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短編集(恋愛・異世界等)

醜いアヒルの子にも需要がある

作者: A

下の記号でそれぞれ視点が移ります。


◆姫


●●騎士



【2021.9.21妹姫視点を最後に追記しました。他は大きな変更ありません。」

元々の構成に入っていない部分であるため、かなり疑義のある部分かもしれません。


※別の作品

『嘘がつけない令嬢と、嘘を見破る令息』の方も追記があります。もし前に読んだことがある人がいたら、新しい部分がありますのでよかったらご覧ください。


【補足】

削除からの改訂、再度掲載も考えましたが、頂いた感想をなるべく消したくなかったので追記方式です。

当然、投稿から改訂までの間に読んでそのまま気づかれない方もいらっしゃるかもしれませんが、そちらを優先しました。ごめんなさい。




 見た目は重要か?

 私、マリア・ファン・ヴィルヘイムはそう聞かれたらこう答えるだろう。


 『重要だ』と。


 大国、ヴィルヘイム王国の長女として生まれた私はあまり優れた容姿をしていなかった。


 くすんだ灰色のような銀髪、重そうな一重の瞳、男性から気遣いの言葉をもらうような貧相な肉体


 正直見れないほどではない。人によってはまあまあ位の評価にはなるだろう。

 だが、不幸だったのは私の妹が絶世の美女だったことだ

 


 私の妹、アリア・ファン・ヴィルヘイムは、正に皆が期待する姫という姿に相応しい容姿だった。

 

 幻想的な穢れ一つない銀髪、ぱっちりとした二重、男性の視線をくぎ付けにするような恵まれた体形


 彼女がほほ笑むだけで人は魅了され、何もせずとも人が集まった。



 私と妹。同じ時、同じ腹から産まれても違った容姿で産まれた姉妹。

 運命の神様は残酷だった。

 

 一見、聞き間違えが発生してしまいそうなほどに名前の韻も似ているがそれを聞き間違えてしまうことは無い。なぜならその声色で誰を呼んだかが理解できてしまうのだから。


 

 ヴィルヘイム王国は建国時からの伝統で女王が治める国である。

 十八歳になる頃に、子が王位を継ぐ。

 そして、継承権を持つものが複数いる場合は国民の投票によってその王が決まるようになっている。


 王位を継いだものは王配を定め、そして共にこの国を繁栄させていくのだ。


 母はどちらが継いでも良いと言ってくれるが、その期待の比重が妹に大きく偏っていることを私は知っている。



 妹が民衆に手を振る。子供ですら笑顔で手を振り返し、誰に振り返されたかと喧嘩になる。

 

 私が民衆に手を振る。親が無理やり子供の手を握って振らせる様子が見える。



 妹が文官と政治について意見を交わす。過去に却下された意見ですらも手放しで賛成される。

 

 私が文官と政治について意見を交わす。一応の世辞を得るが、問題点を指摘し妹の案が採用される。



 妹が貴族の子息に挨拶される。山のような贈り物と美麗な言葉で称賛される。


 私が貴族の子息に挨拶される。一言挨拶と社交辞令だけで去っていく。



 それも仕方がないとは諦めている。王族として見た目は重要だ。

 ただ、私を見てくれる人を一人だけでもいい、見つけたいとそう思う。

 王になれなくてもいい、他の人が見向きをしなくてもいい。 


 民衆のため過去の政策を分析し、新たな政策を考えても。

 外交のため他国の文化を知り、その言葉を覚えても。

 家臣のため自分から出向き、その顔や名前、家族を覚えても。


 誰も妹にしか目を向けないのだから。




●●


 見た目は重要か?

 俺、クロード・レイ・グリンガルはそう聞かれたらこう答えるだろう。


 『重要でない』と。 


 

 大国、ヴィルヘイム王国の公爵家の長男として生まれた俺は前世の記憶がある。


 美人の姉三人に囲まれて俺は周りから嫉妬を受けることが多かった。



 美人は性格もいい?ふざけるな!!この童貞野郎!!

