いた轟音は凄まじいものだった。俺たちがさっきまでいた森とベイスカイ王国はそこまでの距離ではないが、とてつもない魔法が放たれたのは間違えないだろう。

 アメリアの魔法に匹敵するくらいのものだと俺は予想していた。

 いったい誰が、どうして?そんなことが頭のなかを埋め尽くしていたが、とりあえず、行って確かめてみるのが一番だろう。


「すみません、どうか、助けて下さい、」


しばらく歩いたところで、ベイスカイ王国の兵士に出会った。


一人は軽傷で歩けていたが、とても怯えた表情をしていた。 もう一人は、右の腕を切断され他にも数ヶ所怪我をしていて、出血が多く、とても危険な状態だった。


「それよりもすごい怪我ですよ、今回復魔法をかけるのでじっとしていてください。」


 そう言ってシャーロットが兵士に回復魔法を施した。

 切断された腕がもとに戻ることはないが、出血が止まり、浅い傷はみるみるうちに回復していった。


「本当にありがとうございました。あなた方がいなかったら僕は助かっていませんでした。」


 怪我をしていた兵士がシャーロットにお礼を言った。


「無事で何よりです。落ち着いたらでいいので、あなた達に何があったのか話していただけないでしょうか?」


「あぁ、あなたは勇者のゼイン様、そちらは姉のアメリア様ですよね、どうか、ベイスカイ王国をお救いください」


「まず、ベイスカイ王国で何があったのか話してくれない?」

 アメリアが兵士に質問する。


「分かりました。僕たちは下っ端の兵士ですしそこまで詳しいことは分からないのですが、

 

 ちょうど日付が変わるぐらいの頃、リリスと名乗る女がベイスカイ王国の上空に飛んできたんです。

 彼女は我が国に一人で宣戦布告をし、大量の魔物をベイスカイ王国に送り込んできました。

 僕たちは魔物と戦いました。しかし、その魔物が普段戦っている魔物とは比べ物にならないくらい強くったです。

 辺りは火の海になり、ベイスカイ王国の兵士6千人ほどいましたが、半分くらいの兵士が殺されました。

 それを上空から彼女は楽しそうにみているのを僕はみて、恐ろしく感じました。

 結局、魔物は兵士団の上層部の方々が片付けてくれました。   

 みんなこれで終わりだよ思っていたのですが、本当の恐怖はここからでした。 

 ずっと戦いをみていた彼女が 

 ―楽しいものを見せてくれてありがとう。でも、もう全部倒しちゃったのね、つまらないわね。まぁいいわ、あなた達全員苦しまずに殺してあげるわ―

 と言って、手を上にあげたんです。

 すると彼女の手の上に紫色の槍のようなものがたくさん現れました。

 何が起こっているのかと考えているのもつかの間、彼女は手を振り下ろしました。

 

 僕は悪夢でも見ているような光景を目の当たりにしました。

 辺りは血だらけになり、さっきまで、共に戦っていた仲間達がいたのに、そこにあったのは酷い姿になった人の死体でした。

 僕は怪我人を安全なところへと運んでいる最中で、彼女が攻撃した場にはいなかったですが、彼女が攻撃する瞬間はしっかりみていました。

 ですが、確実に目でみることのできる速さではなかったです......」


リリスという女への恐怖、何も出来なかった自分への無力さ、悔しさ、仲間を理不尽に殺された怒り、この兵士からはたくさんの負の感情が感じられた。


「状況は理解しました。つらかったですね。話を聞く限りリリスという女はかなりの強者ですね。

 今も彼女はベイスカイ王国にいるのですか?」


 俺がそう聞くと、


「その事なんですが、僕とその仲間が戦場の光景を目の当たりにして、恐怖でいっぱいになりました。

 僕の仲間達が逃げようと言ってきたので僕も一緒に逃げることにしました。

 しかし、逃げている途中で僕たちは上空にいる彼女に見つかってしまいました。

 彼女は僕たちに向かって何か話しいてるようでしたが、話を聞く余裕などなく、ただひたすらにこの現実から目を背けたくて、走り続けました。」

 

