2021問題M
「だーっ!!全然違ぇじゃねぇか!!ボケがぁぁっ!!」
ガアアァァンッッ
ヘルメットを床に叩きつけて、木下は会社へと帰還。
今回は客側のミスであったが、普段は同じ仕事をしている人間達がやらかすことだ。
「はーっ!終わった、ボケェェっ!!」
こんな感じにぶちギレてしまうのは納得が行く事。それくらいはさせねば、本人の毒となる。
他人のミスを一時とて、カバーするというのは、美しい友情や褒美でもらう金ではそう補えず。
ドゴオオォォッッ
「帰ってくんの、遅いわ!!この爺いぃがああぁぁっ!!」
「ぶほおおおぉっ!!?」
怒り狂った事を吐き出したかと思えば、今、怒り狂った事を自分に向けられる。これってパワハラやねんってツッコミも多いが、もはやここでは慣れたもの。
課長怒りのオーバヘッドキックが、木下の頭を襲ったのであった。
「車のキー返せやボケっ!!借りたつり銭戻してから、謝罪に行けや!!」
「ってーなっ!!戻ってからやろうとしたんだよ!!」
以前、配達証などの数を数えるといった事もしていると述べたが。それ以外にも当然ある。当たり前だ。
会社が用意している、車やバイクのキー。細かいお釣りに対応できるように、つり銭のご用意。これらはキッチリと返して、帰社してくれないと困る。
なぜなら夜の課長クラスは細かい備品のチェックも怠らない。また、翌日の午前指定などのチェックや準備も行なっているのだ。
ともかく、夜勤者は備品に至るまで、全て揃わないと困る。
「……それはそれとして、木下さん。7000円あるか?」
「は?新手の脅しか?屈しないぞ!」
「山口の奴が金を納めないで帰ってんだよ。代引きの7000円が足りてねぇんだよ!お前のチームの一員だろ!」
代引きのお金も、配達全業務が終了次第、会社に納める規則になっている。
そして、今のように金を納めないで帰る事も可能である。当然、
「俺は手持ちにない」
「課長が貧乏とはなぁ……ぷーっ、今までなんのために働いているのかね?」
「うっせーよ。子供と奥さんのためだ。あんたもそうだったろう!」
会社が当日分に処理される金額分と差異が生じる場合。振り込むまで仕事はほぼ終わらない。誰かが払わなければいけないのだ。ちなみにこれが発覚するのは、夜勤者全員の勤務が終わった頃らへんである。このミスは会社内でも厳しく言われるので、気をつけよう。横領とか言われるぞ!
「ったく、しょうがねぇ課長だ。俺は後で山口に会う予定あるから、その時あいつからぶんどってやる。まずは、1万円を細かくするか(現金管理機で両替はできるぞ、あんまり良くないけど!)」
「分かった。じゃあ、おつりの3000円は俺が預かっておこう」
「ぶっ飛ばすぞ!!いい加減にしやがれ!!……それから、山口に俺から電話する」
「その前にキーとかをちゃんと返せ」
木下は舌打ちしつつも片付けをしている。その間に、課長は狡い事に木下に超勤時間を記入し始めた。まだ仕事をしているというのに、帰った扱いにしやがった。
一通り片付けを終わらせ、山口に電話をかける。
ビイイィィッ
「…………あの野郎」
さては、飲み潰れているのかと、疑う木下であったが。
ピッ
『おーぅ、遅いぞ。木下さん』
「山口!!お前、今日!現金を返金したか!?7000円足りてねぇって!」
『現金?』
「代引きがあったろう!この横領野郎が!!」
『あーっ……あーーーーっ!あったあった!返してなかった?』
「返してねぇーよ!俺が払う事になる話にされてんだよ!」
『すんませーん!今日担当の机の、引き出しに、金がないっすかね?』
「机の引き出し?」
ここで引き出しの中にお金はない……そう言って、本当に入っているお金をパクっても、木下達は疑われない。山口が全責任を負って首を切られるなり、減給されるなりする。
まぁ、連帯責任とか言って、上から面倒な視察がジャンジャン来るので、そんなことはしないが。
「おー、あったあった」
『パスの方はー』
現金を納める時にはそれぞれのパスワードが必須。これを他人に教えちゃったりすると、勝手にお釣りをパクられる危険性があるので、管理は徹底しよう。個人で言えば、銀行口座の番号とそんなに差異はないほど大事なものだ。
ガチャンッ
「おう。現金入れておいたからな」
『すんませーん、まだ盛り上がってるところなんで、急いで来てくださいよー』
「お前のトラブルのせいだよ!」
ピッ
仕事もようやく終わり。飲み屋に直行だ。
「じゃ、お疲れね。飲み屋で楽しくしてな。アルコールチェックにひっかからない程度にはしろよ」
「ちょっと待った。なんで俺の一万円を握っているんだ?」
「木下さん、金持ってるでしょ~。今日は飲み会なんて」
その前に、1000円10枚に両替した1万円をパクろうとする課長の手を掴んだ、木下だった。