 確かに姉は全員タイプは違うものの、客観的に絶世の美女と言っても過言ではなかっただろう。


 だが、俺を虐げるばかりで誰も家事を手伝わない。

 無気力人ニート、夢追い人(売れないバンドマン)、自由人フリーター


 ダメ人間の見本市のようなラインナップだった。

 ただ、救いだったのはみんな平均収入以上のイケメン彼氏達がいたことだろう。


 

 同棲させろ?ふざけるな!!このふにゃちん野郎!!

 何事にも限度がある。すぐクーリングオフで返品だ。


 それに、彼らも家事含む日常生活の壊滅具合はわかっていたようで、俺をセットで引き取ろうとしていた節がある。

 ハッピーセットは当店ではお取り扱いしておりません。単品でどうぞ



 やれば慣れる?ふざけるな!!このインポ野郎!!

 それは本人たちにやる気のある場合だけだ



 このように、俺は顔の良しあしにはあまり興味がない。

 ちゃんと働いてくれるかだけが重要だ。

 もちろん、無駄な仕事は評価対象外。お前みたいなやつのことだぞ、野菜を洗剤で洗うニート!!


 ああ。のんびりしたい。

 これまで自分から働きたいと思ったことは無かった。血のつながりがあるから仕方なしだ。

 ただ惰性で必要なことを必要なだけ、無感情に処理してきた。

 勝手に姉達の容姿と自分を比べて女の子たちはまるで近寄ってこない。

 

 容姿の美しさ自体は別にいい。

 ただ、俺がそいつしか見えないというような人を一人だけでもいい、見つけたいとそう思う。







 今日はそれぞれの王族に護衛騎士が決められる日だ。

 憂鬱な気持ちで目が覚める。


 王族は十五になる時にその身に護衛騎士がつく。

 ただし、王族は選ぶ側ではなく選ばれる側だ。

 

 王位の継承に国民投票があるようにこの国では王は皆に選ばれてこそ王という大変崇高な理念がある。


 このため、十五を迎える誕生日に建国時からの譜代である四大公爵家の子息、いなければ息女たちがそれぞれ仕える王を決めることになっている。

 

 当然、各公爵家の者は勝ち馬に乗れる方を選ぶだろう。最終的に配下の護衛騎士から王配が選ばれることがほとんどなのだから。

 そして、王家の方も配下がどれだけ優秀かで自分が王になれるかが決まることも多いためロビー活動がされることが常だ。


 しかし、私はロビー活動など一切していない。

 燃え盛る炎にコップ一杯の水をかけても何も意味がないのだから。


 そして、その時が来る。

 今年は全ての公爵家に年頃の子供がいるため、四家とも揃っているはずだ。


 選定の間と呼ばれる部屋に入室する。

 どうやら見届け人である宰相様はまだ入室していないようだが、既に妹の周りには三人の令息が集まっているのが見えた。皆見た目麗しくいかにも大貴族の息子という華やかさがある。

 

 こんな茶番さっさと…………三人?

 一人いない。周りを見渡すと、椅子に座って目を瞑っている男性がいることに気づいた。

 そして、彼の瞳が開く。 


 闇より深い黒色の髪と瞳、夜を思わせるような冷たくも物静かな眼差しに一瞬息を呑む。


 この特徴はグリンガル家のクロード様だろう。

 しかし何をしているのだろうか?