 そして彼女は逃げ続ける僕たちに対して手を振り上げ、一瞬にして何千人もの命を奪った、槍の雨を降らす攻撃を僕たちに放った。

 彼女か僕たちに対して最後に―死になさい―といい放ったのは僕もはっきり聞き取った。

 正直、もう助からないと思ったし、そのとき、希望も抱いていなかった。


 僕の体に激痛が走った。だが、意識はあるし、死んでもいなかった。ただ今さっきまで体についていた右腕がそこにはなかったが。

 仲間も誰も死んでいない。そして、仲間に放ったであろう彼女の槍は的を外し地面に刺さっていた。

 僕は何が起こったのか分からなかった。

 ただ顔をあげると、俺達の目の前に燃えるような赤い髪の女性が水色のシールドのようなもので俺達を守っているのが確認できた。

 おそらく彼女が俺達を守ってくれたのだろう。


「すまない、遅くなった。この女の相手は我に任せろ、お前達はここにいたら、死ぬだけだ、一刻も早く逃げろ。

 命が惜しければ、」


 赤い髪の女は俺達にそう言い残すと、上空で楽しそうにしている、悪魔と戦いを始めた。

 僕たちは、ここにいたら死ぬことを悟り、また、走り始めた。

 二人が戦っているなかで会話が聞こえてきたが、またもや僕は、そんなことを聞いている余裕はなく、仲間と逃げ続けた。しばらく走ると、戦場からだいぶ離れたところに来ていた。

 僕ともう一人の仲間以外は、怪我人の治療に戻ったが、僕は王国の外れにある病院で手当てを受けないといけなかったため、仲間の肩を借りて、病院へ向かっていた。

 その道中であなた方と出会った。


「逃げてきた僕たちがいうのも、説得力がないと思いますが、ベイスカイ王国のためにどうか力を貸してください。」


 

 この兵士達が俺達のところに来るまでに、何があったとかは、理解できた。

 だが一つなんとしても聞かなければいけないことがあった。話しにでてきた人物の質問だ。

 俺が兵士に質問しようとしたとき、それより前にアメリアが


「あんたの話しにでてきた、赤い髪の女ってどんな魔法使ってたか分かる?

 それと耳に妙な耳飾りつけてなかった?

 ひょっとしたら、私たちに関係のある人物かも知れないから、」


と兵士に質問した。おおよそ俺がしたい質問と変わらなかったから、俺からは質問はしなかった。


「ええと、その女の人の見た目はあまりみていないので耳飾りをつけていたかまでは分からないですが、

 不思議な服装をしていたのは印象に残っています。

 僕のみたことないものでした。それと扱っていた魔法は分かりませんが僕たちが逃げているとき、

 後ろで紫色の魔法と、水色の魔法が見えたので、たぶんその女の人が扱っていた魔法は水色のものだと思います。」


 赤い髪に水色の魔法を使う、あやふやな情報も多いが今の俺達にとっては十分だった。

 おそらく、その女は世界の調停者だろう、

 俺だけでなく、この話を聞いた、アメリア、シャーロット、ルーカスも何かを悟ったような顔つきだった。


「行こう、ベイスカイへ、敵が誰で、どんなやつかは分からないが、戦場な赴くことに意味があると思う。

 それに、ここを逃したらもう二度と世界の調停者に会うことが出来ない気がする。

 厳しい戦いを強いられるかも知れないけどみんな準備はいいですか?」


 みんな、もちろんと言わんばかりの表情をしていた。


 


 俺たちはベイスカイ王国に向かった。

 王国に近づくにつれ、戦いの音が聞こえるようになった。 

 兵士の言っていた通り、水色と紫色の魔法が見受けられた。

 しばらく走るとようやくベイスカイ王国に到着した。

 