 私の想像では全員が妹の側に侍っていて、宰相がそれを当然のように見届ける。

 そして、すぐに解散というのをイメージしていたのだが。さっぱり理解が追い付かなかった。

 




●●


 

 今日はそれぞれの王族に護衛騎士が決められる日だ。

 憂鬱な気持ちで目が覚める


 王族は十五になる時にその身に護衛騎士がつく。

 ただし、公爵家は選ばれる側ではなく選ぶ側だ。


 このため、十五を迎える誕生日に建国時からの譜代である四大公爵家の子息がいれば強制的にそれに参加させられてしまう。


 当然、各公爵家の者は権力を握りたいから熾烈な争いが今後繰り広げられるだろう。最終的には王配となり、次世代の王の外戚として君臨することも可能になるのだから。


 そして、公爵家としては優秀な王族の護衛騎士になることが最初の関門であるため、ロビー活動がされることが常だ。


 しかし、俺はロビー活動など一切していない。

 両親は怒り心頭だが強く言えない。なぜなら既に俺は公爵家にこれ以上ないほど貢献しているのだから。

 働かないものは嫌いだ。だから、俺は前の世界の知識も活かしつつ、借金まみれだった領地を改革することで、受けた分の恩は既に返していると思っている。


 美人の姉に囲まれると多くの人間に目の敵にされる。そして、俺はそれを無感情ながらも全て実力でねじ伏せてきた実績がある。


 そして、その時が来る。

 今年は全ての公爵家に年頃の子供がいるため、四家とも揃っているはずだ。


 選定の間と呼ばれる部屋に入室する。

 どうやら王族の二人と見届け人である宰相様はまだ入室していないようだ。

 他の公爵家のやつがこちらを睨みつけてくる。待て待て、俺は敵じゃない。

 のんびりできそうな負け馬に乗る予定だからそんな目の敵にしないでくれ。 


 少し待つと王族の妹の方が先に入ってきた。そして、先ほどまでいがみ合っていた三人が何事もなかったかのように側に寄る。

 甘ったるい賛辞の言葉を子守歌にしながら俺はその辺の椅子に深く腰掛け目を瞑った。


 おっと意識が一瞬飛んでいたようだ。目を開ける。

 すると一人の女性が目に映った。


 くすんだ灰色のような銀髪、重そうな一重の瞳

 

 おそらく、姉の方だろう。凝り固まった体をほぐすと、不思議な顔をする彼女に向けて歩き出した。







 この人は何を言っているんだろう。

 私は多種多様な言語を話せるが、それを聞いたとき、全く知らない言語であるかのように聞こえた。


「あれ?聞こえませんでしたか。

 私はクロード・レイ・グリンガル。グリンガル公爵家の嫡男でございます。 

 貴方の騎士を拝命させて頂きたく存じます。どうか騎士の誓約を賜う機会をと申し上げたんです」


「……いえ。それは聞こえました。ですが、相手を間違えているのでは?」


「この部屋に王族は二人しかいないのですよ?間違えようがございません。殿下」


 こちらの頭が追い付かぬうちに、彼はこちらに腰に差した剣の柄を向けると勝手に騎士の誓いをしてしまったようだ。


 そして、私の騎士であることを示す紋章付きのペンダントを戸惑った顔の宰相様から預かるとそれを身に着け颯爽とこちらに歩いてくる。


「では、殿下。早速政務に参りましょう」


「え……ええ」


 やはり、美人はポカンとした顔をしていても美しいのだな。と妹の顔をチラッと見つつ彼の後を追いかけた。



 

 あの護衛騎士選定の日からもうすぐ一年が経つ。

 正直、彼は私にはもったいないほどに優秀だ。

 

 全てのことにそつがない。

 護衛騎士といえば政務は文官に任せつつ、主人の御用聞きという立場であることがほとんどだ。

 

 しかし、彼は政務すらもしっかりこなして見せた。挙句の果てに、私が過去に作った政策案を勝手に見ると、私の知らぬうちに施行まで取り付けていた。


 そして、私のもとに文官やら侍女やらが少ないと文句を言っては、どこから見つけてくるのかなかなかに癖のある人材を連れてくる。

  

 王立学園首席ながらも、王族を含めた貴族を目の敵にしているが故に全ての仕官先を断られた気難しい文官 

 軟派で忠誠心の欠片も無さそうに見える着崩した服装の隻眼の不良騎士

 異民族の血が入っているため、真っ当な職につけず裏家業をしていたらしい褐色の侍女


 これまで、活気のある声がすることの無かった私の執務室には、あれから毎日うるさいくらいに人の声が響いている。


「ですから、この政策の財源は貴族の家を全て取り潰せば賄えるという試算がですね」


「なあなあ。今日こそは俺としっぽり魅力的な夜を過ごそうぜー」


「失せなさい。二度と日の目を見ることの無いように切り落とされたいのですか?」


 最初は何もせず、妹に任せようと思っていた。

 でも、今はこれ以上無いほどに走り回っている。




●●



 あの護衛騎士選定の日からもうすぐ一年が経つ。

 正直、彼女はこれまで何故評価されていなかったのかというほどに優秀だ。


 働き者で、そのくせ本質を突いた解決手段をすぐに思いつく。

 王族といえば政務は文官に任せつつ、民衆に姿を見せてねぎらったり、外交に行って他国の要人と関係を深めたりくらいが関の山だ。

 

 しかし、彼女は政務すらもしっかりこなして見せた。挙句の果てに、過去に作った政策案が山のようにあって埃をかぶっている。勝手に中を見ると、有用な策ばかりで何故これが採用されていないんだと異世界産の物品を売って荒稼ぎした私財に物を言わせて施行まで取り付けた。


 そして、あまりにも人が少なすぎたのですぐに身の回りの人を増やす。ただし、無能な怠け者は全くいらないので、優秀かつ妹君に篭絡されていないやつを探して見つけてきた。

  

 王立学園首席ながらも、過激な平民思想故に路頭に迷っていた借金まみれの文官 

 この国の兵士の待遇向上を唱えたら最下層に落とされ忠誠心を無くした隻眼の凄腕騎士

 殿下暗殺を命じられたものの隻眼の騎士の前に降伏を願い出た情報通の褐色の草兼侍女


 全員癖が強いものの、優秀だ。だんだんと姫様の人柄と能力に惹かれていきつつ、それぞれの分野で出来る限りの貢献をしている。


「正直、姫様を見ていると貴族全てを排除しなくてもいいのでは、と考えが変わりつつあります。」


「兵の顔すら覚えてると言われちゃなー。守らないわけにも行かないでしょ。」


「姫様は私を異民族の女ではなく一人の人として見てくれる。皆がこうできたら争いは無いのに。」


 最初はあまり本腰入れずテキトーに必要な分だけ働こうと思っていた。

 でも、今はこれ以上無いほどに走り回っている。






 あれから二年ほど経った。

 明日は王位を決める投票の結果が発表される日だ。


 結果はまだわからない。恐らく負けると思う。

 

 でも、結果はどっちでもいいのだ。私の人生は彼のおかげで輝いた。これほど充実した日を送らせてくれた彼には感謝の気持ちしかないのだから。


 見た目は重要か?

 私、マリア・ファン・ヴィルヘイムは今、そう聞かれたらこう答えるだろう。


 『重要でない』と。

 

 あの人は私をちゃんと見てくれた。

 どんな努力をして、どんなことをしたいのか。

  

 私の周りには以前に比べて信じられないほどに人が増えたが、どれだけ容姿の優れた人に微笑まれても心動かされることは無かった。


 もっと外見が優れた人はいるだろう。それでも私には関係ない。

 ただ、あの人だけに心臓が高鳴るのだから。




●●

 


 あれから二年ほど経った。

 明日は王位を決める投票の結果が発表される日だ。


 結果はまだわからない。恐らく勝てると思う。

 いろいろあって、周囲にも俺の姫様の評価が正しくされるようになってきた。

 


【貧民街の死亡率改善に取り組む。】

 俺の調査では、衛生環境がその要因だった。

 