 城壁のなかにはいると、そこには地獄のような光景が広がっていた。

 おそらくそれが兵士の言ってた光景だろう、辺り一面に紫色の槍で体を貫かれた死体が数えきれないほどにあった。

 それをみて俺は、何千もの命を何の抵抗もなく奪うリリスという女の行為に憤怒した。

 それと同時に、そんな行為を容易にしてしまう彼女の残酷さや実力を恐れた。

 今まで戦ってきたどんなやつよりも彼女は強いだろう。


 そして上空を見渡すと、リリスと赤い髪の女が戦っていた。俺がみるに、実力は均衡しているように見えるが、やや赤い髪の女の方が優勢だろう。


「おいおいこれ...本当にあのリリスっちゅう女一人でやったのか...なんて残酷なんだ。」


ルーカスがみた光景に言葉を失いかけていた。


「無差別に何の危害もない人間を殺すなんて、私、あいつのこと絶対許さない!!早く戦いに加わりましょう。

 あいつを倒さないと納得できない。」


 アメリアが怒りの形相を浮かべて、今にも二人の戦いに飛び込んいきそうだった。


「落ち着いてください。アメリアさん、気持ちはものすごく分かります。

 ですが、今戦いに混ざるのは危険です。

 なぜなら、リリスは倒さなければならない相手です。

 しかし、赤い髪の女はどうですか。リリスと戦っているから、敵ではないと判断していいのでしょうか?」


 シャーロットがアメリアを止めるとアメリアはどうも納得できなかったらしく、

 

「じゃあ、ここで大人しく二人の戦いを見てろって言うの?  今すぐに倒すべき相手がそこにいるのに、

 もういいわ、私だけでも、行ってくるわ。最近できるようになった、浮遊魔法を試すいい機会だし、」


「だめです、アメリアさん、考え直して下さい」


 シャーロットがアメリアのことを掴む。


「うるさいわね、離しなさいよ!」

 

 すると、アメリアはシャーロットの手を振り払うと、自身に浮遊魔法を付与し飛び立とうとしていた。


「おいまて、アメリア、落ち着け!」


 俺は姉さんのことを名前で呼んだ、それがどういう事なのかアメリアも理解してくれたようだ。


「姉さんは何をそんなに焦っているの? 今俺達には、情報が足りないんだ。それなのに、戦うって言われても困るんだよ!

 姉さんは正義感が強いけど冷静さを保てないと時が多い。

 自身の正義感にとらわれて、回りが見えず、俺達に迷惑をかけてること自覚してる?」


 アメリアが我に帰ったように、はっとしていた。


「どうやらその顔、もとのアメリアに戻ったようだな、全く、弟にあんな注意されて、みっともねぇぞ、アメリア、

 もっとお姉さんらしいとこ見せねぇとな!」


 ルーカスが声をかける。さっきまでとは違いアメリアも冷静さを取り戻していた。


「今のは、私が熱くなりすぎていたわ、ごめんなさい、シャーロットの、言う通り、敵か見方かも分からないやつと戦うのは危険だわ。

 それにゼイン、私を引き留めてくれてありがとう」


「まぁ、こういうの初めてじゃあないもんね、姉さん」


「いつものアメリアさんに戻ってくれてよかったです」


 アメリアの言葉に俺とシャーロットはそう答えた。


「でも、やっぱり、あと赤い髪の女は敵には見えないんだよね。

 助太刀する形で戦いに加わるのはやっぱ危険かな?」


 冷静になったとは言え、アメリアの性格が変わったわけではない、アメリアはなんとしてもリリスを倒したいのだろう。

 

「危険ではあるだろうけど、姉さんがそこまで言うのなら、シャーロットに浮遊魔法をかけてもらって、俺と姉さんでリリスを倒そう。

 あの赤い髪の女も俺たちがリリスを一方的に攻撃しているのを見れば、俺たちが敵ではないことを分かってくれるだろう。

 でも、できれば一撃で決めたい、

 たとえ味方だったとしても、手の内も分からないやつと長期戦はしたくない。

 でももし、長期戦になりそうだったら、シャーロットとルーカスは援護をお願いします。」


「おう、背中は任せな!!」


「かなりの危険を伴う戦いです。くれぐれもお気をつけて。   それでは二人に浮遊魔法をかけます。」

 

 戦いの準備は整った。


 そして俺とアメリアは赤い髪の女の助太刀、もといリリスを倒しに上空へ、飛び立った。






 そして、この戦いが俺たちの旅の終点となるのだった。

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