 妹が貧民街の死亡率を改善するため配給を開始する。ただ、残飯はそのまま、衛生環境がさらに悪化し死亡率が上昇する。


 姉が街全体の清掃業務に貧民層を従事させる。衛生環境の改善と平民階層からの印象向上、さらに所得上昇により死亡率が劇的に改善する。




【長期に渡る最前線配備から帰還した兵士の士気向上に取り組む。】

 俺の調査では、多数の兵士が死亡し、生きている者も少なくない数がその四肢を欠損させていた。

 

 妹が直接声をかけ、ねぎらう。ただ、実情を把握していないため一時的な士気向上にしか繋がらない。


 姉が重傷兵の再就職先の斡旋や寡婦・孤児に係る遺族年金の制度化を行う。兵士全体の士気・忠誠心の向上に繋がり、強兵の国として知られるようになっていく。




【敵対関係にあった他国との関係改善に取り組む。】

 俺の調査では、文化を重んじるその国に大国の驕りからそれを無視して外交したのがもともとの敵対要因だった。


 妹がその顔の良さを生かして笑顔で接待を行う。ただ、相手国には女性が夫以外に顔を出すのを恥だという文化があり、関係がさらに悪化しかける。


 姉が文化を理解し、顔の見えないヴェールを纏い、相手の言語を自ら話して接待を行う。相手の文化の尊重に大変気を良くし、治世の間の盟友関係の構築を打診される。


 


 

 でも、結果はどっちでもいいのだ。俺の人生は彼女のおかげで輝いた。これまでただ惰性で必要なことを必要なだけ、無感情に取り組んできた俺に、自発的に、そして意欲的に取り組む楽しさを教えてくれた彼女には感謝の気持ちしかないのだから。


 見た目は重要か?

 俺、クロード・レイ・グリンガルは今、そう聞かれたらこう答えるだろう。


 『重要だ』と。ただし、条件付きで

 

 なぜなら彼女の顔を見ているだけでこれほど胸が高鳴るのだから。

 彼女以外は見えないほどに。





●◆●



ヴィルヘイム王国史上、最も優れた王と王配はだれか?という議論は全くされない。


何故か?その答えはわかり切っているからだ


月夜のような銀と黒、その二人以外をあげるものは誰もいない。






★妹姫視点★


 私、アリア・ファン・ヴィルヘイムは、思う


 大国、ヴィルヘイム王国の次女として生まれた私は恵まれた容姿をしていた。


 幻想的な穢れ一つない銀髪、ぱっちりとした二重、男性の視線をくぎ付けにするような恵まれた体型


 幼い頃からどこに行っても人に褒められた。

 何もせずとも人は私を称賛し、周りに人がいないことは無かった。


 可愛らしい、美しい、愛しい。成長につれて言葉は変わることはあったが、称える言葉であることには変わりなく。

 いつしか、それを当然と感じて心動くことは無くなっていった。


 だが、いつしか誰かが笑いながら冗談のように放った言葉はやけに印象に残っている。


 私が優れた容姿で生まれたのは、姉がそうでないものを持って行ってくれたから。


 そうなのだろうか?

 そして、その日から私の中に姉を哀れに思う気持ちが無意識に生まれた。


 私が民衆に手を振る。姉よりも多くの人が笑顔で手を振り返してくれる。



 私が文官と政治について意見を交わす。姉の意見でなく私の意見が採用される。



 私が貴族の子息に挨拶される。姉より先に、姉より多くの人が私のもとを訪れる。



 ああ。やはりそうなのだ。

 私は素晴らしいものを全て貰い、姉は何も持っていないのだと。

 そして、それは容姿に限らない。全てのものがそうだったのだと。

 私と姉は光と影、太陽と月のような関係なのだ。

 

 彼女は気づかない。無意識に生まれた哀れみの気持ちは、彼女が美しくなるのと反比例するように、見下すような気持ちへと醜悪に育っていったことに。


 何もかもが称賛され、何をしても人を笑顔にした。

 成功の経験は私に活力を与え、今までよりも精力的に動くようになっていく。


 そして、姉は今までと同じようにそれとは対照的だった。

 王の選定が近づく中で姉が話題になることはほとんどなくなっていった。


 護衛騎士選定の日。姉が入室してくるのが見えた。

 既に私は公爵家の子息に囲まれている。やはり、彼女の周りには誰もいない。


 なんと可哀そうな人なのだろう。そう思った。


 護衛騎士選定は茶番に等しい。

 全てを持つ私の側に、全員が傅く。そして宰相がそれを当然のように見届けるのだ。


 そう思っていた。



 理解が追い付かない。 あの男は何をしているのだ?


 そして、私がそれを理解する間が無いうちに姉と黒髪の男は部屋の外に出ていった。



 そして、その日から全ては変わり始めていく。


 徐々に姉の名声が高まっていく。それと同時に私の目の前から人が少しずつ減っていく。


 公爵家の子息達は私の気を惹こうとしているのか口々に慰めの言葉をかけてくる。


「アリア様。ご安心ください。文官共にすぐに何か考えさせます。」


「アリア様。姉君の活躍はただの運です。直に世間も真実に気づきます。」


「アリア様。皆にお顔を見せに行きましょう。それだけで全て解決します。」



 私が動く。さらに人が減る。

 いつしか、私の目の前には、互いに罪を押し付け罵り合う三人しか残らないようになっていた。



 王位の投票結果が発表される日。

 既に結果はわかり切っていた。


 姉の姿が見える。人々は笑顔と共にそれを取り囲み姉の名前を叫んでいる。

 そして、その横にはいつもと同じく黒髪の騎士。

 柔らかにほほ笑みかける姉に優しい眼差しで応える騎士。

 

 黒が優しく銀を包み込む。まるで夜に浮かぶ月のようだ。


 私の前には誰もいない。子息たちは既に廃嫡された。新たな王からの覚えが悪いものは最早邪魔だったらしい。


 おそらく、私は何も持ってなどいなかったのだ。


 今の私には月の光さえ眩し過ぎる。

 夜が明けるまで眠りにつこうと、私は目の前の毒を呷った。


【読み手の方へ】

もし暇な方がいれば、今後の改善点等教えて頂けると助かります。

他作品で意見を下さった方本当にありがとうございました。今後も精進させて頂きます。



【書き手の方へ(または今後書かれる方へ)】

今まで私は読み専門だったのですが、ふと書いてみて、何かを書くというのがこんなに熱中できるものだとは思ってもみませんでした。特に、未だに長編作品を書き続けられているのは我がことながら信じられません(笑)

ですので、もし、今後何かを書かれるという方がいらっしゃって、この作品で使ってみたいというような部分があるようでしたら、自由にお使いください。(私も頂けた感想の意見を貰わせて頂いているので。)

ただ、私もいろいろな書き方を学んでみたいので、そういう方がもしいらっしゃれば書かれた後でもいいので教えて頂けると助かります。






※下記は作品とは関係ありませんので、該当の方のみお読みください。


【お誘い】絵を描かれる方へ

絵に合わせた作品を執筆してみたいと思っております。興味を惹かれた方は一度活動報告をご覧頂けると幸いです。

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― 新着の感想 ―
[一言] とってもよかったです!! 連載版が欲しいです!!
[良い点] 頑張り屋さんが最後に報われるみたいな話が好きなので全体的に面白かったです。 [気になる点] 1つ気になったのはアリアが死んでしまったことですね。 死というのは最大の罰であり、最大のざま…
[一言] 楽しく読ませていただきました。 姉姫の凪いだ静かな人となりにマッチした文章で、私には読みやすかったのですが、盛り上がりが足りないと感じる方もいらっしゃるでしょう。 これはもう、好みの問題か…
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